恋愛ワクチン 第百九話 善と悪(13)

菜緒ちゃんとのライン。

マックさん「教師のこと考えたんだけど、お母さんの暴力から救ってくれるかもしれないと思って近付いたら、逆に性暴力されちゃった、そこって『助けてくれる振りして助けてくれなかった』恨みもあるのかな?
だとしたら、僕との関係が再演だとしたら、菜緒ちゃんが僕に「助けて貰えた」って感じることがゴールなのかなと思ったので」

菜緒ちゃん「教師に関しましては一切恨みを持っておりません。
基本的に私は人に対して妬み恨みを持ったり怒りを感じたりすることはほとんどございません。
また、性被害は私の記憶が無いだけでその教師生以外、それよりも以前の幼い頃に遭っている可能性もあり、原因は必ずしも教師にある訳ではないかもしれません。
『助けて貰えた』と感じることはマックさんに依存しているということになり、それは本当のゴールにはなりません。
本当のゴールは自分自身が安全基地(安全基地とは心理学的用語です)になることで、即ち自分の力で地に足をつけて生き、なにか不安定になるようなことがあっても人に依存することなく自分自身の力で立て直すことのできる状態になることです。
沢山私のことを想ってくださってありがとうございます」

マックさん「僕は今3つの可能性を考えています。
前提としては、『教師が菜緒ちゃんを母親からの虐待から救ってあげる素振りだけして性的搾取し、優しく話を聞くだけで、何もしてくれなかったことに対して菜緒ちゃんが絶望し、それで解離が始まった』という私の解釈があります。
すなわち、最大のトラウマは『助けを求めたのにその教師が救出してくれなかったこと』です。
解釈が違っていたら、また指摘してください。
3つの可能性とは、
1)今度こそ、上辺の優しさでは無く、本当に救い上げて欲しいと願っている。
2)逆に、再び性的に利用されて終わることを、無意識が予定している。そして『やはり私を弄ばれるだけの存在なんだ』と確認したい。
3) 実は菜緒ちゃんが性的に積極的なのは、単に20才になってそれまで抑圧されていた性的好奇心が爆発しているに過ぎない。菜緒ちゃんは順調に治ってきていて、たまたまその途中に私が遭遇した。
です。
3)は、ずいぶん楽観的で都合の良い話ですが、可能性はあります。
もしも2)であるとしたら、その目的とするところは、自分を絶望に慣れさせることでしょう。
『男とはそういうもので、自分は弄ばれる存在なんだ』ということを日常化させる。
そうすれば少なくとも教師からのトラウマからは解放されるはず。ただの日常の一コマだったのだから。
しかしそれは自己を極限まで貶めることでもあります。
それに耐えられなければ別に生きていなくたっていい。むしろ自分が死んでしまうことが、自分に出来る教師への唯一の復讐なのかもしれない。
破滅的だけど有り得る話です。
今は生きることに前向きになっていますが、この3年間、そこまで思いつめたことって無かったですか?
その教師はカウンセラー気取りだったのかもしれない。
傾聴と相槌、共感した素振り。
今私が菜緒ちゃんにしていることと、どこが違うでしょうか?
自虐ではありません。
何が言いたいかと言うと「再演」です。
トラウマの再演とは、被害を受けたのと似た場面に、吸い寄せられるように向かってしまうことを言います。
私の存在はその教師と似ていないでしょうか?
おそらく菜緒ちゃん自身も気が付いていないかもしれません。無意識に突き動かされて再演は行われるからです。
「『自分自身が安全基地になる』『自分自身の力で立て直す』ことを明確に志向している点は、かなり回復してきている証拠だと思いますが、それだとなぜ今『再演』が行われているのかが説明できません。菜緒ちゃんの無意識が何をしようとしているのかがわからなくて不気味です。

菜緒ちゃん「それが、自分自身でも分からないのです。それで自身でも自分自身のことが不気味で恐ろしくて仕方がありません。
『自分自身を安全基地とする』ことを目標にするのはドクターがおっしゃったことで、私自身が志向したことではありません。そのためまだ私自身はそこまで自分自身を志向するほどの回復の段階ではないと思います。
つまり今行われていることが再演で間違いないと思います。
私自身がパパ活を始めようと思ったきっかけは、一番は自分で自分の人生をめちゃくちゃにしたい、という自己破壊願望です。(ヤケになっているのかもしれません。)
あるいは自傷行為の一環として行われているか、自殺欲求の延長として自分の人生をめちゃくちゃにしたいという願望があるのかもしれません。
その次にお金が必要だという願望です。
現時点で明確なのは自己破壊欲求とお金という数値に対するこだわりですが、私を突き動かすその深層心理は自分でもわかりません。
元々私は人に尽くす性格で、悦ばせるのが好きな性格なので単に男性を悦ばせたいという欲求があり男性を悦ばせるのを生きがいとしているだけなのかもしれません。
私のこの行動の理由はひとつだけではなくて、いくつもの出来事が複雑に絡み合ってできているのだと思います。
容易に説明はできなくて、マックさんのおっしゃってくださった1)〜3)の理由はどれも考えられると思いますし、今自身で説明したこともどれも間違いではないと思います。
教師とマックさんとの明確な差は、
1)利害関係が明らかであること(お金と対価に心身を売ること)
2)知性(私が申すのも恐縮ですがマックさんはずば抜けた頭脳をお持ちです)
でしょうか。
また、教師は実は話すら聞いて貰えず教師自身の話ばかりで、私自身が話を傾聴、共感し解決策を提案するという逆に教師をケアする立場にあったのです。
ですから、
3)話をする側かされる側か、ケアする側かされる側か
も違いであると思います。
少し話が脱線しますが、「ケアラー」という言葉があります。
精神的に問題のある親のもとで育った子どもは、常に親の顔色を伺い親に寄り添って生き抜いてきたので、人のご機嫌をとったり傾聴したりすることに長けており、自然と人のご機嫌を取り傾聴する、ケアする立場に回って生きていくようになるという現象です。
教師との差のお話に戻ります。
たとえそれがかりそめだったとしても、マックさんは私のことを『理解』しようとしてくださっています。
このことが教師との明確な差であると思います。
乱文失礼いたしました。睡眠薬を飲んでいた状態で書いたので、文章が不可解なものとなっているかもしれません。失礼いたしました。
そろそろ睡魔に襲われて文章が書けなくなってしまってきたので、失礼いたします。
明日、マックさんのお顔が拝見できるのをたのしみにしておりますね。

自分の役割が解ってきた。
菜緒ちゃんを「理解」すること、「理解」するように努力することだ。
以前、参謀兼秘書代わりのB子ちゃんが言っていたことを思い出した。
B子ちゃん「菜緒ちゃんがマックさんと関係続けることで、菜緒ちゃんが壊れるかどうかは措いておいて、少なくとも菜緒ちゃんは、これだけ自分に関心を寄せて理解しようとしてくれる人に出会えて、そこは嬉しかったと思うよ」
B子ちゃん自身も、私のそういう接し方によって救われたとのこと。
そうか、そう考えれば良いのか。
ちょっと気が楽になった。
善意とか悪意とかじゃなくて、相手を理解すること、理解しようと一生懸命努めること。
そこが一番大切なのかもしれない。
菜緒ちゃんを救うことは私自身を救うことでもある。
菜緒ちゃんがトラウマから解放されたいように、私もまた「性欲だけ=悪」という沼には沈みたくない。抜け出したい。
暗闇の中、二人で船を漕いでいる気分だ。
そして少しだけ灯りが見えたような気がする。
(続く)

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