恋愛ワクチン 第百七話 善と悪(11)
自分は優しい人間だ。
たとえパパ活といえども、相手にお金または安心感のようなものを与えている。
相手をも幸せにしているので、誰にも恥じるところは無い。
その自信が、菜緒ちゃんと言う、解離性障害の娘との出会いによって崩壊してしまった。
菜緒ちゃんは性欲を掻き立てる。関係を切ることが出来ない。
しかしそれは同時に彼女の「トラウマの再演」に付き合うことだ。
菜緒ちゃんは壊れていくだろう。
言い訳は出来ない。「相手をも幸せにしているから」という理屈でお茶を濁す余地が無い。
ご自慢の「優しさ」はどこへ行った?
あまり考えたくないが、ひょっとしたら「菜緒ちゃんを壊す」という残酷な快感さえも自分の中に潜んでいるのかもしれない。
自分自身が全く信用できなくなってしまった。
こう書くと随分悩んでいるように読めるが、実際のところはそんなでもない。
不思議と自己嫌悪も生じないし、「ああ、そういうことだったのか」と妙に納得する自分がいる。
ここで「解離性障害」や「トラウマの再演」の話を少しまとめておこう。
専門家では無いので、不備や勘違いがあったら御免なさい。
まず「解離」だが、暴力や性的虐待といった、受け入れがたいような体験に対する心の逃避として生じる。
体験というのは通常は、感情や理性で処されて「普通の記憶」となっていくのだが、処理しきれない場合、そのまま心の奥底に仕舞いこんで棚上げにするという防衛的な心の動きがある。しかしそれは同時に自分自身の感覚や現実感を意図的に封印することでもある。
その無理が「解離症状」として現れる。
具体的には、幽体離脱して高い所から自分を見下ろしているような「離人症」であったり、すでに過去のものであるはずの体験が、いま現実に起きているようにフラッシュバックして感じられたり、少し前の出来事をまったく忘れてしまう「解離性健忘」などである。
「性化行動」という言葉もある。
性的虐待を受けた子供が、自ら進んで危険な性的接触を求めにいく行動を言う。エロいパパ活女子の中には、性化行動が原因の人がいるかもしれない。
どうしてこんな行動をとるかというと、「トラウマの再演(追体験)」である。
「トラウマの再演(追体験)」とは、虐待を受けた人が、自ら同じ状況を再現して、今度こそうまく乗り越えようとする無意識の行動を言う。トラウマをなんとか昇華しようとする自己治療の試みといえる。
しかし再演の試みは、ほとんど失敗する。トラウマがさらに大きなトラウマで上書きされた結果に終わる。
性的虐待を受けた人は、Freeze(凍り付き)という反応をすることもある。
性的な行為を求められたときに、それを拒むことが出来ない。
いわゆる「断れない女性」だ。
悪い男の中には、こういった性化行動やFreezeを起こしやすい女の子を見抜く能力に長けた人がいるらしい。
これはなんとなく分かる。マックさんもたぶんその素質があるのだろう。
もっとも、単に性欲が強い女子というのも存在する。
首を締められたり足で踏みつけられたりっていう虐待のようなプレイが好きな女性に菜緒ちゃんの話をして「君も実はトラウマの再演をしているの?」と尋ねてみた。
彼女曰く、「私は物心付いた頃から、自分で自分を縛ってオナニーしていたくらいだから、先天的な性癖だと思いますよー」とのこと。
ちょっと安心。
菜緒ちゃんはと言うと、一人エッチはしたことがないし、自ら「私には性欲は無いです」と明言もする。
やっていることは、性欲の強いエロい女性とまったく変わらないにも関わらずである。
多分そのあたりが両者の違いを見分ける鍵なのかもしれない。
性欲に突き動かされているのか、あるいは性欲は希薄であるにもか関わらず「無意識」に操られているのか。
しかし、こういったトラウマの治療に携わっている精神科医やカウンセラーの人たちから見たら、パパ活で自ら体を売っている若い女性たちのほとんどが、「トラウマの再演」に見えるのじゃないか?
私の体感としては、パパ活の界隈は単に性欲の強い女子の方が圧倒的に多い。再演の子は十人に一人いるかいないかだと思う。
さて、それで菜緒ちゃんとは、その後もデートを続けている。
膣の処女は守っているが、お尻の処女は貰った。
菜緒ちゃんから「私のお尻の処女を買ってください」と言い出したからだ。
「買ってください」と言うところから、お金に困っているのではないかと考える向きもあるだろうが、菜緒ちゃんの場合はそうでも無さそうだ。
「買ってください」というのは方便だと思う。
その証拠に、私と体の関係になった後で、別の男性ともラブホに行って同じように舐めたり舐められたりしたのだが、男性が「お金のやりとりはしたくない」と言ったのでお金は貰わなかったとのこと。
「その男性とはまた会うの?」と聞くと、「誘われたら多分」と答える。
マックさん「なぜお金貰わないのに会うの?」
菜緒ちゃん「・・よく分からないけど、流されやすいからだと思います」
性化行動。無意識。トラウマの再演。
その男性に対しても、膣への挿入だけは、はっきりと拒んだ。すると男性が「お尻はどう?」と聞いてきたのだそうだ。
お尻でそんなこと出来るなんて、菜緒ちゃんは知らなかった。
それでアナルセックスについて調べて、次に私に会ったときに「お尻の処女を買ってください」となったのだった。
混浴温泉にはその後も行った。
常連のワニさん達数名に股間を広げられて処女のあそこを見せたり、ひとりずつに全裸でハグされたり。
私が命じた。
菜緒ちゃんは嫌がらない。むしろ嬉しそうな笑顔で私の指示に従う。
菜緒ちゃん「もっともっと、色んなことしたりされたりしたいです。△さんにもっともっと喜んで欲しいです」
運転中も相変わらず自分からフェラをしたがる。おかげでフェラさせながらの運転にも慣れてしまった。
どうせならと、助手席の菜緒ちゃんを全裸にしてフェラさせながら高速道を走ったこともある。
事故したら危険運転致死傷罪だし、通報されたり職質されたりしたら公然わいせつ罪だ。
そこは承知している。
しかし菜緒ちゃんが無意識に動かされているように、私もまた性欲に乗っ取られたゾンビなのだ。止めることが出来ない。
お互い大変な相手と出会っちゃったよ。
(続く)
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