しりとりで綴る交際倶楽部奮闘記3ラオス前篇

くらくら→ラオス

決してハルキストという訳ではないが、現役の作家では村上春樹を一番読んでいるかもしれない。

軽い読み物が読みたくて空港の本屋で機中での暇つぶし用に「ラオスにいったい何があるというですか?」を買った。

少なくともジョーは村上春樹の小説は気軽に読めない。

その点この本は紀行文集だし、さっと読めるだろうと思って手に取ったのだ。

早速機内でページをめくる。

基本ヨーロッパ・アメリカ中心の紀行文集で、表題のラオスだけが東南アジアだ。

そこで「ラオス編」である「大いなるメコン川の畔で」から読み始める。

枚数にして数十ページだからあっという間に読めてしまう。

他の紀行文集に比べると少し面白いエピソードには欠けるけれど(ハルキさんの紀行文では「遠い太鼓」が一番良かった)、ラオスには興味を持った。

ハルキさんが訪れたのは首都ビエンチャンではなく、仏教国ラオスの仏都というべきルアンパルバーンである。

市内は街全体が世界遺産になっていて東南アジアにありがちな喧騒とは異なる静かな街であるという。

「特に何もない」というのがかえって受けて近年欧米人に人気であるというのも興味を惹いた。

そしてハルキさんも体験した托鉢にも興味を持った。

ハルキさんは托鉢をすると

「心が洗われるようだった」

と書く。

ジョーはおっちょこちょいだから自分も体験したいと思ったのだ。

と思いながら降機してオサム君と打ち合わせをすべく新橋を目指す。

事務所のオサム君は少し日焼けしていた。

そして開口一番

「ジョーさん、僕この間、ラオスに行ってきたんですよ」

その偶然に驚きながらもすかさずジョーも切り返す

「ラオスにいったい何があるというです」

「さすが、ジョーさん知っていますねえ、僕もその本を読んで行ってみたんです」

と言いながら、ラオス産のコーヒとT シャツを手渡された。

「それでどうだったの?托鉢はした?」

「もちろんですよ。それが大きな目的の一つですからね。良いところだったなぁ。村上春樹はいいこと書いてますよ。托鉢をすると彼が言うように心洗われて全てに感謝したくなりますね。これまでの僕とは一味も二味も違う人間になって帰ってきました」

二人の間に笑い声が響く。

しかしジョーは心の中ではあまり笑えなかった。

ジョーの知るオサム君はジョー以上に煩悩の塊だからだ。

打ち合わせをさっさと終わらせ、ジョーは既に立ち上がっているパソコンでラオス行きのフライト予約をした。

夜はオサム君達と新橋で飲んだ。

「達」というのは、彼と付き合いが復活したミカちゃん、そしてナナ姫。

店は新橋の小綺麗とは言い難いサラリーマン御用達の居酒屋で、華やかな美人である二人は完全に浮いているし、廻りからは好奇の視線が浴びせられる。

しかし二人はそんな視線は関係ないように杯を重ねている。

4人ともそれなりに酔いが廻ったところでオサム君が黒ホッピー片手に切り出す。

「ジョーさんも僕のように真人間になるため、ラオスのルアンパルバーンに行くんだってさ。でも煩悩の塊であるジョーさんには無理じゃないかなぁ」

「おいおい、お前に言われたくないよ」

「そうですよ、ジョーさんはもう真人間じゃないですか。オサムとは違いますよ」

とミカちゃんがお愛想を言う。

ナナ姫は

「いいなぁ、私も行ってみたいなぁ」

と本気かどうかわからないことを口にしていた。

その居酒屋を出るとオサム君達とは別れ、ナナ姫と近くのホテルバーまで歩いた。

バーでひとしきり話し終えるとナナ姫が切り出す。

「来月私、ハノイに仕事で行くんですよ。その帰りにラオスで待ち合わせしょ!ダメ?」

本当はダメである。

でもナナ姫の「ダメ?」に「ダメ」で返す根性?はジョーにはない。

それでも今回は目的が目的だけに抵抗してみた。

「もう飛行機予約したんだよ。姫とは日程が合わないよ」

「えー、飛行機取り直せばいいでしょう?ねぇ取り直そうよぅ〜」

よく頑張ったぞ!ジョー(号泣)

ルアンパルバーンの空港は予想以上に小さくてイミグレートも名ばかり。

簡単な手続きでロビーに出た。

ハノイからの便は先に着いていたからナナ姫は既に待っていた。

本日の姫のお召し物は仏教国ラオスではご法度の露出度の高いイデタチ。

ジョーは昨年バルセロナのサクラダファミリアでの待ち合わせを思い出していた。

いつものようにハグをする。

その横にはホテルのスタッフが迎えに来ていた。

空港から15分ほどで予約したホテルに到着。

ルアンパルバーンでのお泊まりはハルキ氏も宿泊されたアマングループのホテルだ。

フランス統治下時代の病院を改装した西洋風と東南アジア風が程よくミックスされたホテルというのが売りである。

日本人スタッフもいて色々と案内を受けた。

ジョー達が訪れた時期は例年なら雨季に入っているが、今年は晴天続きで雨がほとんど降らないという。

実際滞在した3日間結局雨は降らなかった。

旅行者にとってはラッキーだが「農民たちは泣いてます」と言っていた。

案内された部屋はプール付きのコテージでなかなか素敵な部屋だ。

まぁ1泊800ドルだから当たり前か(アマングループの中では安い方ですな)。

因みにラオス国民の60%が年収300ドル以下だという。

つまりこのホテルは多くのラオス国民にとって1泊年収2年分以上するのだ。

このホテルを予約したのはハルキ氏のおすすめに従ったのだが、この段階で煩悩全開のジョーである。

荷物を置いて部屋にあるビールでまずは乾杯した後、ジョーも姫もプールが大好きだから、早速二人とも裸になってプールに飛び込む。

姫の体は相変わらずモデルらしく細身で引き締まっている。

プールといっても大きなお風呂くらいの大きさだから泳ぐというより浸かるという方が正しいかもしれない。

それでも雲ひとつない晴天の下少し冷たい水の中に潜るのは心地よかった。

そしてお互い裸で泳いでいるのだからひとしきり泳いだあとやることはひとつだけだ。

姫を抱き寄せるジョー。

いつも以上に官能的なキス。

そして沖縄のバルコニーに続いてここでもプールの中での立ちバックを決めたのだった。

ハイ、ジョーの煩悩は消えません。

一戦交えた後は(苦笑)、市内を散策することにした。

ホテルで自転車を借りて地図を片手に出発。

ナナ姫は日焼けNG だから色々と塗りたくって大きな帽子を深々と被り、お召し物も露出部分はほぼなく、完全防備。

この日は40℃近くあり、ギラギラした日差しは刺すようだ。

とにかく暑い。

ジョーも姫もこの時点で汗びっしょりだった。

ルアンパルバーン市内はせいぜい数キロ四方だから、2時間もあれば市内を廻れてしまう。

でもジョー達は市内に点在するお寺が見える度に自転車を停めお参りをした。

お寺は大小様々だが、その御本尊?は東南アジア系のスラッとした如何にも親しみのある、日本人の我々から見れば少しにやけた漫画チックな仏像が多い。

そして多くは立像である。

日本の仏像のような重厚感はないけれど、ジョーは東南アジア系の仏像が好きだ。

一見するとどのお顔も同じように見えるが、よく見ると寺ごとに特徴があり、面白かった。

ナナ姫は描く人だから持参したスケッチブックを開いて熱心にスケッチをしている。

そんな姫の横顔を見るのが立ちバック以上にジョーにとっては至福の時間なのだった。

それにしてもとにかく暑い。

I might not say so but how hot today is! (言うまいと思えど今日の暑さかな)なのである。

そこでメコン川が見えてきたところで河畔のカフェに入り、涼むことにした。

この辺りはおしゃれな?カフェが沢山あり、テラス席は西洋人を中心とした外国人しか見かけなかった。

英語やフランス語のほか中国語も聞こえてくる。

席に案内され、ラオスコーヒを注文。

冷たいコーヒが喉の渇きを潤してくれる。

ナナ姫は再びスケッチブックを開いて撮った写真と見比べながら、鉛筆を走らせている。

ジョーはといえば、ゆったりとしたメコン川の流れをただボーッと眺め、時々船が通過するとシャッターを切る。

確かにルアンパルバーン市内は何があるわけではない。

でもこんなのんびりした時間を過ごすのは久しぶりだ。

「出来た!どう?」


姫がスケッチブックをジョーの方に見せる。

「おお〜、上手に描けているね」

お世辞ではない。

ジョーはナナ姫が描く絵が好きだ。

しっかりとした線が特に気に入っている。

ワイン事業をサポートするくらいなら、姫の絵を買い上げたいくらいだ。

でも提案したら100%実行させられるので、言わない。

我ながら小さい(ち◯こじゃないよ)男である。

ホテルに帰った後は、シャワー代わりにプールへと飛び込む。

そして夕食のためにドレスアップ。

姫は白地に赤が散りばめられた鮮やかなドレス。

姫の美しさが一段と増す。

そしてホテル内のレストランへ。

日は暮れかかっていて、暑さが少し和らいでいたので、プールサイドのテラス席を希望した。

席に着き、まずはシャンパンで乾杯。

そしてラオス風のフランス料理?を楽しんだ。

どの料理も繊細な味で、特に野菜類が美味しい。

食事が進むにつれ日はどっぷり暮れ、テーブルに置かれた蝋燭の灯りが姫の美しいお顔を照らし出す。

やっぱりナナ姫との旅は楽しいな(後編に続く)。
 

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