交際倶楽部はじめました
思えば10年毎に節目を迎えている気がする。付属高校に進学したことで人生の方向性を決定づけた15歳、家庭の事情から学業を断念し就職した25歳。
そして35歳ももうすぐ終わろうかという頃に、交際倶楽部の存在を知ることとなった。
結婚や子どもの誕生は節目ではないのか、という当然の疑問には目を背けて、いくばくかの新たな楽しみを与えてくれたユニバース倶楽部での活動について試みに書いてみようと思う。
Contents
ユニバース倶楽部入会
入会して半年と少しが経った(執筆時点)が、そもそもは話を聞いてみようか、程度の気持ちにすぎなかった。
というのも当時プライベートで付き合っていた女性と別れたばかりで、ヒマを持て余していた。
いや、正直に告白すれば寂しかった。そして、肉嫌いの妻の代わりに一緒に焼肉やステーキを食べてくれる人を失ったのが痛かった。
そこで新たな出会いなり遊びなりを探そうと思い立つのだが、楽しそうな事のほとんどは都内に出向かないと味わえそうになく、地方都市(以下A市)在住の自分には少し億劫だった。
なにより夜遅く帰った翌日の妻が怖かった。
そんな中、A市に支店を持つユニバース倶楽部の存在を知るや、気になる。気になって仕方ない。
パパ活、という言葉すら知らなかった自分には未知の世界、
入会金やらセッティング料金ってどういうこと?
何が行われるの?
風俗とは何が違うの?
そもそも合法なの?
怪しみながらも興味だけが一人歩きして気がつけばA支店に連絡をしていた。
指定されたホテルラウンジ(地方都市によくある駅併設タイプ)に行くと、爽やかながらその場の雰囲気にそぐわないスーツ姿の男性スタッフX氏が待っていた。
ユニバース倶楽部を知った経緯から入会を検討するに至った動機を訊かれ、その後に彼から一通りの説明を受ける……が、わからない。
聞けば聞くほど疑問が増えていく。そんな私の様子を察したのか彼は「どんな女性が登録しているかご覧になりますか?」と優しく問いかける。
見ないことには始まらないよ。
でもね、見るためには仮登録が必要だよ。仮登録だけれども免許番号の記入や会員クラスの選択もしてもらうよ。でもここまで来たらやるよね? むしろやらない選択肢とかあるの?
実際にはこんなこと言われていないが、女性見たさに、いや見てしまったが最後、女性会いたさに普通の男ならば登録すると思う。気がつけば面談に先立ってATMで引き出した現金を封筒ごと手渡していた(現在は手渡しによる授受はできないそうなのであしからず)。というか、用意しているあたり入会する気満々じゃないか。
入会~初オファー
いざ登録女性を見せてもらうと、まずは女性の数の多さに目がくらむ。某アイドル集団の顔が記号にしか見えない自分には最初の数人以外が皆同じに見えてくる。
結局、ほとんどをX氏のお勧めに従い、4人にオファーすることにした。
1人だけ自分から能動的にオファーしたが、この女性との思い出は洗礼ともいうべき強烈なものとなった。
学生時代の元カノに似ているなどという理由で選んではならない良い教訓だが、これはまた次回にでも。
記念すべき1人目にX氏が選んだのはブラッククラスの女子大生だった。
曰く、名門大学に通う才媛ながら礼儀正しく性格が頗る良い。本当かよ。
そんな女の子がなんでこんな怪しげな倶楽部にいるんだよ。内心そう思っていた。そんな私の内心はともかく、差し当たり確認しなければならないことがある。
お手当はどうすればいいのか。
交通費は理解できた。
食事の時に渡すのね。
食事に適する店も気になるけれども、何より食後だよ。
どれぐらい渡すものなの?
そもそもホテルはどこにすればいいの?
シティホテル?
ラブホテルでいいの?
あぁ、わからない。というよりもすでに誘える気でいる自分が愚かしい。
あくまで平静を保ってX氏に尋ねる。
「こういうのっていくら渡せばいいの?」
「いやー、それは人によるので。というか言えません」
「え? じゃあ相場みたいなものは……」
「それもお会いになった女性との取り決めなので」
正確に再現はできないが、こんな感じの会話をしたように思う。その後も食事の店で候補を挙げると「あ、いいんじゃないですか」と適当な返答。
最近になってようやくいろいろ話してくれるようになったX氏だが、当時を蒸し返すと
「最初は様子見じゃないですか」
みたいにしれっと答える。そういうところ嫌いじゃない。嫌いではないが、もう少し教えてくれてもよかったのに。
そのせいで、というべきか、おかげでというべきか、1人目に会ったあい(仮名)さんに全部ご教示願うこととなった。
あいさんはもちろん、その後会うこととなる女性にも概ねその基準で渡しているが、今のところ落胆されたり怒られたことはないと思う。
あいさんとの出会い
結局あいさんとはA市内の駅で待ち合わせ、徒歩圏にある鉄板焼きの店で食事をすることとなった。待ち合わせ時間のきっかり5分前に電話が鳴る。あいさんだ。
待ち合わせ場所にいたあいさんは、白いコートを羽織り、女子アナといわれても違和感のない雰囲気を纏っていた。
正直なところ、可愛いすぎてサクラを疑ったぐらいだ。
もちろんそんな訳もなく、緊張の内に始まった食事も打ち解けるには十分すぎるほどの時間だった。
デザートも終わったタイミングで交通費を渡し、「この後どうしようか」と尋ねる。
他の男性会員の皆様が食事中にどのような話をし、どのように誘うのか非常に気になるところだが、私の場合は、食事中は雑談しかせず、食後に「どうしようか」と尋ねるだけである。
とにかく恥ずかしいのだ。
「お任せします」
と言われて、ひとまずほっとするものの、今度はどこのホテルに行けばいいのかわからない。
入会前に付き合っていた女性とはラブホテルや別宅だったが、まさか初対面の女性を別宅に連れ込むわけにもいかず、かといってラブホテルでは失礼にならないか、実のところお手当の金額よりもなによりも悩んだ部分だった。
答えの決まらないまま店を出て一緒に歩く。駅に着くまでに決めなければ、と思うのに結論が出ない。
かといって「ホテルどこがいい?」などと訊くのは野暮この上ない。30代も半ばを迎えて童貞のような悩みを抱くとは思わなかった。
そんな心中はおくびにも出さず、冷静なふりしてあいさんと話している内に駅に着いてしまった。
正解のわからぬままさも当然のように駅併設のホテルに入り、チェックインをする。彼女は少し離れたところでニコニコとディナーショーの看板を見ている。
どうやら正解らしい。
部屋に入り、二人椅子に腰掛けると新たな問題に直面する。
お手当はどうすればいいのか。後にスタッフにも驚かれたが、部屋に入るまでお手当についてまったく話をしていないのだ。
食事中にした会話といえば大学のことに彼女の好きな小説やアニメの話ぐらいしかない。
おそるおそる尋ねてみる。
「いくらぐらいがいい?」
そしてこの質問が迷走を生む。
「うーん、気持ちでいいです」
独身時代に付き合ってきた彼女に「何食べたい?」と訊くと「なんでもいい」と答えるくせにトンカツでも選ぼうものなら途端に不機嫌になる、そんな記憶がふいに蘇る。
さすがにこの年になればトンカツが不正解であることぐらいわかるが、このお手当問題は相当に深刻だ。
もし解答を間違えれば、目の前の女性はスゥッといなくなってしまうのだ。
「ごめん、初めてだから本当にわからないんだ。他の人はどれくらいなの?」
幸い、渋られつつもあいさんから教えてもらえたが、改めて文字にするとこの質問自体最低だな、と思う。
そして、ここまで話を引っ張っておいて恐縮だが、この日、私自身はどうやら機能しなかったらしい。
ちなみにあいさんとは現在もそれなりに仲良く続いている。
ネナシカコ