ナナ姫ノ事 2
【お母さんという人種】
いきなりの告白?で恐縮である。「気持ち悪い!」と揶揄されるだろうけれどジョーは自分の肉親の母親だけでなく、「お母さん」という人種全般が好きだ。
齢、五十を過ぎた辺りから、旧友と再会する機会が多くなった。ジョーの第一声はいつも「君のお母さん、御元気?」である。ジョーの「お母さん」フリーク振りを知っている旧友からは「オマエ、全然変わってない」と呆れられたり、感心されたりする。
いや、ジョーガ一方的にお母さんが好きなだけではない。大学生になって本格的?に彼女が出来た時も彼女の母親の方がジョーを認めてくれていたと思う。
それは結婚しても変わらない。妻の母親、つまり義理のお母さんは、かなり癖の強い人デ、敵が多い人でもあったんだけれど、ジョーとは馬が合い、いつも妻を不思議がらせていた。義母は亡くなる前、長期入院した事で?認知症が進行し、自分の娘達さえはっきり認識できなくなっていた。しかしジョーが見舞いに行くと「息子が来た」と言って喜び、血の繋がった人達を驚かせたり、嫉妬させたりした。但し、いい話なのはここまでで、義母が亡くなった後、騒動が勃発した。義母は遺言を残していて、そこには、血の繋がっていない人間としては唯一ジョーだけがメンバー入りしていた。ジョーは辞退するつもりだったが妻がそれを許さない。「どうしてお婆ちゃんの好意を無碍にするの!」という訳だ(妻がそう言う度にジョーは「お婆ちゃんじゃなくて、お母さんネ」と訂正したくなる。もちろん黙っていたけれど)。そうすると今度は妻の妹達が黙っていない。特に一番下の妹さんが急先鋒で「うちの旦那もお婆ちゃん(だからお母さんだって!)に可愛がられていたのに遺言に名前がないのはおかしい。この遺言書は贋物だ」と言い出す始末。結局この争いは相続手続き期限の直前まで続き、ジョーが何とか妻を説得し、ジョーが相続を辞退する事で解決した。
この一件で、ジョーは単なる「お母さん」フリークから、「ババァ殺シ」に昇格したのだ。但し、宇宙倶楽部に於いては殆ど全ての女性がジョーよりも年下で、その能力を発揮出来ないのは何とも残念だけれど。
姫トノ関係ハ一般的ニ言エバ(一般的ニ言ワナクテモ?)秘スル仲デ、特ニソノ親族ト交流スルノハ例外的ダロウ。シカシ姫ノ御母サンハ長年愛人トシテ生キテイタ人ダ。御母サンニハ三人ノ子供ガイル。姫ハ長女デ、男、女ト続ク。姫ト三人目ノ女子、ツマリ妹トハ半分シカ血ガ繋ガッテオラズ父親ガ異ナル。
ソンナ経歴ノ御母サンダカラ娘ノ男性関係ニハ鷹揚ナ人デ姫ガ結婚シタ後モジョーハ歓迎サレタシ、二人デ会ウ事モアッタ。タダ、今マデノ御母サント異ナリ、ジョーヨリモ三歳年下ダカラ彼女ヲ「由美サン」ト呼ンダ。
【由美サンカラノ電話】
声ヲ聞イテ 電話ヲ掛ケテキタノガ、姫デハナク、由美サンダトスグニ分カッタ。ソシテコノ電話ハ決シテ良イ知ラセデナイ事モ。
ジョーハ自分ノ予測ヲ否定スルタメニモナルベク平然ト応エタ。
「アッ、由美サン、御無沙汰デス。コンナ朝早クカラ何デスノン?」
「ジョーチャン、落チ着イテ聞イテネ」
二人ノ間ニ暫シ沈黙ガ流レタ後、由美サンハ言葉ヲ続ケタ。ソシテソノ言葉ハジョーガ予想シタ言葉ノ最悪ナモノヲ更ニ超エテイタ。聞キタイ事ハ万トアルノニ一言モ言葉ヲ発スル事ノ出来ナイジョー。ソンナジョーノ気持ヲ察スル様ニ由美サンガ次ノ様ニ告ゲタ。
「今、スペインニイルカラ、一旦、電話ヲ切ルワネ。ナナノ携帯ハマモナク解約スルカラ連絡ハ私ノ携帯ニ頂戴。イツ電話シテクレテモカマワナイカラ」
ソウ言ワレタケレドジョーガ由美サンノ携帯ヲ鳴ラシタノハ一ヶ月後ノ事ダッタ。
【ジョー、電話ノ後何時モノ様ニ土井善晴ノレシピデ味噌汁ヲ作リ始メル】
年ガ明ケテ、一旦引キ上ゲテイタ京都ニ戻ッテ来タ。再ビ五条ノアパートホテルデノ日々ガ始マル。京都ハ寒イ日ガ続イテイテ、長期滞在スル様ニナッテ、三度目ノ冬ダッタガマダソノ寒サニ慣レナイ。
起床ハ五時前。寒イダケデナク、真ッ暗デモアル。厚手ノランニングウエアーニ着替エ、清水五条マデ取リ敢エズ走ル。賀茂川ニブツカッタラ、一旦呼吸ヲ整エ、気分デコースヲ決メルノガジョールールダ。
ソノ日ハ賀茂川ニ沿ッテ御池大橋マデ走リ、橋ヲ渡ッテ御池通リト烏丸通リヲ経由シテ五条ノホテルマデ帰ッタ。ホテルノロビーニ着イタ時、時計ヲ確認スルト、六時半近クヲ指シテイタ。
前述シタ由美サンカラ電話ガアッタノハシャワーヲ浴ビタ後ダカラ、七時位ダロウカ。再ビ京都ニ暮スヨウニナッテ一週間ガ経過シテイタ。最悪ノ知ラセダガ、余リニモ現実離レシテイテ、全ク受ケ入レラレナイシ、ダカラナノカ悲シクモナカッタ。アノ姫ガ、世界ハ自分ヲ中心ニシテ廻ッテイルト考エテイテモ何ノ違和感モナイ姫ガ、自ラノ人生ヲ自ラ終ワセタ事ヲ理解シ、納得スルナンテ絶対無理ダ。
毎朝ノルーティーンヲ始メル事ニシタ。IHクッキングヒーターノスイッチヲONニシテ、椎茸ト利尻昆布デ取ッタ出汁ノ入ッタ鍋ヲ載セル。キッチンノ収納スペースカラ野菜(蓮根、南瓜、人参、大根、ネギ)ヲ取出シ、ボールニ入レ、有次デ買ッタ木製マナ板ノ上デソレラヲ適度ナ大キサニ切ッテイク。火ノ通リニクイ蓮根、南瓜ハ切ッタソバカラ沸イタ出汁ノ中ニイレ、大根、人参ト続ケタ。人参ハササガキニシ、ネギハ小口ニ切ッテ最後ニ入レタ。火ヲ止メル寸前ニ白ト赤味噌ヲ自分デ合ワセルガ、赤味噌ヲ多メニ入レルノガジョーノ好ミダ。残念ナガラ、卵ヲ切ラシテイルガ納豆ハアッタノデ添エタ。正確ナレシピデハナイガ、土井善晴氏ガ提唱?スル「オカズトシテノ味噌汁」ヲジョーハ実践シテイル。御飯ハ電子レンジ対応長谷園ノカマドサンデ炊ク。今日モ美味シイ朝食ガ出来タ。
御飯ト味噌汁ヲヨソイ、一保堂ノ御茶ヲ淹レテテーブルニ置ク。後ハ食ベルバカリダガ、ソノ前ニヤル事ガアル。
料理ハ下手ダケド余リ苦ニナラナイ。シカシ御片付ケハ苦手ダシ、嫌イダ。デモ京都デ一人暮ラシヲ始メタ時、姫カラ言ワレタ事ヲ実践シテイル。
「ジョーチャン、料理ハ手順ガ肝心。ソシテ作リナガラ片付ケルノモ重要。食器ハ兎モ角、調理道具ハ食ベ始メル前ニ洗ウ事」
オ腹ガスイテイタカラスグニ食ベタカッタガ、イツモノ様ニ、包丁トマナ板ヲ洗イ始メタ。スポンジニジフヲツケ、包丁ヲ強ク擦ッテイルト、フト気ガ付イタ事ガアル。コノ包丁ハ引越シ祝イニ、姫ガプレゼントシテクレタ物ダ。錦市場ノ料理道具屋、有次デノ映像ガ昨日ノ様ニ浮カビ上ガル。スルト突然、涙ガ溢レ出シタ。本当ニ突然デ、何ノ前触レモナイカラ、止メ方ガ分ラナイ。包丁ノ上ニ涙ガポタポタ落チテ手元ガヨク見エナイ。危ナイカラ、コレ以上洗ウノハ諦メテ、朝食ヲ食ベル事ニシタ。朝食ヲ食ベ始メテモ、涙ハ止マラナイ。今度ハ涙ガ味噌汁ノ中ニ落チル。ジョーノ味付ケハ基本薄味ダケレド、今日ハ塩味ガ効イテ、シッカリトシタ味ノ味噌汁ダッタ。
【涙ヲ拭イテ淀屋橋へ】
朝食ヲ食ベ終ワッテモ涙ガ止マラナイ。御茶ヲ飲ミ、食器ヲ洗イ終ワッテモ止メドナク、涙ガ溢レル。コレデハ出掛ケル事ガデキナイ。今日ハ東京カラオサム君ガ大阪ノ事務所ニ来テイテ、大事ナミーティングガアルカラ、休ム訳ニハイカナイノダ。ダカラ何トカ涙ヲ拭イテ、顔ヲ何度モ洗イ、泣イタノガバレナイレベルニナッタノヲ確認シテホテルヲ出タ。
清水五条駅カラ京阪ニ乗リ、途中七条デ特急ニ乗リ換エプレミアムカーニ座リ、淀屋橋マデ本ヲ開ク(全ク頭ニ入ラナカッタ)。十時三十分前、淀屋橋ニ着キ、ソコカラ徒歩数分ノ事務所ニジョーガ到着シタ時、オサム君ハ既ニ出社シテイタ。オ互イ短イ挨拶ヲ交ワス。彼ノ態度ヤ反応カラ姫ニ何ガアッタカヲ彼ガ知ッテイルノハ明ラカダッタ。オサム君ノ長年ノガールフレンドハミカチャンデ、彼女ハ姫ノ先輩デモアルカラ、彼女カラノ情報ダロウ。
ランチタイムヲ挟ンデミーティングハ続ク。我々ノ事業ハ今ガ正念場デ、問題ハ少ナクナカッタガ可能性モ大キカッタ。成否ハ我々ガ台湾ルートト呼ンデイタ実業家Tサンノ参加ニ掛カッテイタ。ジョーノ娘ノ旦那ハ台湾人デ、Tサンハ彼ノ叔父ニ当タル。Tサンハ我々ノ事業ニ興味ヲ持ッテクレタガ中々YESトハ言ワナイ。今日ハ三回目ノデジタル会議。オサム君ハ今日、何トカTサンニYESト言ワセルツモリデ、イツモ以上ニ鼻息ガ荒イ。
会議ハ英語デ行ワレタ。Tサンハ日本ヘノ留学経験モアルカラ、日本語モ流暢ダガ、彼ノ希望デ英語ヲ使ウ。ダカラ?英語ガ不得意ナジョーハ半分シカ会議ノ内容ガ分カラナイ(見栄ヲ張リマシタ。分カルノガ三割位)。
英語ガ不得意デモ会議ガ紛糾シテイルノハ分カル。ソレデモ剛腕オサム君ノ力デ最後ニ残ッタ懸案ヲ来月迄ニ解決スル事ヲ条件トシテTサンニYESト言ワセタ。ジョーハ殆ド黙ッテイタノデ、最後ニナッテTサンカラ発言ヲ求メラレタ。ジョーノメチャクチャナ英語ガ口カラ出ル。
「The issues you are concerned about, I will be dying to resolve by next month. I will not let you down.」
ジョーガ「I will be dying」ト言ッタ所デ、オサム君ノ強イ視線ヲ感ジタ。
オサム、ソンナ目デ俺ヲ見ルナヨ。大丈夫、心配スルナ、俺ハ武田鉄矢並ミニ死ナナイカラ。コノ発言ハ単ナル比喩ダカラ。
ジョーノ発言ヲ受ケテ、Tサンハ「ソノ言葉ヲ聞イテ私モ安心シマシタ。大船ニ乗ッタツモリニナッテ、死ヌ気デ待チマスヨ」ト日本語デ言ッタ。
Tサン、ソンナ嫌味ヲ日本語デ言エルナラ、次回カラミーディングハ日本語デヤリマショウヨ。
【If Joe was willing to die, a problem of that magnitude could be solved in ten days.】
「来月迄ニ」ト言ッタモノノジョーハ十日デ目処ヲ着ケルツモリダッタ。実際、十日後書類ヲ携エテジョーハ台北ニ飛ンダ。考エテミレバ、三年ブリノ海外ダ。
十日デ仕上ゲルナンテ我ナガラ大シタモノダ。何セ「I will be dying」ト大見栄ヲ切ッタノダカラ結果ヲ出サナイ訳ニハイカナカッタ。ジョーハ中学生以来「ヤレバ出来ル子ダヨ」ト言ワレ続ケタガ、還暦ヲ前ニシテ漸クソレガ証明サレタ。
台北ヘハ、マンダリント英語ノ堪能ナ娘ノ旦那、ツマリ義理ノ息子モ通訳トシテ同行シテ貰ッタガ、Tサントノミーティングハ全テ日本語デ行ッタ。契約書ニサインヲ貰イ、ホット一息シテイル間モ無ク、今度ハ大歓待ガ始マル。有名店ヲ貸切、親族郎党ガ集マッテ歓待スルノガ台湾流デ宴会ハ夜遅クマデ続イタ。「明日ハ温泉ニ連レテ行クカラ延泊シロ」トTサンガ言ウノヲ「予定ガアルカラ」ト言イ訳シテ何トカ振リ切ッタ。ソノ代ワリ?Tサンカラ大量ノ高価ナ(多分)御土産ヲ持タサレテ、帰国ノ途ニツイタノダッタ。
【ミカチャンカラノLINEニ心ガ騒ツク】
帰国シテカラハ腑抜ケ状態ダッタ。元来労働意欲ノ高イ方デナイノニ例ノ十日間ハ十年分位働イタ気ニナッテイテ何モヤル気ガ起キナイ。姫ノ事ヲ考エルト憂鬱ニナッタカラ、現実逃避ガ必要ダケレド、女ノ問題ヲ女デ解決シヨウトスルト逆効果ニナル事ガアルガ、今回ハマサニソウダッタ。エリコトモ,Gチャントモ華チャントモ勿論サツキトモSEXシテミタガ以前ノヨウニ楽シメナイ。
朝、目ヲ覚マスト先ズ姫ノ事ヲ考エル。心ガ何カデ塞ガサレタ様ニ重クナリ、ソレガ一日続ク。
今ノ所姫ノ事ヲ考エナイ朝ガヤッテクルトハ思エナイ。
ソレデモ生キナケレバナラナイ、当タリ前ダケド。
姫ト観タ「ドライブマイカー」ノワンシーンヲ思イ浮カベル。ドライブーマイカーはチェーホフノ「ワーニャ伯父サン」ヲ下敷ニシテ物語ガ進行スル。ソシテ原作ワーニャ伯父サンデ最モ印象的トサレルシーンガ映画デモ映シ出サレタ。ソーニャガワーニャ叔父サンニ語リカケル。
「ワーニャ伯父さん、生きていきましょう。長い長い日々を、長い夜を生き抜きましょう。運命が送ってよこす試練にじっと耐えるの。安らぎはないかもしれないけれど、ほかの人のために、今も、年を取ってからも働きましょう。そしてあたしたちの最期がきたら、おとなしく死んでゆきましょう。そしてあの世で申し上げるの、あたしたちは苦しみましたって、涙を流しましたって、つらかったって。すると神様はあたしたちのことを憐れんでくださるわ、そして、ワーニャ伯父さん、伯父さんとあたしは、明るい、すばらしい、夢のような生活を目にするのよ。あたしたちはうれしくなって、うっとりと微笑みを浮かべて、この今の不幸を振り返るの。そうしてようやく、あたしたち、ほっと息がつけるんだわ。伯父さん、あたし信じているの、強く、心の底から信じているの……。(ワーニャの前に跪いて、彼の両手の上に頭を置く。疲れきった声で)そうしたらあたしたち、息がつけるの!」
映画ヲ観タ後、ジョーハ原作ヲ読ンダガ評判通リ、コノシーンガ一番印象的ダッタシ、度々思イ返ス。ソウダ、「長い、長い日々を、長い夜を生き抜」コウ、ワーニャーヤワーニャ伯父サンノ様ニ。
「ほかの人のために、今も、年を取ってからも働き」、「そしてあたしたちの最期がきたら、おとなしく死んで」ユコウ。
ソレニシテモ、何時ニナッタラ、姫ノ事ヲ思ワナイ朝ガヤッテ来ルノダロウ。
ソンナ日々ヲ送ッテイタ、アル日オサム君ノ彼女デアルミカチャンカラ珍シクLINEガ来タ。
「ジョーサン宛ノナナカラノ手紙ハ何テ書イテアッタノ?」
ウム?ドウイウ事ダロウ?LINEダカラLINEデ返信スベキダロウガ我慢デキズミカチャンニ電話シタ。
彼女ニヨレバ姫ハ数通、手紙ヲ残シテイタソウダ。少ナクトモミカチャン宛ノ手紙ハ遺書ト呼ベル様ナ内容デハナク、「桜ノ時期ニナッタラ、京都デ女子会ヲシマショウ」ト結バレテイタ。不思議ナノハ日付ハ十二月ナノニ結局投函サレナカッタ事デ何レノ手紙モ姫ノ寝室ニ残サレテイタ。ソレヲ母親ノ由美サンガ回収シ、ソレゾレノ宛名ニ手渡シタトイウ。
ミカチャンハ「ジョーサンヘノ手紙ニハ何テ書イテアッタノ?」ト聞クガ答エラレナイ。ダッテジョーハ手紙ヲ貰ッテイナイカラ。デモソレヲ正直ニ言ウ事ガデキズ、御茶ヲ濁シテ電話ヲ切ッタ。
電話ヲ切ッタ後モ心臓ノ鼓動ハ速クナッタママダ。少シダケ落チ着ケタト思ッテイタガ、ミカチャンカラノLINEデジョーノ心ハ再ビ、騒ツク。ミカチャンハハッキリ言ワナカッタガ、姫ハ何人カノオトウサマ宛ニ手紙ヲ残シテイタヨウダ。ダカラミカチャンハジョー宛ノ手紙モ当然アッタト考エテ連絡シテキタノダ。
ジョーハ少ナクトモ姫ノオトウサマ方ニ嫉妬シタ事ハナカッタ。彼ラハ皆、ジョーヨリモ関係ガ長カッタシ、深カカッタ。中ニハ誰モガ知ル実業家モイタカラ財力ノ点デモ遠ク及バナイ。嫉妬シヨウガナイト思ッテイタ。
シカシ今ハ息ガ詰マル程ノ嫉妬ヲ感ジル。姫、ドウシテ〇〇サンヤ△△△サン宛ノ手紙ハアッテ、ジョーニハナイノ?ネエ、ドウシテヨ⁈
ホテルノ部屋ニ居タカラ声ニ出シテ聞イテミタ。勿論返事ハナイ。
【四条大橋ノ欄干ニ掴マッテ号泣スルトハ思イモ寄ラナカッタ】
心ガ騒ツイタノデ、ホテルノ部屋ニジットシテ居ラレナイ。日々寒サハ緩ミ、春ノ到来ヲ感ジサセル。
騒ツイタ心ヲ整エルタメニモ久シブリニ散歩ニ出テミヨウカ。北野天満宮ノ梅ハ見頃ニナッテ居ルダロウ。少シ距離ハアルガ、寄リ道ヲシナガラ歩イテ行クノモ一計ダロウト思イ、ホテルヲ出タ。
穏ヤカナ天気ノ週末ダッタ。ジョーハ五条通ヲ東ニ向カッテ歩ヲ進メ、賀茂川ニブツカッタ所デ河岸へ降リ、河岸ニ沿ッテ北上スル。賀茂川ハ浅イカラソノ流レハ思イノ外早イガ、近クデ聴クト水ノ調べガ心地ヨカッタ。四条大橋デ河岸ノ側道ヲ昇ッテ、四条通ニ出タ。祇園四条駅近クノ四条大橋ノ欄干ニ手ヲ掛ケ、北山連峰ノ峰々ニ目ヲヤルト姫トノ思イ出ガ溢レ出ス。ト同時ニ涙ガ溢レ出シタ。週末、日中ノ四条大橋ダカラ当然人出ガアル。ソレナノニ還暦前ノ冴エナイオッサンガ橋ノ欄干ニ手ヲ掛ケ、号泣シテイル。行キ交ウ人々ガジョーヲ奇異ナ目デ見ナガラ避ケル様ニ通リ過ギルノハ当然ダ。
姫ハコノ橋ヲ通ル度ニ、途中デ立チ止マリ、北山連峰特に愛宕山ヲ指差シ、イツモ同ジ話ヲシタ。
「愛宕山ネ、火伏セノ神様ヤネン。京都程、火事ノ多イトコアラヘンノニ。効験ハ疑問ヤケド、毎年七月三十一日カラ八月一日ハ千日詣ノ日デ、夜間登山ガデキルネン。イツカジョーチャント行キタイネ」
姫、僕ハ君ノリクエストニハ全力デ応エテキタヤンカ。セヤノニ、自分ガシタ約束ハ簡単ニ破ルナンテ大概ニシイヤ!話ハ変ワルケド、ソレニシテモ君ニ会イタクテ会イタクテ堪ラヘンノヤ。ドナイ、シタラエエノ⁈
結局涙ガ止マラナイノデ、北野天満宮行キハ断念シテソノママホテルへ帰ッタ。ソシテ夜、意ヲ決シテ由美サンニ電話シタ。
ワンコールデ由美サンハ電話ニ出タ。ジョーガ声ヲ発スル前ニ、由美サンガ喋リ始メル。
「ジョーチャン、ズット電話待ッテタノヨ。アナタニ見セタイ物ガアルノ」
「ナナサンガ書イタ僕宛ノ手紙デスカ?」
「アラ、ミカカラ聞イタノネ。手紙ノ事ハジョーチャンニ黙ッテナサイッテ言ッタノニ。ソウ、確カニアナタ宛ノ手紙ハナカッタ。デモネ、日本語デ書イテイタアノ子ノ日記ガ見ツカッタノヨ。アナタニハソレヲ読ンデ欲シイノ」
由美サンノ口調カラソノ内容ハジョーヲ更ニ苦シメル事ガ予想サレタ。一方デ抑エ難イ好奇心モアル。即答ヲ避ケナガラジョーハ言葉ヲ発シタ。
「読ムカ読マナイカ、モウ少シ考エサセテ下サイ。デモ一度由美サンニ会イタイデス、気持ノ整理ヲスルタメニモ。恐縮デスガ僕ノ泊マッテイルホテルニ御越シ頂ケマセンカ?」
「分カッタワ。来週末デドウ?時間ハ又オ知ラセシマス」
「承知シマシタ。無理ヲ言ッテ申シ訳アリマセン」
ソノ後モ少シダケ互イノ近況報告ガ続キ、電話ヲ切ッタ。姫ノ日記ニツイテジョーノ心ハ既ニ決マッテイタガソレヲ由美サンニ伝エル事ナク、ジョーハ電話ヲ切ッタノダッタ。