ナナ姫とフレンチ in 那覇 前編

1,予約

ナナ姫がリクエストしたレストランはジョーも知っていた。

沖縄の食材を使った新しいフレンチの旗手として、ドキュメタリー番組に取り上げられてからは予約が難しいという噂だ。

しかし誰であろうナナ姫のリクエストである。

ダメ元で店に電話してみるとたまたまキャンセルが出たとのことで、拍子抜けするほどあっさり予約が取れた。

ただし遅い時間なら席が用意できるとのことだったので、ナナ姫に時間を確認すると両手で大きく丸を作る。

うむ?この仕草、どこかで見たことあるなぁ。

確かあの時もそのあと、無間地獄に突入したはずだ。

そしてこの駄文をものしている現在はお察しの通り?ナナ姫とは終わっているから(涙)

「あの時予約がとれなければ、地獄に落ちることもなかったのに」

と思うけれど、その時点では

「キャンセルが、出て予約が取れるなんて、運命の出会いだ」

とほくそ笑んでいた。

我ながら学習能力ゼロのジョーだ。

そしてその後の悲劇を夢想だにせず、ジョーはすぐにナナ姫をホテルに送ってディナータイムに備えたのだった。
 

2,ジョーのおしゃれ

フレンチディナーだからナナ姫はめちゃくちゃオシャレしてくることが予想された。

ジョーの方と言えばまさかフレンチレストランに行くとは思っていなかったので、洋服の選択肢がほぼなく

シャツは父の日に娘からプレゼントされたパイナップル模様の入った(!)かりゆしウェアにドレスコードに引っ掛からないようジャケットを羽織った。

鏡に映った自分の姿は風采の上がらないおじさんでお世辞にもオシャレとは言い難い。

ただ靴はジョンロブ。

我ながら靴だけが浮いているような気がする。

予約した時間になったので、ナナ姫をホテルまで迎えに行った。

ロビーに現れたナナ姫は予想通りめちゃくちゃオシャレして登場。

グレーの上品なワンピース。
首にはネックレス。
バックはディオール。
そして赤のハイール。

女性用靴のブランド名には疎いジョーであるが高価であることはわかる。

さらに赤が差し色になってシックな服装に彩りを与えている。

ジョーを認めると手を振りながら近づいて来た。

「ジョーさん、相変わらず靴が素敵ですねえ」

他に褒めるところがないからなのだろうか、ナナ姫がお世辞を言う。

実は前回寿司屋の初対面の時も靴を褒められた。

そこでジョーは万一に備えて?新しいジョンロブを購入したのだ。

だから靴を褒められるのはとっても嬉しい。

「ナナ姫の靴もとっても素敵だよ。ワンピースの色合いとよくマッチしているね」

「ありがとうございます。フレンチレストランだから頑張ってオシャレしてきました!」

それでなくても容姿の点でジョーとナナ姫は不釣り合いだからそんなに頑張らなくてもいいんだけどな。
 

3,さすがのナナ姫

さて問題はフレンチだ。

食べ物の好き嫌いがないのはジョーの数少ない長所だと思っているけれど、フレンチを心の底から楽しんだことはない気がする。

テーブルマナーにも自信がないし、フレンチに行く時は今回のように緊張せずにいられない美女と同伴することが多いし、さらにヨコシマなことも考えているから食事を楽しめないのだ。

ソムリエに任せればいいのだろうけど、ワインの選択も苦痛だ。

ジョーには見栄を張って知ったかぶりをしてしまう傾向がある。

しかし結論から言うと今回初めてフレンチを楽しめた。

味がジョーの舌に合ったというのもあるけど、ワインその他の選択はナナ姫に全て任せたのが大きい。

というのもナナ姫は数年前1年ほど、フランス料理とワインの勉強のため、パリに留学(遊学?)していたからだ。

ジョーの出る幕はなく、見栄を張る必要がなかったので、料理を味わうことに集中できた。

それにしてもナナ姫のワインとチーズに関する知識は相当なものだ。

ソムリエと相談しながらワインを選択するナナ姫の発する言葉は確かに日本語なのだけれど(時々フランス語が混じった)内容はよく理解できなかった。

しかしナナ姫の選択は料理にもよく合い、間違いないのはよくわかったし、ナナ姫のウンチク聞きながら飲むワインはさらに美味しかった。

こうしてジョーは初めてフレンチを心ゆくまで堪能したのだった。
 

4,フレンチの後は

全く下心がなかったわけでないけれど、ナナ姫とベットインするイメージが湧かなかったし

素晴らしいフレンチでお腹が満たされ、これまた素晴らしいワインで心地よく酔いが廻っている状態ではジョーの場合、機能しないので、どのタイミングでナナ姫をホテルに送っていくかに頭を悩ませていた。

このレストランは便利な場所にあるとは言い難く、住宅街で廻りにお店はないから気軽にもう1軒というわけにはいかない。

デザートを食べ終わり、オーナーシェフが挨拶に出てきたタイミングで、タクシーを頼んだ。

行き先はナナ姫が宿泊しているホテル名を告げた。

もしナナ姫が許してくれるならホテルのバーで少し飲み直しても良いと思っていた。

ところがナナ姫から意外な提案があった。

「ジョーさん、今日はオサムさんのマンションにお泊りなんでしょう?ナナにも見学させてくださいよ」

そうなのだ、今日オサム君たちは宮古島だからオサム君所有の新しい街にある高層マンションの1室に泊まることになっていた。

所有者の6割以上が県外者で、那覇市内が一望でき、那覇市内で一番ステイタスの高いマンションと言われている。

なかなか機会がないからそこを覗いてみたいという気持ちは理解できるけれど、指を絡めながら潤んだ瞳でジョーを見つめるナナ姫。

彼女の真意は測りかねた。

しかしタクシーが来たので、二人でマンションへと向かった。
 

5,地獄への入り口

オサム君の所有する部屋は高層階にあり、そのマンションの中でもステータスの高い部屋だ。

リビングからは那覇市内が一望できる。

100万ドルとは言えないけれど、遠くに海も見えて、少なくともジョーの気分はすっかりいい気分になっていたし、ナナ姫も感嘆の声をあげる。

ひとしきり夜景を楽しんだ後、窓際のソファーに二人で腰をかけた。
ナナ姫は自然とジョーにもたれかかり、ジョーの手を指でなぞる。

予想外?の展開に驚くジョーを尻目にナナ姫の顔が近づく。こうなればやることは一つだ。
どちらともなく口を合わせる。

柔らかいナナ姫の唇に我を忘れるジョー。

最初は遠慮がちだったキスがやがて大胆になっていく。

長い長いキスの後、ナナ姫は口を離し、ジョーに囁く。

「ジョーさん、お願いがあるんですが、聞いてくれますか?」

今から思うと、ここが地獄への入り口だった。

いろんな意味で大きな代償を払うことになるキスだった。
 

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