ブラッククラスを科学する その 3
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「これぞブラックだ!」思える女性だった。
「こいさん、頼むわ」と名作「細雪」で大谷崎こと、谷崎潤一郎は関西弁を使って書き出した。
東京の日本橋生まれの谷崎であるが、関東大震災以後関西に移住していた。この時点で既に大作家の評価を受けていたが、関西移住以後、関西弁を自分のものとし、さらに作家としての名声を高め、その地位を不動の
ものとしたとジョーは思う。
さて 3 人目のブラック女性はコイさんだ。オファーした別のブラック女性に前日キャンセルされ、ピンチヒッターでやってきたのがコイさんだった。
ジョーにとってピンチヒッターは NG ワードのはずだった。というのも愛しの(苦笑)サクラちゃんもピンチヒッターでやってきてその後はご存知の通り?
無間地獄を歩むことになったからだ。しかしスタッフから強く勧めらたし、そもそもキャンセル嬢とコイさんと迷ってキャンセル嬢にオファーを出したという経緯もあったので提案を承諾した。
相変わらず学習能力の低いジョーである。
ピンチヒッターということもあり、あまり期待せずにいた。コネを使って予約した店をキャンセルするのは忍びないというのもあった。
前から行きたかった店なので「今日はそこそこの美人と肉を食べて帰るか!」という位の気持ちだった。
しかし待ち合わせ場所のホテルロビーにやってきたコイさんはプロフィール画像の2割り増しのいや、3割り増しの美人でジョーにとって
「これぞブラックだ!」
思える女性だった。
その上、育ちの良さそうな、上品で清楚な雰囲気を醸し出している。仕事帰りなのだろう、スーツ姿であるが、その着こなしと色合いがコイさんの魅力を引き立たせていた。
全くもってジョーの好みの女性だ。
ゲンキンなもので、一気にテンションが上がるジョー。と同時に柄にもなく一気に緊張した。うまくしゃべれるかしら。
スプマンテの泡がジョーの舌を滑らかにしてくれる。
ジョーを認めたコイさんはゆっくりと近づいて来て深々とお辞儀しながら
「ジョーさんですよね?初めまして。コイです。今日はよろしくお願いします」
と挨拶をした。
いつもならお世辞と軽口を交えながらそれに応えるジョーであるけれど、ストライクど真ん中の女性を前に舌がうまく廻らない。
それじゃあとばかり、コイさんもいけるクチというのでホテルラウンジで乾杯することにした。
ここのラウンジにはホテルラウンジとしてはリズナブルな、しかし美味しいスプマンテがある。
そして期待通りそのスプマンテの泡がジョーの舌を滑らかにしてくれる。
そこでいつものように自己紹介をして共通の話題を探るジョー。
それに応えてコイさんの方も問わず語りに自己紹介を始めた。
コイさんはやはり恵まれた家庭のお嬢様だった。両親とも高名で立派な方だ。
後で知ったことだが両親もご兄弟もそして本人も高学歴でもある。それでいてオタカクとまっている感じはなくて、口調も適度にフランクでスプマンテ以上にジョーの緊張をほぐしてくれる。
立ち振る舞いも優雅で洗練されていて美しいのはその容姿だけではないのがわかる。
美人は 3 日で飽きるんじゃない、40 分だ!
よく「美人は三日で飽きる」と言われる。ユニバースクラブ男性会員でおそらく最も有名な?シゾンさんはそのブログの中で「美人は 3 日で飽きるんじゃない、40 分だ!」と喝破されていてジョーも同感だ。
だが例外もある。ジョーにとっての例外がコイさんだ。
コイさんは全く見飽きない。
それどころかその後、何度もデートすることになったが見飽きるどころかその度ごとに新たな美を彼女に見出すのだった。
例えば美術館の帰り昼間からぬる燗をやりながら美味しそうに蕎麦をすする口元に。
日付が変わる頃某レストランで待ち合わせをし、その地下にあるワインセラーでカンテラを使いながらワインをチョイスするためそのラベルに目を凝らすその目元に。
これまた某所でお気に入りの仏像を前にしてコイさんが微動だにせず立ちすくむその後ろ姿に。
或いは歌舞伎を観に行った時、道行きの場面でふと彼女に目をやるとその頬に涙が伝わっていてジョーの差し出したハンカチでそれをそっと拭く仕草に。
これらの瞬間瞬間にジョーはいつも魅入られていた。そんな時ジョーは「君は美しいねえ」と唐突に口に出してしまうので、コイさんを苦笑いさせてしまう。
もちろん彼女の苦笑いも美しい。
話し方やモノの考え方に到るまでいつも母の影を見る
時々なぜ自分はこれほどまでにコイさんに惹かれるのだろうと考えることがある。
それはコイさんの中に亡き母を見出すからだというのがジョーの出した結論だ。
容姿の点では母とコイさんは似ても似つかない(母の名誉のためにいうと母も美人でした)。
しかしコイさんの立ち振る舞いや趣味、食べ物の嗜好、そして話し方やモノの考え方に到るまでいつも母の影を見るのであった。
ジョー自身は元来粗野で上品とは言い難い人間である。あまりの違いに子供の頃は「本当にこの人の子供なのだろうか」とよく思ったものだ。
と同時にあまり成果は出ていないけれど母からの影響を強く受けた。
曲がりなりにもジョーが芸術全般を楽しめるのは母のおかげだ。
美術館も舞台も音楽会もよく母に連れ出された。苦痛なことも退屈なこともあったはずだけど(特に能や文楽)、母と出かけるのは楽しみだった。
そのあとに必ずレストランに連れていってもらえたから。
ただしジョーにお店の選択権はなく、母の好みが優先された。生春巻きに目を白黒させトムヤンクンに悲鳴をあげ、クワスに顔をしかめた。
こうした苦行?によりジョーの舌は作られた。そして母の嗜好とコイさんのそれはとても似ている。
だからコイさんと食事をするのはいつも楽しい。母と同じくコイさんも少し癖のある食べ物が好きだ。
料理に合わせてお酒を楽しめるのもコイさんの大きな魅力の一つである。自然、話も弾む。
その内容は高尚な話題から下世話な話題、時には下ネタまで多岐に渡った。
ジョーがあまりに包みくさず自分のことを語るからなのだろうか、コイさんもポツポツとだが自分のことを語り始めるのだった。
「ブラック」という言葉の2つの意味
あえて辞書では調べていないが「ブラック」という言葉には大きくいって2つの意味があると思う。
一つはユニバース倶楽部の場合もそうだが例えば「ブラックカード」のように最高ステージを意味する使い方だ。
一方で「ブラック企業」のように批判・非難の対象とする使い方もある。
繰り返しになるが前者の意味で彼女を「ブラック」と評価することにためらいはない。
その容姿だけでなく立ち振る舞い、人当たりも「ブラッククラス」に相応しいと思う。
しかし彼女の心の中は他人にはうかがい知れない深い深い漆黒の闇が拡がっているのである。
この点でもコイさんはジョーの知る限り最も「ブラック」な女性だ。
誤解のないように付け加えれば腹黒いという言葉はコイさんの場合には全く当てはまらないと思う。
むしろ情も深く打算も少ない優しい女性だ。ジョーには人とは大きく違う人生経験があるわけでないが、いやだからこそというべきかもしれないが、ジョーにとってコイさんは謎の存在である。
その謎については次回のコラムでしかも書ける範囲で綴りたいと思う。
ジョー