京都はおいしくてエロいという説3

【お茶をはじめた理由】
京都での二重生活?を始めたとき、幾つか新しいことに挑戦したいと思った。お茶はその中の一つだけれどもはじめた理由はお茶に呼ばれたから。もちろん直接的なきっかけは幾つかあって敬愛する作家いしいしんじさんの「旦坐喫茶」を読んだこと、いとしのさっちゃんが長年お茶のお稽古に励んでることが挙げられる。だからお稽古の場にスッと入ることができた。しかし今にして思えばかなり昔からずっとお茶に呼ばれていた気がする。お茶は呼び合い呼ばれるものだ。そして実際にお茶を始めたのがこの地だったのは機が熟したということなのだろう。はじめたばかりのジョーが口にするのはホント厚かましいけれど、お茶の極意は「おもてなし」にある。さまざまな作法もそのためにあるから、一つもおろそかにすることはできないし、省略できない。このことを知っているだけで、お稽古に臨む意気込みが全然違うと思う。


【毎週のお稽古のこと】
ジョーの先生は初老の凜とした女性である。とにかく姿勢がいい。ジョーはまだ始めたばかりだからポンコツだし、覚えも悪いから人より時間がかる。それでも先生は温かくジョーを見守る。そういう人なんだろう。「ジョーさんはお茶に向いている人だ」とも言う。どの辺りが向いているのかは、全く分からないけれど、おおらかな先生のお陰もあって、今のところ楽しくお稽古している。そしてお稽古は週2回。その日は午前の部、午後の部、夜の部に分かれていて、いつ行ってもいい。都合が付けばジョーは朝から晩までいることもある。人も入れ替わり立ち替わりで、みんな仲良しだ。お昼を呼ばれることもあるし、夜のお稽古が終わったあと、先斗町辺りに飲みに行くこともある。お茶を始めてから、京都の知り合いが一気に増えた。多分いいことばかりではないんだろうけど、そのネットワークは質量共にデープである。ところで先生は一人なんだけど、生徒さんが多いから、助手の先生も何人かいらっしゃる。さっちゃんもその一人だ。そして助手の元締め?は大先生と共にいつも着物を着ている波瑠美先生。お父様が京都では有名な会社を経営していて、その右腕として活躍する実業家でもある。忙しいはずなのにお稽古を欠かすことはない。40歳過ぎの派手なつくりの美人だけれど、人を寄せ付けないような雰囲気を持っていて、本音を言えばジョーはちょっと苦手な先生だ。だからある日の朝稽古終わりに波瑠美先生からランチに誘われたのは意外だった。もしかしたらさっちゃんと付き合っていることを咎められるのかもしれないと思う。いつか話さなければいけないとさっちゃんは言っていたし(それには別の意味があることを後から知ることになるのだけれどこの時点では知る由もなかった)こういう機会もなかなかないだろうから、ご一緒することにする。当然他の生徒さんも同行するのかと思ったら二人だけだったので、ちょっと躊躇したが今更断るわけにも行かず、波瑠美先生が呼んだタクシーに乗り込んだのだった。


【花見小路沿いのイタリアンへ】
その店は花見小路沿いを一本入ったところにある。お茶屋に挟まれた店で、外観からはイタリアンレストランには見えない。ドアを開けると、伝統的な京町家の文法に則った造りで、長い廊下が続く。両脇にはワインセラーがあり、そこを抜けると部屋が広がっている。四つの席があるが互いの席は目線が合わないように配置されていて、空間は仕切られていないけれど、個室のような雰囲気がある。二階には文字通りの個室もある。波瑠美先生は常連なので、男女スタッフが入れ替わり挨拶にやってくるがそれを適度な距離感で受け流す波瑠美先生は見た目同様Sキャラだ。おもむろにワインリストを受け取り、そしてジョーに一言。「この店でワインを飲まないのは犯罪だから、料理に合わせてワインを持ってきてもらいましょう。」もちろんN Oと言えるはずもないけれど、望むところではある。ランチタイムはアラカルトがなく、おまかせのコースのみのようだ。まずはシャンパングラスが目の前に置かれ、トスカーナ産のプロセッコが注がれる。きめ細かい泡と黄金の液体が美しく早速乾杯。フルーティーでフレッシュな甘さが口の中に広がる。アルコール分が低いとのことで、ジョーのような呑兵衛には少し物足りないけれど、食前酒としてはこれくらいの方がいいのかもしれない。続いて前菜は生ハムと桃、アスパラを使ったサラダ。アスパラはサッと湯に通しただけらしく、食感と味わいが素晴らしい。意外だったのは桃との相性で、適度な甘さがアスパラと生ハムの塩気をまろやかにする。これまでサラダとフルーツの組み合わせに疑問を持っていたジョーだがその先入観を一新してくれる一品だ。この料理に合わせていただいたピアモンテ州産白ワインも素晴らしかった。次の皿はイワシのカルパッチョ。数種類の野菜が添えてあり、見た目も美しい。この店もまた野菜の使い方が素晴らしく、単なる付け合わせの役目だけでなく、独立したおいしさを醸し出している。ジョーは柄にもなく時々「おいしいとはどういうことだろう」と考えることがある。未だ結論は出ないけれど、野菜が重要な役目を担っていると睨んでいるがどうだろう?その後はもう一度魚と野菜を合わせた料理に二種類の少量パスタが続く。
メインは鹿の肉のステーキに安納芋のつけ合わせ。

ジョーは牛、豚、鳥以外の肉を美味しいと思ったことはなかったが、この鹿は例外だ。獣臭さがないのは当然としても柔らかいのに歯ごたえがあり、肉の風味をしっかり感じることができる。脂肪分がほぼないから少し物足りなさもあるけれど、それを補って余りあるのが安納芋。その自然な甘さもさることながら、肉のような食べ応えもあり、最高の付け合わせかつ独立したおいしさを演出している。やるな、安納芋!合わせたのはもちろん赤ワイン。リオハ地方産のぶどうで醸造された高級赤ワインで実は波瑠美先生が持ち込んだもの。「日本ではなかなか飲めないのよ」と言われるとさらにおいしくなるような、そうでないような複雑な味わいだった。


【食後の四方山話】
最後のデザートはティラミス。先般世界一のパンナコッタを食べたばかりなのに、今日は世界一のティラミス。ダブルエスプレッソで締めてごちそうさま。大満足のランチになった。ただ食べるのに忙しく、食事中は波瑠美先生との会話に花が咲いたとは言い難い。親しい間柄とは言えない先生と二人だったというのもあったし、さっちゃんと付き合っていることを報告する?タイミングを測ったていたということもある。結局そのことは言わなかった。デザートを食べ終わった段階になって波瑠美先生の方が問わず語りに自分の身の上話をし始めた。一部は噂で聞いていたり、何となく察する事柄もあった。波瑠美先生は妾腹の子供で、父親とは離れ、成人するまでは母と二人、東京で暮らしていた。だから先生の口から京言葉はほとんどでない。ところが先生が大学を卒業すると同時に父親は波瑠美先生を京都に呼び、それ以来ずっと自分の手元に置いている。大学を卒業して間もない頃に京都で結婚もしたが、ここ5年は別居中で旦那さんは東京にいるそうだ。お子さんは男の子と女の子の二人(双子)。二人とも今春東京の大学に進学し、先生の旦那さん、つまり父親と暮らしているという。旦那さんと別居しているのはもっぱら仕事の都合で夫婦関係は悪くないようだ。その証拠に忙しい合間をぬってお互い行き来している。そんな話を聞いていると波瑠美先生の印象が少し変わってきてジョーの緊張も少し解けてきた。波瑠美先生もそんなジョーの様子を見て「ジョー様、(さっちゃんがそう呼ぶので、波瑠美先生も真似していた)この後時間ある?私の好きなお寺にご案内したいのよ。ジョー様もきっと気に入ると思うから」という。16時に夜のお稽古前のさっちゃんに会う約束(つまりセックスする約束)をしていたから、「一時間くらいなら」と答えると「10分後にうちの会社の車が迎えにくるから、車で行きましょう。最終的にはご指定の場所までお送りしますから」有無も言わさない物言いだったからジョーは何も言えなかった。
【トヨタセンチュリーで鯖街道を北上す】
店の前に古いトヨタセンチュリーが停まっていた。波瑠美先生とジョーが店から出てくると、運転手が後部座席のドアを開け、波瑠美先生が奥に、ジョーが手前に座る。シェフも含め、店の人が総出で見送っているから、ジョーまで偉くなっったような気分だ。「サイトウ、ご苦労様。上高野まで行って頂戴」「かしこまりました」20数年前の古い型のセンチュリーが静かに走り出す。運転席まわりは全てアナログだが重厚感のある丁寧な作りだから古さを全く感じさせない。しかしながら乗り心地はよいが居心地がよいとは言えない。波瑠美先生と運転手サイトウとの関係が「ショウワ」の匂いしかしないからだ。この車内の空気感は令和の時代にはテレビドラマでしか味わえないだろう。まあ波瑠美先生にとってはごく自然な関係なんだろうけど。車はいわゆる鯖街道を北上していく。このまま走れば大原を抜け、福井まで通ずる道だ。もちろんはセンチュリーはそのずっと手前で左折し小さな寺の駐車場に車は停まった。サイトウがドアを開け、ジョーに続いて波瑠美先生が車を降りる。サイトウは直立不動で、「いってらっしゃいませ」と我々に深々と頭を下げた。


【紅葉で有名な小さな寺】
その寺は紅葉する時期の庭の見事さでかつては「知る人ぞ知る」寺であったが、SNSの時代になってみんなが知る寺になり、観光シーズンには入場も制限されることもある。今日はまだ9月上旬だったし、平日だからなのだろうか、我々以外に誰もいなかった。山門を入ると庫裏まで石畳が続く。周囲は紅葉で囲まれ、今は青々と茂っているが、紅葉の時期には赤く燃えるような風景が広がるだろうと想像させる。いつもならジョーはスタスタ歩いてしまうのだけれど、波瑠美先生は着物だから、その歩調に合わせて受付までゆっくりと歩いた。庫裏入り口すぐのところに受付があり、靴を脱いで上がり、拝観料を払う。庫裏は書院と一体化していている。受付奥は畳間の書院となっていてこの寺自慢の美しい庭が眼前に拡がる。まだ残暑は続いていて連日30度をはるかに超えていたが庭と一体化した緑がこの大広間に清涼感を与えていた。思わずため息が漏れてしまうほどの凜とした美しい場所だ。波瑠美先生に促されて畳に座る。本当は寝転びたいところではある。お行儀はいいとはいえないけれど、ここで昼寝をしたら気持ちいいだろうな。

波瑠美先生は姿勢正しく、正座をして庭を見つめている。

ジョーも最初はアグラで座っていたが、正座にして前を向いた。書院からは写真を撮ってもよいらしいので、スマホのシャッターをきる。しかしここの凜とした美しさはジョーの腕では写すことができないので、目に焼き付けることにした。二人の間にしばらく沈黙が続く。そして波瑠美先生が「庭に降りて、本堂へ行ってみましょう」と言われるので、後に続いた。池には鯉が数匹泳いでいる。我々の気配を感じると近づいてきて口をパクパクさせる。波瑠美先生の解説によれば庭は浄土宗の作庭法則に従い(ただしこの寺は天台宗)池の対岸に浄土を描き、池は「水」の形になぞらえているという。池の右手に小さな本堂があり、中央と右に意匠を凝らした古い厨子がありいずれも扉は閉まっていた。中央は御本尊で釈迦如来像、右は不動明王。どちらも秘仏で見ることはできないが、そのことがかえってこのお堂の神秘性を高めている。しばらく佇んでから、もう一度庭を通って書院へ帰ろうとしたその時、先を行く波瑠美先生が振り返り、ジョーに声をかける。「ジョーさま、サチコ先生とお付き合いされているのね」あまりに唐突だったので、ドギマギしたが、これほど単刀直入に尋ねられるとは思ってもみなかったので、あれこれと言い訳のしようもなく短く「ハイ」と答えた。すると波瑠美先生が「わたしもなのよ」という。サンドウィッチマン富澤並みにちょっと何いってるかわからないジョー。そんなジョーの怪訝な顔を察したかのように波瑠美先生は続ける。「わたしもサチコ先生とお付き合いしているの。わたしは男性では満足できない体なのよ」
【それからさっちゃんとの逢瀬】
帰りの車内はほぼ無言。ジョーの頭の中はいろんな思いが駆け巡りまとまらない。車を降りる間際になって波瑠美先生が「秋深くなったら、今度は3人で行きましょう」と言ったのは覚えている。さっちゃんとの待ち合わせ時間には30分近く遅刻した。ロビーで待つさっちゃんの顔を見て、今日ジョーに何があったかを知っているのがわかる。荒々しくさっちゃんの手を引っ張り、部屋へ。すぐにカーテンを開け、窓際に手をつかせ後ろからスカートをたくし上げる。五条通は渋滞までは行かないけれど、短い車間距離で車が次々と走り去っていた。Tバックを横にずらす。そして硬直したジョー自身をずぶり。この段階でさっちゃんの秘部からはいやらしい液体が溢れ出している。いくらドーピングしているとはいえ、ジョーがこれほど素早く硬直することはなかなかない。チャックを下げただけで、ズボンも脱いでいないのだ。「ジョー様、もう許して」というさっちゃんの言葉がジョーの心に火をつける。そして激しいピストンを繰り返しお互い最高の絶頂を迎えたのだった。


【そしていつもの結論、でも…。】
結論はこれまでと全く変わらない。しかし「エロい」のレベルが今までと全く異なる。ジョーには寝取られ願望があり、過去には何度か実現してきた。その場合、本音を書けば興奮はしても嫉妬心を掻き立てられたことはほぼなかったと思う(少なくともジョーはそう思い込んんでいる)。ところが帰りのセンチュリーの車内でジョーの心(頭?)に巡った感情はこれまでとは全く異なるものだ。「嫉妬」という言葉が近いのだろうけれど、この言葉の意味だけでは収まらない感情である。それにしてもと思う。「京都はおいしくてエロい」と。ただし今後の展開は必ずしも明るくないと予感するジョーであった。

 

このカテゴリーの関連記事

  • 外部ライターさん募集
  • ラブホの上野さん
  • THE SALON
  • join
  • ユニバースサポート