A氏の入会面接 ~リスク管理~
1.入会面接
ユニバースクラブへの入会を決めたA氏は、Webフォームから申込を行った。
通名、メルアド、携帯電話番号、面接に都合の良い日時を入力する。
程なくして、メールで、連絡があった。
「身分を証明する書類と名刺をご持参下さい」
当日指定されたホテルのラウンジには、30分も早く着いた。気合い入りまくりである。
時間になると、携帯電話が鳴る。面接のお相手は、ベストを着用した青年である。
ホテルのティールームの隅、目立たない場所で、iPadを見せられながらシステムの説明を受ける。あらかた、ホームページで予習してきた内容であった。
目立たない場所とはいっても、ホテルに勤務する女性は、何が行われているか完全に把握している。
コーヒーがサーブされるタイミングでは、A氏は話を中断する。自意識過剰である。
女性候補の一覧写真も見せていただいたが、あえてしっかりとは見なかった。
(後の楽しみにとっておこう・・)
入会に際し、自分の趣味やクラブに期待することをアンケート用紙に記入する。
面接官は、名刺・免許証と一緒に、サインした誓約書をiPadで撮影している。
(この情報は生涯残るのだな・・)と思うと、身が引き締まる思いである。
面接および入会手続きは、小一時間で終了した。
2.個人情報の管理
後で聞けば、名刺の提出は絶対的な義務ではなかったらしい。
(出さなければ良かった・・)
また、男性側プロフィールは女性側に詳しくに公開されるわけではないので、気合いを入れて書きまくる必要は無かった。
後にクラブの匿名質問箱で確認したところ、本名が記された誓約書等は、PDF化され、原本は破棄されるらしい。
PDF化されたデータは某所で永久保管されるという。社長の家か、貸金庫だろうか。
そして、クラブ内のやりとり(セッティング等)においては、本名はデータとして扱われず、すべて登録したクラブネーム・メアド・電話番号で処理されるのだという。
末端(?)のクラブ職員は、登録男性の住所本名を知ることは無いという。
すばらしい仕組みではないか。これが本当ならば、少しばかりは安心できる。
A氏は、趣味で株などをやっている。最近は全然であるが、アベノミクスの時は、結構儲かった。
かつて、A氏がいつも使っている証券会社の末端技術者が、顧客リストを持ち出していたという事件があった。誰もが知るかなり大きな会社である。
彼は、A氏の個人情報すべてを知っているのだ。
その技術者は、何ら法的な裁きを受けていない。謝罪文数枚の郵送で終わりである。会社も告発していないのだ。
ユニバースクラブのように、個人情報が末端で匿名化されていれば、このような事件は起きえない。
この仕組みならば、デートするお相手の女性にも、本名・住所・勤務先などは伝わらないと考えてよいだろう。
あとは、会社(クラブ)を信用するしかない。
3.お会いする際の情報リスク管理
女性に会う際に、A氏が行っているいくつかのポイントについて列挙する。やり過ぎというご意見もあるかと思うが、思考実験も入っている。
・普段使いの携帯電話を使わない
家庭での団らん中、突然電話されるかもしれないし、女性自身や、女性の知人が携帯電話会社に勤務していれば、番号から一瞬で検索が可能である。
・ブラステル(コンビニでカードが配られている。050から始まる番号)等のIP携帯電話の番号を取得する
これを利用して電話の着信を受けるためには、一般的なキャリアによる認証が必要であり、追跡される可能性はあるものの、ブラステルに勤務している職員よりも普段使いの携帯電話会社代理店(例えばdocomo)に勤務する職員の数が圧倒的に多いはずである。
・更に、IP携帯電話番号は、普段使っていないサブの携帯電話で使う
普段使わない090等の番号を持つ端末に、050の番号が相乗りする形になる。初回セッティング時以外は、職場の金庫等に保管し、電源を入れない。
・スマホの位置情報を切る
・個人・法人問わず、自ら所有する車では出向かない
陸運局に行けばナンバーから身元が割れる。どうしてもの時は、レンタカーを使う。
・もしも自己所有する車で出かけるならば、ドラレコの電源を切る
・クラブへの送金は銀行口座を使わない現金振込で行う:通帳に記録を残さない
・店の予約時には、クラブネームを使う
本名で呼びかけられるリスクがある。
・店の支払では、クレジットカードを使わない
覗き見されるかもしれないし、本名で呼びかけられるかもしれない。
・ラインではやりとりしない
一度会った後は、電話でのやりとりをしない。すべての連絡をパスワードで保護された電子メールを使う。読んだら即削除する。
・免許証などが入った財布は、肌身外さない
風呂場などにも持って入る。可能ならば、現金のみを持ち歩く。
・極端な話、現金と家の鍵しか持ち歩かない
つつもたせがホテルに押しかけてきても、身元が分からなければ、繰り返し脅されることはない。その場で口を割らずに走って逃げる。有り金全部渡して許してもらう。きっと命までは取られないだろう。
・携帯は番号でロックする
顔認証や指紋認証では、縛られるとか寝ている間に解除されるかもしれない。
・写真を撮らせない
・たまに後ろを振り返り、尾行がついていないか確かめる笑
・検索されやすい情報を出さない。
これらの工夫を組み合わせることで、お会いする方に対して、自らの情報を秘匿できる。
テクノロジーの利用によるサービスの高度化・細分化により、絶対匿名の愛人の擁立も不可能では無い時代となったのである。
4.疑似恋愛フリーパスポート(入会日)
入会面接が終わり、帰宅する。
ベッドで横になり、早速メアドと設定したパスワードを入力し、クラブのページにアクセスしてみる。
夥しい数の、女性の写真・特徴・交際タイプ・動画などが一覧表示される。
看護師、CA、モデル、AV女優、イベントコンパニオン、女子大生、OL、料理人、主婦・・。
こちらの都合の良い日時で、複数人に対する予約をまとめて入れることができる。
何だこの世界は。
頭がクラクラする。
女性はクラブの登録に際し、費用を払っていない。男性は、入会時と、紹介毎に手数料をクラブに払う。
この点は、出会い系アプリと同じである。しかしクラブでは、男性が、高属性の女性を、こちらの都合の良い日時を先に提示して、思うがまま選べるが異なる。
しかも、女性側は写真等すべて公開しているが、男性側はほとんどの情報を女性側に知らせる必要が無い。
出会い系アプリと、真逆の構造である。
出会いが少ない/苦手な人間にとって、人一人と知り合いになる為には、目に見えない部分も含め、相応のコストがかかるものだ。
仕事においてもそうだ。ヘッドハントを行う場合、職種によるが年収の20~40%の人材紹介料を盗られる。年収500万の人間に対しても、100~200万を都度支払っているのだ。
(ぼったくりである)
それに比べて、2~10万円のセッティング料は、高くは無い。
クラブ自体の運営コストを考えると、まことに良心的である。
(安いに越したことはない)
話は戻って、出会い系アプリばかりではない。世の中においては、表面上、女性が男性を選ぶ構造になっている事が多い。
男性は、常に女性に対して請う立場であった。
クラブでは違う。
一見すると女性が請われるのを待っているように見えるが、男性側に最初の選択権があるのだ。
男性が、女性に請われている。
コペルニクス的転回である。
A氏はそっとブラウザを閉じた。
(とても一日では見切れない・・)
A氏はこの日、好きな相手と、好きなときに、好きなデートをできる、「疑似恋愛フリーパスポート」を手にしたのだ。