私的心ジョー風景〜ついにサクラちゃんと、でもの巻〜前編
センチメンタルな思い出が詰まっている
×月×日
さくらちゃんと銀座で待ち合わせ。
本日のディナーは老舗のロシア料理店。元々渋谷にあった店だが数年前に銀座に移転した。
移転してからは初訪問。渋谷にあったこの店を初めて訪問したのはおそらくまだ小学校に上がる前、亡き母に連れられてだ。
母の実家は渋谷にあった。祖母は躾のとっても厳しい人だったので母の実家に行くのは憂鬱だったが、唯一の楽しみがこの店に連れて来てもらえることだった。
大人になってからも機会があれば足を運んでいたが移転してからは足が遠のいている。お
味や店の雰囲気は変わって懐かしい思い出が汚されるのが怖かったからだ。しかしふと思い立って立ち寄ってみることにした。
新店は商業ビルの7Fにあり、思ったより小ぶりである。
渋谷時代より座席数は少ないんじゃないだろうか?場所は銀座だし、値段は上がったんだろうなあ。
予約した旨を伝えると若いウエイターに席まで案内される。
この間の所作は渋谷時代を彷彿させる。
このウエイターは若いけれど、この店には層の厚い常連がいることをよく分かっている所作だ。
それは教育の賜物だから経営方針にブレはないのだろう。
ちょっと安心した。席に着くと別のウエートレスがメニューを持ってきたのでドキドキしたながらメニューを開く。
懐かしい料理が並んでいる。変わってないというのが第一印象。
キノコの壷焼き、シャシリク、バーブシュカ、クワス、母が大好きだったメニューが健在である。
泣きそうになった。
「さくらちゃん、この店は僕にとってセンチメンタルな思い出が詰まっているから正直味を客観的に評価できない。もしかしたら口に合わないかも」
「ジョーさん、心配しないで。ここに来るのは初めてだけど、ボルシチは通販で買ったことがある。とっても美味しかった」
それじゃあとばかり、懐かしいメニューを片っ端から頼んだ。
珍しい?ジョージア産のワインで乾杯。
運ばれてきた料理はどれも素晴らしい。
というか食べる前から美味しいのは分かっている。
担当のウェイトレスも昔と変わらない痒い所に手が届くような接客。
タイムスリップして母との楽しい食事が頭の中で蘇る。
しかし目の前にはさくらちゃん。知り合ったのは数ヶ月前だけれど、昔からの知り合いで思い出の料理を食べているような錯覚に陥った。
母がこの光景を見たらどう思うだろう。
やっぱり怒るだろうな。
母は妻を自分の娘のように可愛がっていたから。
まあ、さくらちゃんも美味しいってくれたし、まあよしとしましょうか。
あっ、よくないかも。
明日は早いので、ホテルのバーに寄って解散。
お手当てはいつも通り。タクシーに乗せる前のハグがジョーにとっては射精。本日もスッキリしました(苦笑)。
シュタイフ社のテディベア
×月×日
本日からドイツ出張。毎年1度地元の経営者仲間とビジネスチャンスを求めて海外へ出かける。
幹事は持ち回りで今年4回目。空港に集合したのは6名。
うち一人はジョーの会社の社員、晃太郎。
彼は高校時代ドイツに留学経験があり、ドイツ語が堪能ということで同行させた。
この種の海外視察というと物見遊山と思われるかもしれないが、いたって真面目な視察だ。
6泊8日の旅程でドイツ4都市を廻り、やや大げささに言えば、分刻みのスケジュールで同一行動が基本。
唯一の息抜き?がサッカー観戦。
仲間の一人が熱烈なサッカーフリークで、日本代表に名前を連ねる選手が所属するチームのゲームを観戦する予定だ。
昨夜さくらちゃんに
「ドイツ土産は何がいい?」
と聞いたら
「シュタイフ社のテディベア!」
と即答された。
なんじゃそれ?とばかりネットで調べてみると1880年創業でドイツの高級ぬいぐるみの由。
日本支社もあり、ネット通販もあるけれどサクラちゃんによれば
「ドイツの方が値段は格段に安いし、ドイツでしか買えないものある」
と言われた。
「女の子ならみんな欲しがるよ」とサクラちゃん。そうなのか?
娘にぬいぐるみを要求されたことはないな。バットやグローブはたくさん買わされたけど(苦笑…娘は野球少女でした)。
そしてサクラちゃんは自分の部屋の写真を見せる。
ぬいぐるみだらけで女の子らしく綺麗に整理された部屋だ。
専用の棚を付けたりしてあちらこちらに鎮座なさっている。サクラちゃん曰く
「3人分(人なんかいな!)のスペースの余裕がある」
と言われた。
というわけでジョーの最重要ミッションはぬいぐるみを買うことになりました。
早く会いたかったのはぬいぐるみでしょ?
×月×日
ドイツ到着後はとにかくタイトなスケジュール。そして中身も濃い。しかしジョーの頭の中はぬいぐるみで一杯。同一行動が大原則だから一人だけ別行動する時間がほぼない。
その僅かな時間(夕飯までの小休憩)をぬってデパートに走る。
通訳として晃太郎も連れて行った。
色々聞きまくって(晃太郎がですが)目的のおもちゃ売り場に到着。
クリスマス前だからなのかぬいぐるみ売り場は親子連れで占拠されている。
その中を掻き分けながさくらちゃんがご要望なされた大きさの3体(人?)をゲット。
晃太郎も「彼女にプレゼントしたい」と言い出したので、彼の分も支払った。
シメて550ユーロ。約7万円。高いか安いか全くわからん。
しかし今回の最大のミッション?が無事終了した。
決して口にできないけどこの時点でジョーにとっては後の視察はどうでもよくなっていた。
×月×日視察は日程がタイトで少し慌しかったけれど、特に大きな問題もなく終わった。
フランクフルト解散の後は、一人でリオン→ブリュッセル→パリと移動してヨーロッパを堪能。
精進落とし?をして帰国の途につく。しかしながら帰国してからが本番だ。
×月×日
羽田到着後はそのまま国内線ターミナルに移動。
時差ボケも何のその、サクラちゃんと初旅行だ。北へ向かうのだ。
サクラちゃんは少し遅れて待ち合わせ場所である空港カウンターにやってきた。
キャリーバックを手にして小走りにやってくる彼女が遠目に見える。
ジョーはこの瞬間が大好きだ。
サクラちゃんは息を切らしている。
まずはハグ。サクラちゃんの匂いがする。
「ジョーちゃん、ごめん、待った?」
「走ってくることないのに。時間は余裕だよ」
「ジョーちゃんに早く会いたかったからね」
早く会いたかったのはぬいぐるみでしょ?とジョーは心の中で呟くけど口には出さなかった。
「少し早いけどチェックインしてラウンジでビールでも飲もうか。ご対面式しよう」
「嬉しい!」
チェックインの後はラウンジへ。
ビールで乾杯の後は、ジョーのキャリーバックからぬいぐるみとチョコレートを取り出した。
「はい、ご所望の品」
「ありがとう!開けていい?」
「もちろん」
歓声と共にサクラちゃんに満面の笑みが広がる。
素晴らしい笑顔だ。このためにジョーはタイマイを叩いているのだ。ちょっと切ないけど。
「ジョーちゃん、ありがとう!嬉しすぎるよ!」
ほっぺたにキスされた。柄にもなく赤くなるジョー。これ以上いいことってあるのかしらん。
後編に続く。