「ジョー・ルビコン川を渡る」の巻その1
それは待ち合わせの2 時間前に起こった。
その時ジョーは新橋駅前の会議室で11 月末に行うイベントの打ち合わせをしていた。
ジョーにとっては勝負をかけたイベントだから夜の初セッテングのことは頭になく、打ち合わせに集中していた。
いや、嘘はよくないな。朝から(正確にはセンティングOK のメールを貰ってから)そのことが頭から離れない。
待ち合わせ先にも指定したホテルにはアーリーチェックイン済み。打ち合わせに出かける前にはシャワーを入念に浴びたし、下着だっておニューに履き替えたし。
もちろん歯磨きだって忘れてないよ。
お部屋はエグゼクティブなんちゃらだから浴室広めで、二人で湯船に浸かってもお湯は溢れないさ。
万一に備えてお湯の張ってない風呂に服を着たまま入りあんなポジション、こんなポジジョンの練習もしたさあ(笑いたければ笑えばいいとよ、ジョーの座右の銘は「戯れせんと生まれけむ」じゃけん!)。
ジョー、53歳の秋、必死です。
そんなジョーの私的心像風景は打ち合わせの相手であるオサム君(45 歳、おじさん。本名)にはバレバレだったようだ。
不敵な笑みを浮かべながら「ジョーさん、何だか嬉しいそうですねえ」と言われてしまった。バレてる。
オサム君は変なところで察しがいい。でも君、もう少しその能力を仕事に生かしてくれないかなあ。
そんなこんなで打ち合わせは最終的な詰めの作業に入っていた。
Contents
キャンセルの連絡
いつもなら打ち合わせが終わるまで携帯を切るジョーであるが、10%くらいの確率でドタキャンがあると言われていたし、その場合は何か連絡があるだろうから携帯はマナーモードにせずにおいていた。
果たして未登録の番号からの着信。悪い予感?は当たるもので、俱楽部からオファーした女性が体調不良でキャンセルの由。
しかし全国12支店で絶賛展開中のユニーバース俱楽部である。その後の対応は素早かった。
「ジョー様、初オファーですのに本当に申し訳ありません」
「いえいえ」(あなたのせいではないしいね)
「もうお店などご予約いただいていると思いますので、本日伺える別の女性をご紹介させて頂きました。プロフィールを登録いただいているメールにプロフィールを送りましたので、ご確認くださいませ。普段はシークレットの女性です。」
「シークレット」を最後に付け加える辺りが心憎い。
早速メールを確認してみるとプロポーション抜群の20 代半ばの女性が現れた。
美人というより可愛いタイプの女性だ。
紹介文にあった通りの育ちの良さそうな明るい女性という印象。
交際タイプはC でクラスはプラチナム。そして燦然と輝くG カップの文字。断る理由がない。
ジョーがオファーした女性はゴールドだったから、差額はどうなるのかなと思っていると、メールには次のようにあった
「今回は突然のキャンセルですので、追加のセッティング料金は頂きません。こちらの件はどうぞご内密にお願いいたします」
ラッキー。次回からはキャンセルねらいだな(ブラックユーモアです)。すぐに俱楽部にコールバックし、セッティングをお願いした。
待ち合わせ場所へ
こうなったら、オサム君には用がない。
「最終の詰めはまた明日ね」と言い残し、オサム君の非難の視線は軽く無視してタクシーに乗ってホテルへ。
約束の時間までにはまだ1 時間ほどあったので(苦笑その1)
エグゼクティブなんちゃらの部屋に帰って再びシャワーを浴びる(苦笑その2)。
●●を特に念入りに洗う(苦笑その3)。
普段はほぼ使わないコロンを体にかけ(苦笑その4)ロビーへと向かった。
ややあって写真より数倍可愛い女性が目の前を通り過ぎる。緑のニットに白のスカート。
普通のOL が仕事帰りにホテルに寄ったというイデタチで、粧し込んでいるという感じからはほど遠いけれど、紹介文にあったように、上品な雰囲気が漂う。
二人で歩いても後ろ指さされるようなことはないだろう。前に回って声を掛けるジョー。
少し驚いた仕草を見せるサクラちゃん(サクラちゃんと命名しました。オサム君と違ってもちろん仮名です)。
そして満面の笑み。ジョー、この段階で既にやられました。
「あっ、ジョーさんですね?お待たせしました?」
「いや、僕も来たばっかり(嘘、15 分前到着なり苦笑その5)。サクラちゃんはお酒飲めるんだよね?」
「好きです。そして強いです」
「いいねえ、この後は寿司屋を予約しているけど、まずはここのラウンジで乾杯しよう」
「嬉しいです」
席に案内され、スパーリングワインがグラスでオーダーできるというので、スプマンテで乾杯。
スプマンテの泡が、緊張を適度にほぐし、舌を滑らかにしてくれる。
まずはジョーから自己紹介をする。
小さな会社を経営していること、地方在住だけど、月に一度くらい東京出張があること、クラブ活動は出張時の楽しみにしようと思っていることなどを矢継ぎ早に話した。
サクラちゃんはしっかり目を見て適度に相槌を入れながらジョーの話を聞いてくれる。
そんなやり取りの中で、共通の趣味があることもわかった。その話でひとしきり盛り上がる。
距離もグッと縮まった感じだ。楽しいな。
さて、空気も温まったことだし、ここらで軽くジャブを入れてみますか。
「サクラちゃんってさ、サイトではG カップって表記されていたけど、それほどあるようには見えないね」
「私、仕事柄(サクラちゃんの仕事は秘密)セックスアピールはご法度なんですよ。だから胸のラインが出ないように気をつけているんです。でも脱いだらスゴイですよ!」
「見せてくれるの?」
「それはジョーさん次第かなあ。ウフフ」
ジョーはユニバース俱楽部では新参者なれど、愛人活動は10 年近くになる。
それなりにお金も使ってきたし(先輩諸氏から比べたら微々たる金額ですけど)この活動の酸いも甘いもある程度知っているつもりだ(特に酸いの方に詳しい。苦笑…えっと、何回めだっけ?)。
だから見えるのだ、サクラちゃんへと続く道は地獄に通じる道であることが。
そしてその道には多くの死体が横たわっていることも。でも地獄へ通じる道って、甘美なんだよなあ。
綺麗で良い香りのする花が咲き乱れてるし。一見するととても地獄へと通じている道とは思えない。
でももう引き返せないだろうなあ、参ったなあ。って、全然困ってない、ジョーなのであった!
次回
以上「ジョー、ルビコン川を渡る巻その1」でした。続きはまたの機会に!