A氏の入会前まで ~家庭生活での不満~

1.現在の生活

A氏は、現在の生活に概ね満足している。

衣食住足り、かわいい子どもがいる。私企業での地位は高く、A氏の気まぐれで会社は手足のように動く。

年休は実質160日間。銀行口座の残高は今はただの数字の羅列でしかない。使い道がない。

A氏は、40を前にして、このところ急速に物欲が無くなってしまったのに気づいた。
あんなに物欲の塊だったのに、現在の自宅には衣類以外、自分の物がほとんど無い。
車も時計も、必要最低限を残して、ほとんど売ってしまった。

今までは、物を手に入れる事で、満たされない心の中の何かを満たしていたのかもしれない。その必要が無くなってきたのだ。

A氏の宝物は、写真や文章といった過去の記憶である。
すべてが一台のノートパソコンと、クラウド上のバックアップに格納されている。

もし火事かなにかで全て所有物が燃えて灰になっても、これだけ残れば全然困らない。

A氏にはさし当たり、ほとんどのストレスが無い。ただし、納得のいかない点が一つあった。

ありがちながら、妻であった。
 

2.家庭での不満

会社では、顎一つで沢山の配下が動く。
A氏の意思決定を取り付ける為に、一日数十回のやりとりがある。

かたや、家庭ではどうだろうか。早めの時間に帰る。

「お帰りなさい」は無い。

目も合わない。

「なんで一番忙しい時間に帰ってくるの?」が第一声である。

文句をいいつつも、妻は手早くA氏の夕食を温め黙って供する。

「おいしいね」

「・・・」

返事は無い。

その後A氏は、細心の注意を払い、妻的に間違いの無いタイミングで、子どもを風呂に入れるのであった。

妻は、結婚前からの仕事の頻度を減らして続けている。
同時に、子育ても頑張っている。

しかし頑張りすぎて、育児のための時間調整のためにかなりの時間を費やしている。
多くを抱え込みすぎる。その時間に話しかけようものなら、爆発する。

子どもを作る前、A氏は妻と約束をした。「子どもが生まれても、僕に対する対応を変えないこと」

約束はあっさり破られた。というより、約束そのものが存在しなかったことになっているようだ。
 

3.妻との夜の生活

妻との間に、大人の関係はもはや無い。

妻は、動物的である。

産後あるいは育児期間中、女性は性欲が減退し、恋愛モードから育児モードになるという。

これはホルモンの成せる技であるが、それを表面上は隠匿し、夫婦間であっても多少は演技を行うものではないだろうか。
ヒトは社会性を備え、本能のみで行動しないからである。

ところがA氏の妻は、子どもの愛くるしさを人質にし、動物的に、本能のまま振る舞っているように思われた。

かなり前、A氏は久々に妻に性的なアプローチをかけた。何度も「眠い」「疲れている」と言われ、断られた。
というか、怒られた。

時期をおき、A氏はめげずに、アプローチをかけた。
マナーを保ち、女性として妻を扱った。

ところがである。

終盤にさしかかり、A氏は妻の笑い声を聞いた。

妻はスマホを見ながら、誰かとのラインのやりとりを見ながら笑っていたのである。

A氏にとって妻は、大恋愛をした相手である。

かつては異性として、敬われ、請われていたのだ。
しかし、妻の現在のステージは、もはや別の次元にあるのだと悟った瞬間であった。

家庭内の事は家庭内の事だ。
詳細をここに記すのはマナー違反であろう。
どちらが悪いということではない。
性格の不一致、あるいは、相性という言葉が使われる。
A氏にも問題があるのだろう。
 

4.モヤモヤの解消法

A氏が抱える情意を、擬音的に表現すれば、「モヤモヤ」であった。

モヤモヤを解消すべく、運動はどちらかというと嫌いなのだが、ご多分にもれず腹が出てきたこともあり、少しばかり運動もしてみた。

運動によりモヤモヤは一時減じたように感じられたが、消え去ることは無かった。一旦は小さくなったモヤモヤが、気がつけば勝手に膨らんでくる。

A氏は、一切の期待を捨て、本能的に「外」にモヤモヤ解消法としての恋愛を求めるようになった。
よくある動きである。

「愛人」「作り方」などの検索ワードを半ば無意識のうちに入力する。
結果、SNSのTLに次々と広告がプッシュされてくる。
沢山見ているうちに、心理的なハードルが下がっていく。

ふと気が緩んだ瞬間、A氏はモヤモヤを原動力として、マッチングアプリのインストールボタンを押していた。

「(プライベートでも、男として敬われたい・・)」

by
今月: 2 views
全期間: 1,559 views

このカテゴリーの関連記事

  • 外部ライターさん募集
  • ラブホの上野さん
  • THE SALON
  • join
  • ユニバースサポート