ストレスの少ない性感染症対策(クラミジア情報編)
性感染症が増えています。最近マスコミで取り上げられている「若い女性の梅毒」だけではありません。厚生労働省健康局が公開している「性感染症報告数」を見ると、「40歳以上の男性」の性器クラミジアも増加傾向にあることが分かります。本コラムでは、パパ活を安心して楽しむために必要となる性感染症管理を取り上げ、前編で中高年男性のクラミジア増加を、中編では梅毒も多くなっていることを数字で示し、後編でストレスの少ない性感染症対策について考察します。
《中高年男性だけクラミジアが増加》
数ある性感染症の中で、梅毒とHIVは全数報告、淋菌、性器クラミジア、性器ヘルペス、尖圭コンジローマは定点報告され、厚生労働省のHPで公開されています。現場レベルでのデータ収集は、新型コロナウイルス感染症対策でも大活躍している国立感染症研究所が担っています。
保健師中央会議(健康局が運営する会議の一つ)が取り上げるのは、国民全体の総数で大きな変化があった感染症です。例えば梅毒は、1987年の流行期(2928人)に匹敵する数が2015年に報告されたので(2697人)、再流行が懸念されるとして注目され、マスコミ報道を通じて一般に知られることとなりました。
その一方で、総数に大きな変化がない、すなわち国民全体の脅威となっていない感染症については、詳しく解析されません。税金で運営する会議体ですから、「国民の脅威」というしきい値で仕事が切り分けられるのです。
ただ、「解析されていない」イコール「まったく問題がない」でないことに注意が必要です。労災で使われるハインリッヒの法則は感染症にも当てはめられ、「梅毒」という重大事項の影には幾つかの懸念材料が潜んでいて、その一つが中高年男性の性器クラミジア感染です。女性ではすべての年齢層で、男性でも30代以下では顕著に減少しているにもかかわらず、中高年男性だけ増加傾向にあるのです。
《数字で見る性器クラミジア感染》
まずは次の表をご覧ください。これは厚労省HPにある「年齢(5歳階級)別にみた性感染症(STD) 報告数の年次推移」を整理したものです。変化が分かりやすいよう、現HP上でもっとも古い数字(1999年)ともっとも最近の数字(2020年)を比較しました。単年度だとばらつきが大きいことから、5年間分を一括りにして比較しています。
性別 | 期間 | 年齢別の報告数および増減 | ||
24歳以下 | 25~39歳 | 40歳以上 | ||
男性 |
1999-2003年 | 2,7494 | 39,417 | 13,458 |
2016-2020年 | 16,930 | 32,177 | 15,694 | |
上記期間の増減 | 0.62 | 0.82 | 1.17 | |
女性 |
1999-2003年 | 49,286 | 41,986 | 7,459 |
2016-2020年 | 31,762 | 23,174 | 4,968 | |
上記期間の増減 | 0.64 | 0.55 | 0.67 |
この表は、20年間というタイムスケールで見ると、中高年男性だけ増減率が「1.17」と1を超え、例外的に性器クラミジア感染が増加していることをはっきりと示しています。
クリニックのHPなどで「若者の間でクラミジア感染が増加している」と書かれた記事を目にした方もいるかと思います。実際、2020年には、20代女性の感染報告数が直近10年で最多となりました。ただ、クラミジアで「増加傾向」としているのは10年間という比較的短いタイムスケールで、半世紀も前の流行期と比較している梅毒とは違った解釈が必要です。クラミジア感染に関しては、2015年を谷とした過去最低レベルとなる減少があり、ここと比較することになるので、最近の数はどうしても増加しているように見えるのです。
《中高年男性はお付き合いが下手?》
クラミジアは、日本人の間にもっとも広がっている性感染症です。それだけに啓蒙もされ、検査体制や治療法も整備されているので、正しい知識できちんと臨めば対処可能な性感染症でもあります。別の観点からすると、クラミジアに対処する姿勢から、性感染症の予防意識が読み取れると見ることもできます。
さて、20年というタイムスケールで測ると、男女とも、若い世代の性器クラミジア感染の減少率が大きかったです。学校や性病クリニックなど、公衆衛生に携わる皆さまの活動が目に見える形で現れたのでしょう。下世話な話になりますが、「“若者の性感染症が減っている”と書くと気持ちが緩むからまかりならん!」って人がいるんですよね。でも減っていることは事実だし、いまの20代は20年前の20代よりも性感染症に対する知識は広く、うまくお付き合いしていると感じています。
性感染症とのお付き合いが下手なのが40代以上の男性。「感染しても薬で治る病気は気にしない」なんて考えるヒトもいそうですけど、性器クラミジアは「炭鉱のカナリア」、感染症予防のセンサーなんです。割れ窓理論と同じで、予防は出来るところから始めないと、いずれ大きな破綻につながります。
《性感染症と正常性バイアス》
中高年男性のクラミジア増加は、「自分だけは大丈夫」と油断する人が多かった結果なのでしょう。
パパ活は若い女性と中高年男性がお互いをリスペクトする「健全」な関係によって成立すると考えています。若い女性が20年前よりも性器クラミジア感染を減少させているのですから、中高年男性も努力する、これがパパ活で求められる健全さです。次回は梅毒の感染者数が若い女性よりも中高年男性の方が多いことを紹介し、最後に中高年男性向けのストレスが少ない性感染症対策について考察していきます。