恋愛ワクチン 第二十七話 グレーゾーン
ジョーさんのコラム記事のコメント欄で、ノートルダムさんがホテルの部屋に入った後の女性とのトラブルに関して、支店にクレームを上げようか迷っていた。
ユニバースは出会いの場を提供するだけなので、そのあとの交際内容には関知しない。
情報提供は有難がられるだろうが、クレームに対応はしないだろう。
まして、話がホテルの部屋での出来事となると、管理売春を疑われかねないから介入は避けたい。
それで思い出したエピソードがあるので書いてみたい。
実は、湯葉は、この件以来、ユニバースでのオファーが止まってしまった。
解らなくもないのだが、ちょっと冷たい、つれない、もうちょっとこちらに寄り添った対応があっても良かったのじゃないかというものだ。
いつも、夢物語のような一風変わったデート話を書いている湯葉だが、たまにはこういった現実的な話も良いかもしれない。
あれは一年ほど前のことだ。
湯葉はユニバースのアルバムをいつものように眺めていた。
日課のようなものだ。
多くの社長たちもそうだろう。
一人の女性が目に留まった。
湯葉のストライクゾーンは広めだ。
ど真ん中ではないが、内角中段くらいの女性である。
とりあえず打っていこう。
早速オファーの連絡を入れた。
コラム記事を書くようになって、ポイントも結構貯まっている。
消化せねば。
初回デートの日時も決まったところで、湯葉は友人の倉部に連絡を入れた。
「倉部さん、こんどユニバースで〇〇さんオファーしました。よかったらアルバム見ておいてください」
湯葉と倉部の女性の好みは全くといっていいほど重ならない。
それはそれで面白いので、互いに気に入った女の子を教え合っている。
最近では互いに相手の好みの子が判るようになってきた。
「了解です、見てみますね」
しばらくして、倉部から返信が届いた。
「湯葉さん、あの子、アプリにも居ますよ。湯葉さんの好みだと思ったから、僕、連絡取ってました。今度紹介しようと思っていたところです」
「そうだったんですか。早まったなあ。しかし、もうオファーしちゃったし、今回はユニバ経由で会うよ。いつもありがとう」
倉部は最近アプリにはまっている。
女の子とのメールのやりとりが楽しいらしい。
ときどき湯葉の好みの女の子を見つけると紹介もしてくれる。
数日後、初回デートの前日になって、倉部から再びメールが来た。
「湯葉さん、明日デートの予定の子から伝言なんですが、急に生理になってしまったそうです。大丈夫でしょうかと心配してますが、どうしましょう?」
倉部は、友人の湯葉がユニバースでのデート相手であることを女の子に伝えて驚かせて楽しんだようだ。
それで女の子から倉部を介して湯葉に連絡が来たのだろう。
「ユニバースにも生理になった旨連絡したそうですが、湯葉さんのほうに連絡ありました?」
「いや、無いよ」
「明日のデートどうします?」
「うーん、ユニバースに連絡して、日程変更できないか聞いてみるよ」
湯葉はユニバースに経緯をありのままに伝えた。
そして、日程の変更をお願いした。
決してキャンセルの申し出ではない。
あくまで日程の変更であり、理由は女の子が生理になったことを、アプリ経由で知ったからである。
半日ほどして、ユニバの支店担当者から連絡が来た。
日程変更には応じられない。
そして、今回のオファーのポイントは返却するとのこと。
そして、初回デートの前に女性と連絡を取り合うことは規約違反に当たる可能性があるので(確かそんなような文言だったと思うのですが、はっきりとは覚えていません)、今後気を付けていただきたい、と「厳重注意」を受けた。
うーん・・
実害はまったくない。
ポイントも返してもらったし、女の子とはアプリで改めて会う日程決めれば良いし。
ユニバースのオファー代返ってきてラッキー、と喜ぶ男性もいるかもしれない。
しかし、「厳重注意」。
湯葉としては、むしろ、「生理になったことを女性から聞いて把握していたのなら、その旨男性会員に伝えてくれてもいいんじゃないの?」と大いに突っ込みたくなる。
実害は無いし、むしろ金銭的には得をさせてもらったのかもしれないが、つれない・・
なんか冷たいなあという印象でした。
湯葉なりに、支店担当者の立場になって、考察してみた。
おそらく、男性会員に、女の子が生理になったけどどうしますか?と連絡を入れることは、性交を前提としている=管理売春を疑われる、と考えたのではないだろうか。
いったんポイントも返還して、オファー自体を無かったことにするのが無難であろうと。
ユニバースという組織のリスク管理の観点からはある意味正しい。
しかし、これが、生理ではなく、クラミジアなどの性病にかかってしまいました、との女の子からの申告であったとしたらどうだろう?その情報も、この支店担当者はブロックしただろうか?
生理になった情報はブロックするが、性病の情報は伝える、という姿勢もありうる。
しかし、心情的に理解できなくはないが、筋が通らない。
何よりも、アプリの情報がなくて、女の子と予定通り会っていたら、湯葉は「ごめんなさい、今日は生理なんです」と当日のHを断られていたわけだ。
そうなることを知っていながら、連絡してくれないなんて、なんだか、支店担当者たちに陰で笑われているような気さえしてくる。
やっぱり面白くない。
管理売春の危惧は、解らなくもないのだが、グレーゾーンである。
以前の記事でまとめたが、管理売春というのは、不特定の相手との対価を伴う性交渉を仲介する事であって、男女会員とも、住所氏名まで特定している場合には「不特定」ではなくなるので、当てはまらないと解釈できる。
ハプニングバーが、入店時に身分証を提示させるのと同じ理屈だ。
公然わいせつ罪にも、「不特定」多数の前で、という構成要件がある。
実は、湯葉の商売もまた、法律の狭間、「グレーゾーン」に関係している。
だから、このあたりのリスクとメリットの感覚はとてもよくわかる。
最善のリスク管理は、事業からの撤退だ。
何もしなければリスクもゼロである。
しかし、それでは収益は生まれない。
交際クラブからまったくリスクを除けば、収益もまた無くなるだろう。
たぶん支店によって、対応や考え方が異なってくる問題だとは思うのだが、自分たちはグレーゾーンの商売をしていて、グレーゾーンだからこそ旨味があるのだという自覚を忘れないで欲しい。
ついでに言うと、グレーゾーンの扱いは規約にしないほうがよい。
文章化は難しいし、藪蛇になるおそれがあるからだ。
マニュアルではなく、感覚で共有すべきものである。
そしてグレーゾーンビジネスの鉄則なのだが、顧客に対して、ぎりぎりまで頑張った、という誠意をアピールすること。
申し訳ない、ここまで頑張ったが、これ以上はさすがに無理です、というところを自分の立ち位置としなければならない。
私のケースの支店担当者は、ここが甘かったと思う。
ビジネスには色々な形態がある。
少額の利益を規模で増幅させるタイプのもの、公的助成金を活用するもの、無から有を作って売り出すもの。
グレーゾーンビジネスもまた一つのジャンルである。
皆さんはそこに生きているのだという自覚の元、グレーゾーンの扱い名手になってください。