恋愛ワクチン 第九十五話 ダビデ像を描きたくて(2)
不思議な光景が広がっている。
全裸の若者がポーズを取って動かない。少し離れて絵里ちゃんがデッサンしているのだが、絵里ちゃんのスカートはたくし上げられて、ノーパンのあそこは丸出しだ。
マックさん「絵里ちゃん、モデルさんに裸になってもらうんだから、絵里ちゃんもお返しに見せてあげなくちゃ駄目だよ」
とかなんとか上手いこと言って、マックさんがパンティーを脱がせてスカートをたくし上げたのだった。
ここはハプニングバー。絵里ちゃんの念願である「男性の体を触って立体感や感触を確かめながらスケッチしてみたい」を叶えるべく、マックさんが絵里ちゃんを連れてきて、若い男性を見つくろってモデルをお願いした。
マスター「もし今警察の手入れがあっても、『ヌードデッサンしているだけですよ』で通るかもしれませんね(笑)」
マックさん「絵里ちゃんの下半身露出が問題だけどね。いっそ、全員が裸になってスケッチブック持っていれば良いかもだね」
そんな軽口をよそに、絵里ちゃんの表情は真剣だ。
美大でクロッキーというのだそうだが、制限時間があって、だいたい20分。
この時間内に人物の特徴をとらえて描き上げる。
スポーツ選手が筋トレするようなもので、画トレとでもいうのだろうか、これを何回も繰り返す。
もっとも素人が20分ポーズを取るのは大変のようで、今回は短縮して10分。
時間制限は絵里ちゃんが自ら課した。居合わせた客の一人がタイマー係をやってくれている。
タイマー係さん「あと3分です」
絵里ちゃんは答えず一心不乱だ。集中している。
絵里ちゃんは高校から美術専攻だったので、裸の人体は何度も描いている。
しかし、これは意外だったのだが、男性の裸体モデルっていないらしい。
裸婦ばっかり。
元々スキンシップが苦手で、女の子同士で手をつなぐのも抵抗があった。
たぶんだけど、その一方で内面では肌と肌との触れ合いを求めている。その結果が「裸の男性を、出来れば触りながらスケッチしてみたい」という願望になったんじゃないかな?
絵を描く素材として触れるのであれば、自分の殻が破れると思ったんじゃないだろうか。
それはマックさんの想像だが、とにかくこの光景は良い。
シュールで珍しく、酒の肴になる。
マスターも他の客たちも、ニヤニヤしながら鑑賞している。
芸術って、知ったような口を利く立場には無いのだが、やっぱりエロスが関係してるのかもしれないね。
ただ描写するだけなら写真で良い。
人の手で描くということは、その書き手の思いがこもる。
スキンシップの苦手な絵里ちゃんの、抑圧されたエロへの欲望が現れる。
表題の画像、真ん中のお皿のようなものは、絵里ちゃんのbefore/afterのデフォルメだ。
例によってマックさんが写真撮影したものを絵里ちゃんが見ながら、自分で描いた。
絵里ちゃん「これ、良かったらコラムの挿絵として使ってください」
絵里ちゃん的には、卒業記念作品である。
頑張って思いを込めて描いた作品だと思うので、皆さん鑑賞してあげてください。
タイマー係さん「10分経ちました」
絵里ちゃん「すみません・・あと2分大丈夫でしょうか?」
モデルさん「大丈夫ですよ」
ハプニングバーに行ったことが無い人は解らないだろうが、ハプニングバーの男性客っていうのはみんな優しい。
とくに性に関しては徹底的に寛容なところがある。
それにこのモデルっていうのは、案外とやってみると快感な部分もあるようだ。
もう10人くらいに声掛けして、男性の裸体モデルを引き受けてもらったのだが、ある男性は舞台役者さんで、その方が言うには
舞台役者さん「モデルって、初めてしたけど、舞台で観客に観られてるのと同じ恍惚感ありますね。癖になりそう」
とのことであった。
いろんな男性がいた。地味な感じの眼鏡をかけた若者は、これまた気安く受けてくれたのだが、デッサンの間ポーズを取りながらずっと勃起していた。
これは凄かった。約10分。絵里ちゃんの裸の下半身というオカズがあるとは言え、皆に観られながら、さすったりこすったりもなく、ずっと勃起してるって相当なメンタルだと思う。
別の女の子を連れて3人で行ったこともある。
その時は、その女の子、メンエス的なフェザータッチの上手な娘だったので、立っている男性の横に座って、下腹部から太腿あたりを触るってサービスを加えた。
この絵柄がまた絶妙だ。その娘、髪が長く華奢な清楚系なので、まるで男性をハーブに見立てて奏でているようである。
若く髪の長い娘が、これまた若く凛々しい若者をハーブのように奏でて、それを下半身露出した絵里ちゃんが真剣な表情でスケッチしている。
まるで幻想のようだ。これだけで舞台芸術として成立するんじゃないか?
絵里ちゃんを観察していると、どうも描きたくなる人体と、そうでもない人体があるようで、その人体の中でも、書きたいパーツがあるらしい。
セックスしている男女を描いてみたいというので希望を叶えてあげたら、絵里ちゃん、女性のお尻ばかり描いていた。
女性が上になっているときの後ろから見た迫力のあるお尻。これが絵里ちゃん的にはツボだったらしい。
私はというと、絵里ちゃんは私の体のパーツの中で、ペニスに心惹かれたようだ。
絵里ちゃん「マックさんのペニスをスケッチしてもいいでしょうか?」
マックさん「ああいいよ。こうして寝てればいいのかな?」
最初のうちは頑張って勃起しているのだが、2~3分経つと柔らかくなって倒れてしまう。
絵里ちゃん「あ、そこ動かないでください」
いや、無理だって(笑)。
10分間ハプニングバーで立位で勃起し続けていた若者が羨ましい。