恋心売ります(第一話と第二話)


 

ここはオルチャード村。様々な果物の妖精たちが暮らしています。旅人たちに果物を売って、その対価として生気を少しだけ分けてもらうのです。
ポムは林檎の精の女の子。ポムの林檎はまだ熟しておらず、あまり甘くありません。
「どうしたら旅人さんに買ってもらえるのかしら?」
旅人から生気を分けてもらえないと、ポムは枯れてしまうのです。
紫苑という葡萄の精のお姉さんに聞いてみました。紫苑の葡萄は、なぜか旅人を惹きつけ、皆がこぞって生気を差し出すのでした。
「恋心っていう香りを付けてあげるのよ」
と紫苑は教えてくれました。
恋心。
ポムは一生懸命考えました。恋心って何だろう?
恋をした事のないポムには、それがどんな香りなのか分かりません。
村に咲いている色々な野花を集めて、心地良さそうな香りを作ってみました。
「これでいいのかしら?」
1人の旅人がポムのそばにやってきました。ポムの林檎に興味がありそうです。
「旅人さん、とても美味しい林檎はいかがですか?私が心を込めて作った恋心の香りも付けますよ」
旅人はポムの恋心を少しだけ嗅いで言いました。
「これは本物の恋心じゃない。野花を集めた作り物の香りだ」
そして旅人はほんの僅かの生気だけを置いて、ポムから去って行きました。
ポムは悲しくなりました。
これっぽっちの生気ではポムには足りません。
「私はこのまま枯れてしまうのかしら」
ポムは涙を流しました。
その涙の一滴が、野花で作った恋心の香りのエキスに滴り落ちました。
すると、前とは違った香りがあたりに漂いました。
ポムの涙で香りが変化したのでしょう。
その香りに誘われたのか、別の旅人がポムの林檎に興味を抱いて近寄って来ました。
「美味しそうな香りですね。あなたの林檎を一つ頂けますか?」
「はい。ありがとうございます」
ポムは満足した旅人から、当面生き延びるのに十分な生気をもらうことが出来たのでした。
ポムが初めて恋心を売ったお話です。

 

さて、先回の続きである。

友人で顔認識能力の高い男性に、愛実ちゃんが「彼氏の顔や表情を鮮明に思い出せる。これって恋かもしれない!」と喜んだ話をしてみた。

友人「それはですね、半分正しいけど半分は違ってます。どうしてかというと、僕なんかは、人の顔というものに対する興味が半端なく強いんですよ。だから認識する。愛実ちゃんも○さん(私のこと)も、僕ほどには顔に興味が無い、だから記憶に残らないんです。その中で、愛実ちゃんが彼氏の顔や表情を記憶したというのは、その彼に対する関心が強くなって、その一環として顔にまで及んだ、そういうことだと思うんです」

私「なるほど。じゃあ、△さん(友人)にとって、恋愛ってのは、どんな感覚なの?」

友人「そうですね。僕の場合は、Hの後の気持ちが違います。単に性欲処理で気持ちが入っていない子としたあとは、何か醒めた感じになるけど、好きな女性との行為の後は、幸せな気持ちになるんです。距離が縮まったっていうか。」

私「ほう」

友人「だから、僕の場合は、恋愛にSEXはむしろ邪魔なんですよね。必要ないっていうか」

私「恋愛感情を楽しむのに、性欲は目障りだ、雑音でしか無い、みたいな感覚かなあ。僕の場合は違うけど。むしろ体の関係が出来て初めて安心してその女性を好きになれる。これはパパ活する前から、若い頃からずっとそう。体の関係出来てない女性にまったく心動かされない」

友人「人それぞれですからね。そういうのも有りだと思いますよ。恋愛に関して語るなら、自分は最近気が付いたことがあるんですが、執着と恋愛感情、この二つもまた別物だなあと」

私「それまた面白そうな話だね」

友人「4年位前に、僕、◇ちゃんにめっちゃ夢中だったじゃ無いですか。僕の性癖を全て受け入れてくれて、何でもOKだった子」

私「いたいた、ある日急にいなくなっちゃったんだよね。そのあと随分△さん落ち込んでたよね」

友人「今思うと、あれは恋愛感情じゃなくて『執着』だった気がするんですよ」

私「僕から見ると、ガチ恋そのものだったように思えたけど」

友人「そうじゃなかったと今は思います。彼女がいなくなって本当に喪失感が大きかった。ある意味自分の一部が切り取られてしまった感覚に近かった。だけど、あれは僕の性欲を超えた支配欲みたいなものまで、丸ごと彼女が引き受けてくれた、というか押し付けていたのであって、彼女に恋をしていたのでは無かったと思うんです」

友人の言う事は分かる気がする。

私もまた、このパパ活において似たような経験を一度ならずしているからだ。

お金を払うことで、自分の性癖、言い換えれば我儘のかなりの部分が受け入れられる関係。自分では対等のつもりであっても、どこかで相手に負担を強いていたのだろう。ある日音信不通になってしまう、そんな経験。

その時の気持ちは、まるでいきなり深い井戸にでも落とされたようだ。なぜこんなことになったのか全く分からない。

そして、こんなにも自分は彼女を必要としていたのかと気付く。

あれ?これって恋?

いつの間にか自分は彼女に恋をしていたのだろうか?

そうではなく、それは友人に言わせれば、恋愛感情ではなく「執着」なのだと。

指摘されれば納得がいく。あのときの喪失感は、例えて言うなら、お気に入りのおもちゃを壊してしまって泣いている子供のようであるからだ。

あれは決して失恋などとは言えない。そのくらいの判断は、恋愛経験の少ない自分にもできる。

私「僕は決して恋愛経験豊富じゃ無いから、偉そうなことは言えないんだけど、△さんの言うことろの『恋愛と執着の違い』は分かる気がするなあ。恋愛って、たぶんだけど、もっとお互い対等な関係のもとに成り立つものなんだろうね、きっと」

友人「そうですそうです。お金という支配力を行使して生まれるものは、執着なんですよ。男性の多くは、そこに生まれる甘い関係性に依存しちゃって、それを恋心と勘違いしているのだと思います」

うーん。

これでは「恋心売ります」から、美しいラブストーリーなど生まれようがない。困った。

ちょっと恋愛というものが分からなくなってきたので、AIに聞いてみた。「恋愛とは何か?」

【恋愛とは】

恋愛とは、特定の相手に対して抱く特別な感情であり、さまざまな視点から多角的に捉えられます。以下に、その主な解釈をまとめます。

<心理学的な観点>

心理学では、恋愛はさまざまな要素で構成される感情と行動の複合体として捉えられます。
「恋」と「愛」の違い: 「恋」は一時的で、自分の感情(ドキドキ感や幸福感)に焦点が当たっていることが多いのに対し、「愛」は相手の幸せを願い、時間をかけて育む献身的な気持ちとされます。
三原則: ロマンチックな愛は「愛着(結びつき)」「思いやり(親身になること)」「親密さ(心の通い合い)」の3つの主要な原則からなるとする説もあります。
自己中心的か、献身的か: 「好き」は自己中心的で自分の幸せを願う感情である一方、「愛してる」は相手の幸せを第一に考える献身的な気持ちが含まれていると言われます。

<社会学的な観点>

社会学では、恋愛は個人の感情だけでなく、社会の構造や文化によって形成されるものと考えられます。
多様な関係性: 現代では、多様な親密な関係性が生まれ、恋愛の形も変化しています。
社会的な制約と変化: 時代や文化によって、恋愛の始まり方やあり方は異なり、時には「告白」のような行為が大きなハードルになることもあります。

<個人の経験的な観点>

恋愛は、人それぞれの経験や価値観によって捉え方が異なります。
喜びと苦悩: ドキドキする高揚感や幸福感をもたらす一方で、思い通りにいかない苦しみや切なさを伴うこともあります。
成長の機会: 恋愛を通して、自分自身や他者との向き合い方を学び、人間的な成長の機会となることがあります。

<まとめ>

恋愛は、科学的に解明される要素を持つ一方で、個人の主観的な経験に大きく左右される、複雑で多面的な現象です。ある人にとっては一時的な刺激、またある人にとっては生涯をかけて築く絆であり、その定義は一つに定まるものではありません。

ううん、なるほど。

そうすると、恋愛というのは、恋=ドキドキ感・幸福感と、愛=献身的な気持ち、のセットということだ。

パパ活においては、献身=お金であり、また、普通の恋愛関係においては、男女双方が対等に恋と愛を育むものであるのに対して、パパ活の場合は、男性の側が一方的に恋と愛を育む(というか女性によって育くまされる)点が異なるのだろう。

続きを書いてみよう。

ポムは紫苑お姉さんのところをよく訪れました。
お姉さんの恋心がどうしてあんなに旅人たちを惹きつけるのか知りたかったのです。
「紫苑さんいいなあ。私も紫苑さんのような恋心が欲しいわ。きっと素敵な恋をいっぱいしたんでしょうね」
紫苑は微笑んで答えました。
「ポムちゃん、恋心の香りっていうのはね、自分が恋をして生まれるものじゃ無いの。相手から引き出すものなのよ」
「旅人さんから?」
「そう。あれは私たちの香りじゃなくて、旅人さんの心の奥底に眠っていた香りなの。私たちはそれを誘い出してあげるの」
「そうなの?そう言えば、私が初めて売った恋心は、私の涙から生まれたんだったわ。涙には何の香りも無いから不思議だった」
紫苑は黙って左腕に巻いていた包帯をほどきました。
「ポムちゃん、これが私の恋心の秘密」
痛々しい生傷がそこには刻まれていました。
紫苑の恋心は、紫苑の腕から滴り落ちる血で香り付けされていたのです。
「旅人さんたちはね、美しさだけじゃなくて、私たちの弱さや痛みが好きなの。そういったものを見ると旅人さんたち自身の中から恋心が生まれる。その香りがあたりに立ち込めて、まるで私たちの葡萄や林檎が香り立っているように錯覚するの。それが私たちが売っている恋心」
ポムはびっくりしました。
しかし納得もしました。そうか、それで何の香りもしない涙から恋心のエキスが生まれたんだわ。私の悲しみが旅人さんの恋心を引き出したのね。
それから数日後、紫苑お姉さんは居なくなってしまいました。
本当に突然。何の前触れもなくです。
この村ではよくあることです。ある日、誰かが突然消えてしまう。
腕に傷を付けて血を流して恋心の香り付けをするのに疲れたのかもしれません。
だけど本当のところは誰にも分からない。
紫苑お姉さんに生気を支払って恋心を買っていた旅人たちは、途方にくれた顔付きをしていました。
しかししばらくすると、彼らはまた新しい果物の精を見つけて、それぞれがお気に入りの夢を見るのでした。
それがオルチャード村の日常なのです。

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