恋愛ワクチン第二十四話 アプリの怖さ

最近、湯葉はユニバースでオファーしていない。

友人の倉部が、すっかりアプリにハマってしまって、出会った女の子を湯葉に回してくれるからだ。

倉部も社長業だが、普段は本当に暇なので、アプリで女の子を見つくろってはデートを重ねている。

多い日はランチとお茶合わせて5人もハシゴすることもある。

大人の関係を確認はするが、条件が合った時点で倉部としては達成感が生じてしまうのか、ほとんどベッドインすることはない。

いわゆる茶飯男で、暇つぶしだ。

1~2時間デートしては5千円交通費を渡してお別れする。まるで採用の面接である。

二十人に一人くらいは、ホテルに行こうという気になる倉部の好みの子にあたる。

また、湯葉好みの子を見つけることもある。

そういう時には倉部は湯葉に繋いでくれる。

実に得がたい友だ。

ある日、倉部から、いつものようにラインが来た。

「写真見る限り湯葉さん好みの子なんだけど、どうしても今日明日にお金が必要で、4万で最初から大人で、って希望なんだけど、どう?」

「いいよ。倉部さんは会ったの?」

「いいや、その子、大人無しで会うのは時間の無駄だから嫌だっていうんだ。せっぱつまってるらしい」

「それは、僕とは気が合いそうだなあ(笑)」

「でしょ?(笑)よかったら連絡してあげてよ」

ここからは、貴重な記録になると思うので、ラインの文章を起こして、原文そのままに書くことにしよう。

「こんにちは、倉部さんから紹介された湯葉といいます。今夜空いてる?」

「こんにちは。食事と大人で4枚でも、良かったらお願いしたいです」

「なんか困ってるみたいですね。19時ごろ〇駅に来れる?」

「〇駅行けますよ!〇駅のどこに行けばいいですか?〇駅広いから、△町の□ビルとかで待ち合わせにしませんかあ?」

「実は別の子と会う予定なんで3Pになるけどいいですか?その子は3P大丈夫な子です」

「3Pはちょっと厳しいです・・」

「残念」

湯葉はちょっと意外に思った。
そんなにお金に困ってるなら、他に女の子一人くらいいてもいいのに。

「明日とか会えませんかあ?」

「明日夜なら空いてます」

「それなら明日の夜お願いしたいです」

「ところで何でそんなに急にお金必要になったの?」

「支払いのことがあってそれで生活が本当にきつくて・・」

「明日会う前提で今日顔合わせだけしない?さすがにどんな子なのかちょっと不安です。15分くらいお茶するだけでいいから」

「3Pするんぢゃないですか?それに顔合わせだけして逃げられるのいやなんで1枚はください」

よほど3P警戒してるのかな?

「15分で1は高いです」

「それ会う気無い感じですね」

「そんなことは無いです。写真とかは無いの?」

画像が送られてきた。





加工はしてあるだろうが、まあまあ可愛い。

「じゃあ、明日19時に〇ホテルのロビーでいいですか?」

「はい。お願いします・・ありがとうございます」

「ごめん、あと身長体重教えて」

会ってみたらとんでも無いデブで、写真は太る前のなんですよーって言われる可能性もある。

「161せんち48きろDカップです。。」

「ならよほど大丈夫」

「ありがとうです。明日はよろしくお願いします」

「なんか大変そうだけど頑張ってね」

「ありがとうございます」

翌朝、7時前にラインが来た。早起きな子だ。よほどお金に困っていて、今夜を当てにしているに違いない。

「おはようございます!今日はよろしくお願いします」

「了解です」

「19時に行きますね!ほんと感謝します」

「それだけ感謝されるとデートし甲斐があります」

「そう言ってもらえてうちも嬉しいです」

夕方、湯葉は少し早めに仕事が終わったので、ラインを送った。

「こんにちは、早く仕事終わったのですが、待ち合わせ早めること出来ますか?」

「おつかれさまです。うちの家△町なんですけど、家まで来れたりしますかー?・・」

「なんで?化粧に時間がかかる?」

「まだスッピンだったので」

「ああ、そういうことね」

「それか、うちの家でやりますか?」

「初めて会うから怖いお兄さんが途中から出てこないか心配です。女の子の部屋に関心はあるから仲良くなったらね」

ここまで既読になったのだが、返信は途絶えた。

湯葉は考えた。

きっと大慌てで化粧してラインする余裕もないのだろうな。

湯葉は〇ホテルのロビーに予定より早めに着いた。

「ホテル着いたよ。そちらはどう?」

既読にならない。

移動中だろうか?

予定時刻になった。連絡が来ない。

「?」とラインを送った。既読にならない。

なんだか悪い予感がする。

さらに10分経った。

あれほどお金が必要と訴えて、最初から大人でと懇願し、早朝に確認のラインまで寄こした子が、予定時刻を10分過ぎても連絡が無いなんて、絶対におかしい。

湯葉は「やられた」と思った。

そして背筋がぞっとした。

もし、「彼女」の誘いに応じて、△町にある「うち」まで出向いたらどうなっていただろうか?

おそらくそこに「彼女」はおらず、薄暗い路地裏に誘導されて、確実に4万円もっているおじさんをカツアゲしようと待ち構えている誰かがいたのではないだろうか?

「彼女」と括弧を付けているのは、男のなりすましであった可能性が高いからだ。

読み返して気が付いたが、女の文章ではない。

湯葉がぞっとしたのは、彼女の家への誘いに、少し心が動いていたからだ。

ラインの返信が無く、湯葉がてっきり大慌てでメイクしていると思い込んでいた時間に、湯葉は「やっぱり家に行こうかな?」とラインを打とうとさえした。

怖いお兄さん云々と書いたのは、湯葉としてはほとんど冗談のつもりだった。

思いとどまったのは、用心したからではなく、小腹が減っていたからだ。

まずは彼女とどこかで食事をしようと思った。

ほんとにそれだけのことで、引っ掛からずに済んだ。

単に運が良かっただけだ。

教訓。
1 アプリは怖い。どこに落とし穴が隠されているかわからない。やはりクラブのほうがリスクが少ない。
2 最初の出会いは、くれぐれも公共のオープンスペースで。

最近ユニバースでオファーしていないので、コラムに投稿するのが憚られる湯葉であったが、今回の一件はレポートしておく価値はあるだろう。みんな気をつけようね。

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