恋愛ワクチン 第二十八話 「背中まで45分」
マックさんはコラムにときどきコメントを寄せてくれるジャスミンさんとデートした。
ジャスミンさんは、元々ジョーさんのコラムのファンだったそうだ。
ジョーさんの記事にジャスミンさんが付けたコメントが、マックさんのコメントに同意する感じの内容だったので、マックさんから好意を抱いた。
モテるコツというのは、異性が圧倒的に多く、同性が少ない環境に飛び込むことだ。
男性コラムでコメントする女性は少ない。
男性コラムで、女性であるジャスミンさんコメントは輝いて見えた。
その後も何度もコメント欄でやりとりしているうちに、あることに気が付いた。
ジャスミンさんは、聞かれると何でも素直に答えてくれる。
どこまでおじさんトークに付き合える女性なのだろうか?
興味を抱いたマックさんは、有志でオフ会出来るといいですね、というノートルダムさんの提案に乗っかって、ジャスミンさんを全員で犯すみたいな趣向にしたらどうだろう、と提案した。
多くの女性は、こんな話はスルーするか、適当にあしらって話題を変える。
上手に誤魔化す。
しかし、ジャスミンさんは、それを一つ一つ点検するかの如く、人に見られるのは困るからエレベーターで首輪を付けられる部分はいただけない、などと添削してくれた。
なんて素直な女性だろう。
マックさんの食指が動いた。
添削のような返事の仕方から、知性的で、しっかりしているように見えるが、この人は「断れない」系の女性に違いない。
聞かれたことには答えなければならない、という学級委員長タイプで、しかし、押しに弱そうだ。
ツンデレである。
スイッチが入る瞬間、男性の脳はオオカミになる。
子羊の匂いを本能的に嗅ぎ分ける。
さて、ところでジャスミンさんとデートするためには、オファーしなければならない。
女性会員であるということだが、クラブ名が判らない。
使い捨てメアドをコメント欄に入力しようとしたらはねられた。
メアドを入力できない仕様らしい。
URLは入力できるようなので、uploaderを使うことにした。
無事ジャスミンさんからクラブ名を聞き出すことに成功し、プロフを見ることができた。
後で、ジョーさんが直接ユニバースに
「ジャスミンさんのプロフが見たいんだけど」
と問い合わせて閲覧したことを知った。
なんだ、そうすれば良かったのか。
さて、ジャスミンさんのプロフを見て、マックさんはうなった。
不安材料と、好材料とが混ざっている。
実はマックさん、ユニバースで30才以上の女性にオファーしたことが無い。
ジャスミンさんは40才代だ。
ユニバースを知る前の、リアルでのマックさんの交際相手は、まさにその年代の女性だった。
しかしこの2年ほどは若い娘とばかり遊んでいる。
ぶっちゃけ勃つだろうか?
ジャスミンさんが40才代なのは、コメント欄でのやり取りで知っていたが、いざ写真や動画という現実を見ると、不安が頭をよぎる。
しかし、絶対的な好材料がひとつあった。
マックさんはリケジョが好きだ。
そしてジャスミンさんは超リケジョであった。
マックさんはオファーすることにした。
自分から漕ぎ出した船である。
ジャスミンさんは陸でのんびりしていたところを無理やり乗船させられたようなものなので、責任は取らなければならない。
この場合の責任は、性交である。
性交に成功しなければならない。
「コラムライターのマックさん」の面子にかけても、ジャスミンさんを満足させなければ文字通リ男が廃る。
前日はデートを控えて、精力を温存しよう。
もう還暦なのだ。
ところが、そういうときに限って、お気に入りの女の子たちから、お誘いのラインが入る。
結局当日朝まで、3日間連続ラブホ泊りしてしまった。
目の前に美味しい料理が出されれば、食べずにはいられない。
もう還暦なのだ。明日死ぬかもしれない。
心残りがあってはならない。
当日の朝、あと4時間でジャスミンさんと会うとなって、さすがにマックさんも不安になってきた。
同時に頭が急に回りはじめた。
マックさんは追いつめられるとアイデアがひらめく。
そうだ、何か新しい企画を考えよう。
いろんな遊びにチャレンジしてきた。
マジックミラー号を作ったり、ハプニングバーで遊んでみたり。
新しい企画にチャレンジする、となるとマックさんは燃える。
燃えれば、下半身もなんとかなるだろう。
マックさんはすぐに一つの企画を思い付いた。
そして早速友人のウィンさんに相談した。
ウィンさんは快諾してくれた。
ジャスミンさんは遠方なので、新幹線でマックさんのいる街までやってくる。
到着する30分前、マックさんはウィンさんの運転する黒いバンに同乗していた。
映画でロシアのマフィアが乗っているような車で、後方ガラスはスモークされていて外からは見えない。
マックさんはすでにジャスミンさんに顔写真も送っている。
コラム記事からマックさんの人となりも理解している。
その上のデートだから、会って断られるはずはない。
マックさんは数日前、事前プレイというか前技の一環として、ジャスミンさんに
「新幹線の中で下着を脱いで来てね」
とお願いしておいた。
「暑かったら考えるわね」
という返事であった。
やっぱりこの人、断れない女性だ。
ちょっとだけつんとしてプライド高そうに見えて、実は「断れない」女性。
当日朝、マックさんは再びラインを入れた。
「暑いですね」
しばらくして返信が来た。
「・・そうですね」
マックさんは、ウィンさんの車の後部座席で、ポケットの中のコンドームを再確認した。
何を企画したかと言うと、初対面から挿入までの最短記録を作ってやろう、ということだ。
ウィンさんの車の後部座席を使わせてもらう了解は得ている。
目標は1分。
沢田研二の「背中まで45分」という曲があるが、あれをはるかに凌駕する。
沢田研二に勝つ・・パパ活だけど。
こんな最短記録、誰もチャレンジしたこと無いだろうから、ギネスに申請したら載るかもしれない。
とはいえ、一物が勃たなければ話にならないので、スマホで検索したエッチ画像を食い入るように見つめて気持ちを集中させる。
その一方で不安を頭をよぎる。
久しぶりの40才代・・大丈夫だろうか?
ウィンさんが話しかけてくる。
いや、だめだ、今は男の声なんか聞きたくない。
話しかけないでくれ。
それにしても今日は天気が良い。
外は暑いだろう。
駅前に車を停車して、ウィンさんは運転席、マックさんは最後部座席に移動して、二人で駅舎から出てくるジャスミンさんを探す。
道行く人は皆、初夏の装いだ。
ウィンさんが話す。
「僕の車の特徴と、ここの場所をラインで送りましたから、もうこちらに着くはずです。あ、あの方じゃないかな?」
さわやかなワンピース姿の女性が、笑顔でこちらに向かって歩いてくる。
女性には写真映りの良い人とそうでない人がいる。
ジャスミンさんは写真よりも実物のほうが魅力的なタイプだった。
そして実年齢よりもはるかに若く見える。
マックさんの緊張と不安は一瞬で解消した。
うん、この女性ならいける!
脚は・・ストッキングを穿いているように見えない。
生脚のようだ。
ギネス達成するぞ!記録には残らないけど。