宇宙倶楽部を中心とした私的心像風景その2
【再びモノローグから】
一般的にいえば50代のオッサンが綴る自分のSEXライフが面白いはずがないし、醜悪でもある。ジョーとしては一応「自分のための備忘録」という建前があるけれど、それが活用されるかというと、そんなことはほぼないから、建前以上の意味を持つことはない。それでもこうやって綴ってしまうのは、書く行為がジョーにとってはSEXの瞬間瞬間を反芻する行為で楽しいからだ。SEXそれ自体は技量に全く自信がないのでどこか冷めているし、没頭することができない。しかし書くことは別だ。実際の行為の時よりもよりもはるかに淫靡な時間となって現れる。これから綴るささやかな記録はオッサンの幻想的な心の風景と思ってあたたかく読んでもらえれば嬉しい。
【さっちゃんはさちこって言うだよ、ホントはねの場合】
さっちゃんとは10年くらい前に仕事を通じて知り合った。とはいえ会うのは年単位で、長く特別な関係ではなかった。でも京都との2重生活が決まった時、1番最初に思い浮かんだのはさっちゃんのことで、仲良くなれればいいなと思っていた。だから下心は極力隠しつつ、しばらく京都に住むことを短いメールで報告した。すると思いもかけずさっちゃんから直ぐに返信があって歓迎会をしてくれるという。それまで2人でご飯に行ったこともないからドキドキしたけれど、特別なことが起きるとは夢にも思っていない。だってさっちゃんを狙っている男性はいっぱいいるけれど、噂では皆、玉砕しているということだったからだ。
さっちゃんは見た目が派手な美人だ。でもお高く止まっているわけではなく、むしろ男好きのする顔立ちで明るく社交上手でもある。おじさま方が酔うと放つ下ネタも拒みはしないし、あしらい方も心得ている。それでおじさま方はすぐ調子に乗って口説きにかかるけれど、そうなると意外に身持ちが硬くてそれ以上は決して寄せ付けない。常套句は「わたし、旦那を愛しているから」。
ジョーもさっちゃんを口説いてその常套句を聞いてみたい気もしたけれど、全く縁が切れるのも嫌だった。そもそもジョーはさっちゃんの前では不必要に紳士ヅラしていたから今さら変態がバレるのも恥ずかしいとも思っていた。だからもちろんドーピングはせずに(当たり前?)お店に向かった。京都はさっちゃんの方が遥かに詳しいけれど、しっぽりと話ができる雰囲気のある座敷の店がいいと思っていたから、一度行ったことのある店をジョーが予約する。四条縄手を上がったところにある水炊き屋さんだ。その店はうなぎの寝床と評されることもある典型的な京町家を改装した店で、いくつかの小部屋に別れ、基本全て座敷だ。そして密会にはピッタリの6畳の部屋に案内された。ジョーが先に到着し、後からさっちゃんが来る。今から1年半近くの前の話だから、さっちゃんがどんな服装のはだったか詳細はよく覚えていないけれど、ミニスカートだったことは忘れられない。しかも尋常じゃない短さで、アラフォー、子持ちの人妻が履いたら市条例に触れるレベルだ。少し動揺したけれど、この段階ではこのあと起こる展開は全く予想出来なかった。何せ「旦那を愛している」さっちゃんだからだ。
その水炊き屋さんは白濁したスープが素晴らしく、臭みも全くない。具材の一つである白菜との相性も素晴らしい。水炊きは博多が有名だけどこちらの方がずっと美味しいとジョーは思った。ハイボールで乾杯の後、ジョーも、さっちゃんもメインの鳥以上に白菜に箸が伸びた。女将によれば、この店の夜の営業は10月から4月までだという。理由は「その期間以外は良い白菜が手に入らないから」。お店が持ち家で家族経営だから可能なんだろうけれど、京都恐るべしだ、と言うとさっちゃんはジョーの言葉をやんわり否定する。
「ここは確かに美味しいし、いい意味でこだわりも強いけど、三条辺りの小洒落た町屋風の店は酷い店も多いおす」
この時は京都に来たばかりでさっちゃんの言う意味がよく分からなかったけど、この後確かに三条近辺ではさっちゃんの言葉を痛感することになる店にも何度か遭遇したけれど。雑炊までいただき、動けないくらいお腹いっぱいなる。でも話し足りないから近くのバーには立ち寄りたいと思っていた。その時はマンボウ発令中で、お店の営業は9時まで、ラストオーダーは8時30分という通達が市から出ていた。時計を見ると8時を過ぎている。そこで慌てて水炊き屋さんを出て、数十メートル先のバーに急ぐ。手を繋いだらしいけどはっきり覚えていない。そのバーはお茶の師匠宅を改装したバーでカウンターと、元茶室の個室がある。当然?個室をリクエストし、案内された。お部屋に入ってすぐにほぼラストオーダーの時間なのは残念だけど、こんな淫靡な空間で憧れのさっちゃんと2人で飲めるのは嬉しい。ジョーはあかしのシェリー樽ストレートを、さっちゃんはカクテルを注文し、数分後に注文のものが目の前に置かれる。少し酔も廻っていたジョーは少し大胆?になってさっちゃんの横へと座り直す。さっちゃんの方も嫌がるそぶりはみせない。そして「ようお越しやす、京都へ」と言いながら再び乾杯。よく覚えてないけれどその後もたわいのない話をしたのだろう。とにかく距離が近くて、さっちゃんの甘い香りが鼻腔を刺激した。ジョーの興奮を察したかのようにさっちゃんの温かい手がジョーの指と絡まる。「なんだか今日いけそうな気がする〜」と吟じてもいいところだろうけれど、こういうシチュエーションに慣れてないジョーはさっちゃんの意図が掴めない。
唐突で申し訳ないけれど、ジョーは女の子にモテたことがない。デートの経験も多くないから、振る舞いその他が洗練されているとは言いがたい。宇宙倶楽部入会後は少しマシになったと信じたいが、ナナ姫からは未だにあれこれ指摘されることが少なくないから自信がない。もちろん自慢している訳ではなく卑下している訳でもない。そうではなくてそんなジョーでも時々ジョーを受け入れてくれたり、好きになってくれたりする女性がいるということを言いたいのだ。そしてどうもさっちゃんはジョーを受け入れてくれそうだ。久しぶりだったので確信が持てない。だから確かめてみよう。さっちゃんに顔を近づけてその柔らかい魅惑的な唇にジョーの唇を重ねる。一瞬拒否するようなそぶりはをみせたけれど、すぐに収まり、むしろさっちゃんの方が積極的に舌を絡ませる。素晴らしく魅惑的なそしてエロいエロいキスだった。さっちゃんはさらにエスカレートしてジョーの太ももから股間へとその手が這う。アンチドーピングだが、ジョーの小型トマホークも発射準備OKだ。それではとさっちゃんの状態を確認すべく、条例違反のミニスカートから手を入れ、パンティの上を小刻みな指でなぞる。熱を帯び、充分潤っている。するとバーテンさんが近づく音がしたので、2人はさっと離れた。とジョーの方は我にかえり、少し余裕ができたのでさっちゃんに意地悪を言いたくなる。「さっちゃん、みんな言ってるけど、さっちゃんは旦那さんを愛してるんだろう⁈それなのに僕とはこんなエロいキスしちゃうんだね」
「いじわる!それは言わんといて」
楽しい時間はあっという間に過ぎる。マンボウじゃなかったら、ホテルに直行だっただろう。でも今はほとんどのお店が9時までだから、早く帰さなければならない。というのは建前で、こんなとことになるとは夢にも思わないので、ドーピングの準備もしていない。股間は熱くなっていたが、先行き?は不透明だ。第一、ジョーにしてみれば「やったも同然」だったので、満足していた。しかし、さっちゃんは違った。ジョーから送ったLINEの返信は次のようにあった。“着火させておいて帰すなんて酷い。鎮火させるのが大変でした。もうジョー様とは2人では会えません“ 実際さっちゃんは僕の誘いを断り続け、ようやく「食事だけなら」という約束で逢瀬となり、「くんずほつれつ」となるまで1年かかった。それからは毎月してるけど。女ゴゴロはむつかしいどすなぁ。
【もう少しさっちゃんの話】
少し時間はかかったけれど、関係が出来てからは月に1度か2度、限られた時間で逢瀬を楽しんでいる。さっちゃんとのSEXはもちろん魅惑的だけれど、時間の制約もあって食事だけを楽しむこともある。さっちゃんの言う通り、京都のお店が全て美味しいわけではない。それでも他の地域に比べればレベルの高い店が多いと思う。和食、イタリアン、天ぷら、まち中華、親子丼 蕎麦屋、パン屋、和菓子屋、それぞれの分野で2人のお気に入りの店ができた。どれも決して高い店ではない。若手の料理人の店が多くそれほど有名店でもない。一度さっちゃんのリクエストで超高級和食割烹?に行ったことがある。お一人様6万でお酒を入れれば7万を超える。もちろん、悪くはない。どれも色彩りの美しい料理で箸を入れるのに躊躇する。器は魯山人はまだしも、仁清登場。緊張して料理が楽しめない。そもそもジョーは支払いが1人3.5万を超えると、どんなに美味しい料理でも値段の方が勝ってしまう。何せ今回は2人で15万弱だ(カードは使えない)。当然ながら?値段の圧勝。それでこの店は美味しいんだかまずいんだかわからない店というのが僕らの評価になってしまった。こんなこともあるけれど、ジョーにとってお酒と料理が楽しめるのはさっちゃんの魅力の大きな一つだ。そして好奇心旺盛で、新しいことに挑戦していく彼女の姿勢もまた魅力的だし、美しいくもある。さっちゃんには絵を観る習慣はなかったようだけど、今ではジョーに付き合ってしばしば展覧会に出掛ける。時にジョー以上に熱心に鑑賞し、ジョーを喜ばせ驚かせてくれる。彼女の絵の感想を聞くのはSEXと同じくらい楽しみの一つだ。
さっちゃんの方もまたジョーに刺激を与えてくれる。さっちゃんは長年お茶をやっていて、お免状も持っている。さっちゃんと仲良くなった頃、ジョーはちょうどいしいしんじの「且坐喫茶」を読んだばかりだったからお茶を始めたいと思っていた。本を読んでいたから正座はある日突然慣れることや煩雑な作法もそれぞれ理由があり、一つも省略できないこと、それでもお茶の心はおもてなしにあることを知っていた。だから敷居が高いと思われがちなお茶の世界にスッと入ることができた。紹介者がさっちゃんだったし、一緒にお稽古できるのも嬉しかった。そしてそれ以上にお茶を始めるとグッと人間関係が広がったのには驚いた。京都では人間関係を作るのに苦労すると思っていたからこれは嬉しい誤算だった。しんじさんが言うようにお茶は向こうからやって来るものだし、本来お茶は社交場でもあるから人と人が結びつくのは自然なこととなのだけれど。
ああ、さっちゃん、ありがとう。君のことを考えると時々感謝の言葉を絶叫したくなる。忍びあう恋?だけどこれからもよろしくな!