仕事としての愛人、パパ活。
前回いただいたコメントへの返事を考えている時に、ふと『百萬男』という番組を思い出した。
作家の筒井康隆がMCを務める番組で、無作為に選ばれた一般人に100万円を渡し、5時間以内に使い切る(借金返済などはNG)ことでクリアとなる、なんとも名状しがたい感覚を覚える企画であった。
当時の私が昭和の苦学生並の貧乏人だったからなおさらなのかもしれないが、それはともかく、読まれている方の中には月に100万円ぐらいであれば渡し渡されている方もおられるかもしれない。
その境地には残念ながら達していないが、近い感覚を覚えたことはある。それが最初にオファーした4人の最後の一人、えりかさんである。
Contents
えりかさんとの出会い
オファー時にはA市中心街がNGと聞いていたため、県内のホテル内レストランを予約し、ロビーで待ち合わせることとしたものの、早く着きすぎてしまった。
ロビーはかえって落ち着かず、近くのコーヒーショップで時間を潰す。初対面での待ち時間はほんの30分ほどでもやけに長く感じる。
時間近くとなりホテルに向かうと、ちょうどロビーに着いたところで電話が鳴った。
えりかさんだ。入口まで迎えに行くと、少し暗い雰囲気の女性が待っていた。
例えるならばメーテルといったところだろうか。銀河鉄道観たことないが。いずれにせよ笑顔の登録写真とずいぶん印象が違うなと思いつつ、とりあえずレストランに向かう。
が、エレベーターでも無口。席に着いても無口。飲み物もソフトドリンク(これは私が車だから気遣ってくれたのかもしれない)。コース料理が終わるまでもつのか、これ。
かろうじてこちらの質問には答えてもらえるものの、えりかさんからの問いかけや自己開示は特になく、淡々とした時間が過ぎる。
やけに前菜の人参が固く感じられる。
ついにはステーキにかけられたマデラソースからも風味が感じられず、多分もう会うことはないのだろうな、と思いながらジンジャエールのおかわりを頼む。
話が続かないためにストローで氷をもてあそんでいるといつの間にか飲んでしまっていたようだ。
念のため、デザートを食べながら「この後どうする?」と尋ねてみた。
すると「大丈夫です」と返ってくる。
いや、お互いに心の準備できていないと思うよ。少なくとも俺はできていない。そう思った私は「じゃあドライブでもする?」と訊いてみた。
すると「うん!」と本日一番の、いや唯一の笑顔で返答する彼女。人間どこで琴線に触れるかわからないものだ。
食事中には一切込み入った話をしていない反動か、車中でのえりかさんは存外によく話した。
「さっきのステーキ美味しかった!」
「そうだねー(話弾まなかったのに?)」
「カコさんと出会えてよかった!」
「ホントにー、よかった(食事中お通夜みたいだったのに?)」
「でも、せっかくオシャレしたのに風強くて髪が乱れちゃった」
「風強かったねー(いやいや、それよりなにより……)」
いや、もう何も言うまい。思うまい。気をとりなおそう。
「そういえば、えりかちゃんは今会ってる人いるの?」
「ううん、いないよ。半年ぐらい続いてた人がいたけど終わっちゃった」
「へえ、どんな人だったの?」
「えっとね……」
《中略》
「へえー。っていうか結構しゃべるね。食事中が嘘みたい」
「すごい緊張してたの! オファーもらった時も若くて驚いたし、会ってみたらすごい真面目そうだし。普段はもっと愛想笑いとかするよ!」
「いや、してくれよ(笑)」
「できないよー」
「相手が竹内涼真だったらどうせ笑顔になるくせに」
「竹内涼真ヤバい(笑)。でも一番好きなのは真剣佑」
「マッケンユー?」
「新田真剣佑。知らない?」
「(グーグルで調べる)あー、千葉真一の息子だ。格好良いね。ていうかこんなの来ないから(笑)」
詳細は大分割愛したが、食事中が嘘のように和やかに話が進んだ。
それにしても会話が若い。ついていけない。小室哲哉はギリギリ知っていてもglobeは知らない世代なんだな、とよくわからない実感を抱いた。
結局のところ、えりかさんとしては、ネナシカコはアリだったらしく、また、私も車中でのえりかさんの笑顔がかわいらしく思え、送り届けるべく彼女の自宅を目指していたハンドルを切り返すこととなった。
そして、えりかさんとは多い時は週に2回会う付き合いが始まった。前回のコラム冒頭を撤回するようでなんだが、第一印象からは想像できなかった結果である。
後に聞いたところによると、えりかさんはCタイプど真ん中の人であった。
タイプ紹介通り相性次第というわけである。そして、基本的に相手は一人いればいいとの考えらしく、二度ほど「オファー来たんだけどどうしよう?」と嫉妬を煽る材料に利用してきたぐらいだ。
もっとも、「いいじゃん、行けば」との回答を受けたえりかさんの不満顔に妙に満足感を得ているあたり、私も大概なわけだが。
恋人とも、愛人とも、もちろん友達とも名付けることのできないファジーで心地良い関係が3ヶ月ほど続いただろうか。不確かな二人の関係はおぼろげに輪郭を変えながら、しかし確実に終焉に向かい始めた。
関係の変化と別れ
初回の食事中こそ微妙な空気が流れたものの、その後の付き合いで居心地の悪さやぎこちなさを感じたことはなかった。
むしろ恋人かと見紛うような内容のLINEが日々繰り返され、その中には好意を示す発言が多分に含まれていた。
あるいは、空き時間に別宅に来ては何をするでもなく適当に過ごし帰っていく。こちらが気後れするほどに彼女の言動すべてが好意に満ちていた。
明確に何が原因と言えるほどのものはない。
その後徐々に会う頻度が減り、ついには言い争いをした末に修復もろくにできないまま関係が終わった。
ただそれだけの話だ。もはや当時のやりとりを正確に思い出すことはできないが、「会いたい」と言うえりかさんに対して「その割に実際には予定合わせないよね」みたいに返答したのが端緒だったように記憶している。
彼女は最初こそ戸惑ったものの、次いで言い訳をし、最後には怒った。
もちろん彼女にも言い分があろうことは承知しているし、私も矛の収めどころを誤った感は否めない。
振り返ればそこまで怒ることでもなかったような気もする。しかし、当時の記憶を辿るに、その少し前からえりかさんは出会った当初の彼女からずれ始めていて、そのずれが日々大きくなっているように思えていた。
むろんそれは心地の良いものではなかった。
私と出会う前にも何件かオファーを受けてデートしていたえりかさんだが、継続しなかった理由を問うと、「仕事だって割り切れるのは1回目だけ」という答えが返ってきた。
つまり、彼女の基本観によればセッティングによるデートは仕事であり、2回目以降はプライベート(あるいはその派生)ということになる。
事実、彼女は自分の行動圏でデートすることをまったく厭わなかった。
そして、その姿勢が入会したての私にはとても好ましいものに感じられていた。
しかし、結果から見ればプライベートあるいはそれに近いこの付き合いが破綻をもたらしたことは疑いない。
この付き合いは、お互いが気分で動くことを暗黙の内に承認し、いつしか甘えを生み出してしまった。
恋人ではない以上、この関係が長続きするはずもなく、お互いに徐々に醒めていく。
彼氏を求めているわけでもないえりかさんは仕事であることを思い出し、不倫を望んでいたわけではない私は金銭の持つ対価としての価値に気付いてしまった。
仕事としてのパパ活、愛人関係
誤解を恐れずにいえば、私は職業的愛人からパパ活に至るまですべて『仕事』として認識している。
この場での恋愛は幻想に過ぎない(あるいはセッティング料とは幻想に払う代金なのかもしれない)。問題は『仕事』の包含する意味もしくは質である。
日本語では端的に仕事と表現するが、英語に置き換えると、一般的(抽象的)な『work』に始まり、『job』、『task』、『labor』、『business』と実に様々である。
blow jobに代表されるような『job』を単調な作業に近い概念とここでは定義づけるとして、女性が発言するところの仕事とは、概ね『business』と、『labor』もしくは『task』とに二分されるのではないだろうか。
私を含む多くの男性が思うところの仕事が前者である一方で、多くの(オファーが来ない、オファーが来ても続かない)女性が思うところの仕事とは後者、『labor』に近いのではないだろうか。
『labor』は「時給○○円」とか「○○円稼ぐ」いう考え方と親和性が高い。
自分の仕事が時給いくらになるのか、牛丼何杯分なのか、誰もが一度は考えたことと思うが、こうした短絡的で即物的な発想がモチベーションを維持させないことを多くの男性会員は経験的に知っている。
ビジネス感覚、つまり、リスクとリターンを意識し、どの程度のボラティリティまで許容できるか、こうした平衡感覚を持てる女性はやはり魅力的に見えるように思う。
そういう意味ではプライベートでモテる女性と倶楽部でモテる女性とは必ずしも一致しない。幸いに今まで出会ったほとんどの女性は素敵な方々だったが、風俗的な感覚の方はやはり『labor』寄りだったように思う。
途中から横文字だらけでひどく読みにくくなっているが、それだけ交際倶楽部での雑感を言語化するのが私の頭では難しいとご容赦いただきたい。
蛇足になるが、最後に。
blow jobはoral businessと改めるべきではないかと思う。あれほど試行錯誤に富んだものはなかなかないのではないだろうか。
ネナシカコ
※記事内に記載の名前「えりかさん」は仮名です。ユニバース倶楽部の会員サイト内で探しても該当する名前の女性はおりません。