恋愛ワクチン 第一話「首を絞めてほしい女の子」
『恋愛ワクチン』
恋やセックスの欲求は時として病気のように人生を破壊します。これを予防するのが恋愛ワクチン。
入会費とセッティング料を払えば、誰もが接種でき、安全に疑似恋愛を体験できます。
「じゃあ、まず首輪をつけようか。」
「えっ・・(ここでですか?)」
タクシーの後部座席。隣に座っている女の子とは初めて会ってから15分も経っていない。
「ちょっと向こうむいて」
女の子は素直に従う。若いうなじと細いうぶ毛が窓ガラス越しに午後の日差しをうけて眩しい。
マックさんは白い首輪を取り出して、長い髪の毛をからませないように注意しながら彼女の首に回す。そしてしっかりと留め具を皮の穴に通した。
「じゃあ、次はこれも外そう。」
スカートから手を入れて下着を降ろす。
女の子は黙ったまま抵抗せず、脱がしやすいように少しだけ腰を浮かす。
運転手は気が付いていないはずもないのだが、振り返ろうとはしない。ちょっと驚いているのだろう。
15分前、マックさんは女の子とホテルのロビーで待ち合わせていた。
アルバム通りの髪の長い女の子。実はこの子、マックさんがオファーしたのではない。
マックさんは友達のウィンさんと入会した。
ウィンさんはマックさんの取引先の社長だが、どちらかというとマックさんのほうが顧客的なので、マックさんにいろいろ楽しい提案をしてくれる。
ウィンさんがネットで調べて交際クラブを検索し、一緒に面接に行きましょうと背中を押してくれた。
そんなウィンさんからメールが来たのは3日前のことだ。
「すごく面白い子みつけました!」
その日の午後、マックさんはペットショップにいた。
会社を抜け出してまで興奮して買い物に出かけたのは、愛するペットのためではない。
マックさんは犬も猫も飼っていない。
そもそも大きさの違う首輪をいくつも選ぶなんて、普通のお客はしないだろう。
マックさんは白い首輪を選んだ。
その手の通販やお店で売られているのは、だいたい赤やら黒やらで、実にグロテスクだ。
マックさんの趣味に合わない。清楚でかわいい、愛らしいのが良い。女の子だってそのほうがいいに決まっている。
さて、女の子とロビーで会って、お茶か食事するかどうかを聞く。
お任せします、とくにお腹も減ってないし喉も乾いてないと彼女は答えた。
それならすぐに移動でもいい?はい、彼女は朗らかな笑顔で返す。
女の子っていうのは、お茶や食事が好きなのではない。そんなのは建前だ。
頭の中は男性と同様、セックスとお金がほとんどを占めている。
あとは、美容やお洋服や奨学金やバイトのシフトや・・。だから気を利かせて、さっさと繰り上げて本題に入るのが男性側のつとめでもある。マックさんの持論だ。
マックさんはウィンさんと一緒にクラブに入って本当に良かったと思う。
交際クラブは最初の出会いの場の提供なのだから、どちらかがオファーした女の子とデートした後、女の子の了承を得て他方に紹介しても、規約違反ではない。
さて、タクシーの運転手さんにマックさんは、いつものホテルまでの道を指示する。運転手さんは「はい」と最小限の返事で答える。
マックさんは女の子を引き寄せてやさしく髪をなでる。
ロビーの待合のソファに座って、簡単な打ち合わせはした。
「ウィンさんから聞いたけど、恥ずかしいのや痛いのはOK、汚いのはNG、間違いなかった?」
「はい」
彼女は20才になったばかりの学生さん。
女性というのは、10代後半から20台にかけて、同年代の男の子よりもはるかに深い人生を経験する。
彼女は同年代の男の子とは付き合えないらしい。
それは「首を絞めてくれない」からだそうだ。
付き合った男の子に、彼女からそれとなくお願いしてみた。
しかし、怖いのか、ためらって強く締めてくれない。強く、意識が遠のくくらいでなければ駄目なのだ。
彼女は以前付き合っていた年上の男性に首を絞められて、初めて絶頂を味わった。
その男性とは別れたけれど、あの快感が忘れられない。だから、上手に首を絞めてくれるおじさんを探してクラブに登録している。
持つべきは医者の友である。
マックさんは首絞めに詳しいわけではない。そういう女性がいることは一応知ってはいたが、マックさん自身Sというわけではないので、首を絞めること自体に快感は覚えない。
しかし、それを強く求める女性がいるとなれば、話は別である。新鮮なことはマックさんは好きだ。夜中に久しぶりに興奮しながらネットで検索した。
まず、心配なのは、首を絞めて、女の子が死んでしまわないかという危惧である。
これだけは絶対に避けなければならない。
実際に首絞めセックスによる死亡例というのはあるようだ。
しかし、死亡しているのは全て男性で、ロープなどを使った自慰によるものらしい。
首が絞まって意識が遠のき、呼吸が出来ないまま窒息死してしまうのだろう。ロープなどを使わず、手で絞める分には、死ぬことは無さそうだ。
その後、医師の友人に、酒の席でそれとなく聞いてみた。
すると面白いことを教えてくれた。
首を絞めるというのは、不整脈の治療手技としてあるのだそうだ。
彼に、どうやってやるのかを教えてもらった。首の正中には気管がある。
ここを圧迫しては絶対にいけない。窒息してしまうし、実際に女の子は咳き込むばかりで全然気持ち良くないようだ。
押すのは、気管の両横のくぼみ、頸動脈が拍動している、まさにここである。左右同時でなければならない。
マックさんは医者ではない。
いざというときは彼の携帯に電話しよう。
持つべきは医者の友である。
さてホテルに着いた。マックさんはタクシーをホテルの駐車場内まで進ませる。
首輪をつけて両手を後ろで縛られた女の子が、ホテルに連れていかれるのを誰かが見て、万が一通報されでもしたら厄介だからね。
タクシーの運転手さんには「お釣りはいいよ」と多めに渡しておいた。
お金を受け取る際にも決して振り向かなかった運転手さんが、マックさんたちが降りてホテルのドアを開けるまでは、しっかりこちらを見ていた。
ホテルで部屋を選んでエレベーターに乗る。
ここでマックさんは女の子を全裸にした。女の子もびっくりして怯えたような顔はするが、決して抵抗はしない。要所では協力的である。
全裸に剥いて、後ろ手に縛って、首輪にリードをつけた女の子を連れて、エレベーターから部屋までを歩いていく。
エレベーターのドアが開く時が少しどきどきした。
ほかのお客さんと出くわすかもしれないからね。しかし、仮に見られたところで、ここはそういうホテルだ。問題になるはずもない。
読者の中には、交際クラブに登録している女性会員もいるだろう。
友達と登録したり、ツイッターをしている人の中には、小規模なコミュニティを作って情報交換している人もいる。
しかし、そういう子たちであっても、他の女の子がどういう「交際」をしているのか、真実は知らない。
女の子たちはお互いプライドあるからね。
自分が首絞めて欲しくてクラブに入ったなんて本音、他の女の子には決して言わないもの。
女の子たちから見ていろいろなおじさんがいるのと同じように、女の子もほんとにいろんなタイプが居るんですよ。(続く)
マックさん