「交際倶楽部の言葉学『いたたまれない』」その1
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慎重さとバランス感覚が重要
いたたまれない(居た溜まれない)=その場にじっとしていられない。これ以上辛抱していられない。
今更であるが、ジョーは妻帯者だ。
それ故倶楽部活動においては慎重さとバランス感覚が重要だ。
ジョーが某地方都市で登録しながら、東京のみで活動しているのはジョーが慎重さにも欠けているし、
バランス感覚にも優れているとは言い難いと自覚しているからだ。
後述するように妻はジョーの一挙手一投足を監視するようなタイプではないが露見した時の荒れ方は半端じゃないの で
理屈抜きに怖い
という感覚が先にくる。
ジョーの場合、地元での活動はその可能性を格段に上げる。
容認している夫婦が少なくない
世の中には色々な夫婦関係があるから、夫又は妻の或いはお互いの婚外活動に無関心であるか容認している夫婦が少なくないことは承知している。
ジョーの身近にも2組そんな夫婦がいる。
そのうちの1組はかなり極端で、愛人が本宅に半同居しているのだ。
年に何度かの家族旅行も妻・娘と共に愛人も同伴するという。
色々な事情と経緯があって今の形に落ち着いたようだから、
本人たちにとっては今の形が自然なんだろうけれど、やっぱり一般的には例外に属するだろう。
話はやや逸れるが、伊藤博文の場合も妾の窓口になっていたのは本妻だそうだ。
伊藤博文は妾2人との3pが大好きで、プレイ部屋?まで妾を案内するのが、本妻の役割だった。
そのことを人から咎められると
「伊藤にはあれしか楽しみがありませんから」
と答えたという。
時代性も考慮しなければならないが、羨ましいようなそうでないような話だ。
ジョーの書斎は火薬庫だ。
ジョーの場合、婚外活動が妻にバレたら嵐が巻き起こる普通?の家庭だ。
「ジョーにはあれしか楽しみがないですから」
と言ってサクラちゃんやアリス様(いつか彼女についても書きます)を案内するような妻ではない。
あっ、当たり前か。
そもそも1 度しか経験ないけど、ジョーは3p好きじゃない気がする。そういう問題でもないのかな?
普段の妻はかなり緩いというか寛大な方だ。
「ジョールール」により「疑わしきは被告人の利益に」という原則が妻によって承認されている。
それだけでなくジョーの書斎は治外法権だ。
だから書斎で発見された証拠は証拠として採用されない。
大きな声では言えないし自分で言うのもなんだが、ジョーの書斎は火薬庫だ。
マッチ一本で大爆発を起こしてしまうだろう。
このようにかなりの特権を有しているジョーであるのに、いともたやすく決定的な証拠を握られてしまうことがある。 その過去の風景を「いたたまれない」という言葉をキーワードに綴ってみたいと思う。
書斎は治外法権
それは3年近く前に起こった。バレンタインデーの後だから2月のことだ。
日曜日だったことも覚えている。朝方から書斎にいた。
日曜日はメールの整理をする日なので、その時もpcを立ち上げていたと思う。
妻から
「朝ごはんよ」
という声が掛かった。
その声には後から考えると怒気を含んでいたが当然その時は気がつかない。
ダイニングに移動してテーブルを見た途端全身が凍りついた。
そこにはピンクの便箋が無造作に置かれていた。
ジョーは何が起こったか瞬時に理解した。
しかしこれから何が起こるかは全く想像できない。
その便箋はバレンタインデーのチョコレートと共に貰った当時の愛人からの手紙だった。
その手紙を読めばジョーと愛人がどんな付き合いをしているかが一発でわかる。
そんな最高機密文書なのにジョーは後から読み返そうとジャケットの内ポケットに入れていたらしい。
あまりに不用意な行為だ。
妻としても証拠をつかもうとしていたわけではなく、ジャケットをクリーニグに出すためにポケットを探ったら機密文書を発見したというわけだ。
ジョーは茫然自失で何をして良いか分からなかったがとりあえず席についた。
最初に考えたことは不謹慎にも
「どうしてジャケットを書斎で脱がなかったか」
ということだった。
書斎なら治外法権だったのに。
でも今更後悔しても遅い。そもそもこの場合治外法権が適用されたかどうか疑問だ。もしかしたら「書斎は治外法権」という外交官特権?
剥奪されたかもしれない。
「居る」ことが「堪えられない」
妻が無言で朝食をカウンターに置く。それをテーブルに配置するのがジョーの役目だ。
でも今日はとっても置きにくい。
だってテーブルの真ん中に便箋があるから。
便箋をどければ済むことだけれど、ジョーにはできなかった。便箋にはさわれない。
自然と便箋を避けるようにしかし便箋のすぐそばに茶碗や皿、お椀が並ぶ。妻も席に着いた。
「いただきます」
とは言ったけれど、二人とも無言である。味噌汁をすする音が響き渡るほどの沈黙だ。
ジョーは怖かった。
これから何が起こるかわからなかったし、想像できなかったから。自分を落ち着かせるための言葉を探した。
それが「いたたまれない」だった。この言葉の用例としてこんなにふさわしいシーンはないだろうとジョーは思った。
だって「居る」ことが「堪えられない」のだから。
ジョーは逃げ出したかったが、逃げることはできないし、してはいけないとも思った。
このシーンを体に刻み込むことしかできない。もちろん箸を置くこともできない。
置いたら最後どんな展開が待っているか分からなかったから。
そこでとにかく朝食を食べることに集中しようとした。しかし思うように喉を通らない。
お茶で流し込むようにして朝食と格闘するジョー。
そしていつまで続くか分からない沈黙が更にジョーを苦しめる。
まさか「離婚」を言い渡されることはないと思うが、かなりの代償を払わされるのは確実だ。
愛人とも別れさせられるだろう。自分の慎重さに欠ける行動が妻と愛人の両方を傷つけてしまう結果になった。
いたたまれないだけでなく、自己嫌悪に苛まされるジョーなのであった。
「あのカード忘れずにね」宣言
永遠に続くかに思われたこのいたたまれない、重苦しい沈黙は意外にも早く破られた。
朝食を食べ終わった妻が突然、宣言したのだ。
「これから出かけるから支度してね。あのカード忘れずにね」
ジョーは歴史にはあまり詳しくないが、歴史上重要な宣言があることくらいは知っている。
「アメリカ独立宣言」や「フランス人権宣言」、身近な?ところでは「ポツダム宣言」などだ。
我ながらサンプル例が少ないが、これら歴史上の宣言は「戦いの歴史」つまり「人々が流した血の歴史」でもあるだろう。
そしてジョーにとっての「血を伴う宣言」はこの妻の発した「あのカード忘れずにね」宣言だ。
「あのカード」とは何か?それはその数ヶ月前にほぼ騙されて作ったブラックカードの事だ。
このブラックカードの宣伝文句は「戦車も買える」だ。
まさか戦車を買うことはないと思ったが、これから「戦車が買えるほど」の「お買い物」が待っているかもしれない。
それは同時にジョーの財布というか銀行口座が真っ赤な血で染まることを意味する。
問題はどれくらい赤くなるかだが、全く予想がつかなかった。ただ連れて行かれるお店はわかっている。
プレゼントしても「思いやりが足りない」
市内の宝飾店である。
その宝飾店の3 代目社長と妻は学生時代の同級生だ。専務でもある社長夫人とジョーは旧知の中で、
お互い独身だった頃2度ほど互いの道具をさすったり、こすったりした仲だ。
家族ぐるみというほどでもないけれど、ジョーは社長とも仕事上の繋がりがあった。
ところでジョーは妻に指輪を買ったことがない。妻だけにだけでなく、彼女や愛人を含め、指輪をプレゼントしたのは1 度だけだ。
妻と結婚した時は時計とイヤリングを贈った。別に宝飾品が嫌いなわけではなく、
誕生日プレゼントやその他の記念日にネックレスやブレスレットを贈ったこともある。
時計以外はこの店で用意してもらうことが多い。
社長や専務は妻の好みを熟知しているから頭を悩ませずに済むから重宝している。
妻にはそれがどうも不満らしく、せっかくプレゼントしても「思いやりが足りない」と言われることが多かった。
そもそも妻は口には出さないけれど、指輪、それも誕生石のダイヤモンドの指輪が欲しいのだ。
心を落ち着かせるための魔法の言葉
ジョーが指輪を買わない理由を今は書きたくない。
ただ1 度だけ贈った指輪がトラウマになっているとだけ言っておこう。
それを妻は知っているので、直接ジョーにねだることはなかった。
しかし娘を通して
「ママは指輪が一番欲しいらしいよ」
と言われたことはあるし、
専務からも「いい加減時効じゃないの」と何度も言われた。
そしてジョー自身も「次の誕生日は指輪かな」と思い始めていた矢先だった。
だから「それが2ヶ月早まっただけ」と言い聞かせようとしたが事情が事情だけに無理だ。
何せ選択権は怒りに燃えた?妻にあり、「戦車並みのダイヤモンド」を所望されているのは明らかなように思われた。
しかし、そもそも戦車っていくらなんだ?
支度の整った二人は家の前でタクシーを拾い、市内中心部にあるその店を目指す。
店に着くまで妻は一言も発しなかった。ジョーの方はと言えば、心の中で
「いたたまれない、いたたまれない」
と呪文のように繰り返ししていた。
それはジョーにとっては心を落ち着かせるための魔法の言葉だった。