交際倶楽部の言葉学『死ぬほど切ない』その2
芸術作品を鑑賞
ホテルに着くと手を繋いでフロントに向かった。サクラちゃんと手を繋いで歩いたのは初めての気がする。
フロントでチェックインを済ませ、ボーイの案内を断って部屋に向かった。
部屋に入るとサクラちゃんは修学旅行の高校生並みの喜びよう。ベットの上でジャンプしている。
もしかしたら今時の高校生でもこんなことはしないかもしれない。
本当にサクラちゃんは24歳なんだろうか、疑わしくなってきた。淫行条例で捕まるのはごめんだと心の中で思うジョー。もちろん口には出さない。
けれどはしゃぐサクラちゃんがジョーに抱きつき
「ジョーちゃん、ありがとう!大好きよ」
と言われると全てを許してしまう。
困ったな。部屋は1ヶ月分の家賃の部屋だから1泊だけするには無駄に広い。
何をしようか?サクラちゃんに主導権は握られているからこちらからは何も言えない。相談の結果?とにかくお風呂に入ろうということになった。
サクラちゃんがカバンからポーチを取り出し、さらにその中から何種類ものボトルを出してバス横に並べていく。
「これは〇〇用でしょう、これは〇〇ね」
1本ずつ説明してくれるがジョーには何のことかさっぱりわからない。
できれば日本語で話してほしいと思った。一旦ベットルームに移動して下着姿でサクラちゃん登場。
フランス製の高級下着で鮮やかなブルーが眩しい。それがサクラちゃんの白い肌にマッチしている。噂通りのため息が出るような素晴らしい肢体だ。「ブラジャーを取って!」と言われたので、ホックを外す。振り返るとこれまた噂のGカップ。胸を寄せながら
「ちゃんとG カップでしょう?」
とサクラちゃん。
ジョーは美しいと思った。しかし鍛えているというくびれのあるウエストも含め、完璧な肉体すぎて今ひとつ煽情的な感じがしない。ジョーは芸術作品を鑑賞しているような気分だった。
心は全く欲情しなかった乳液
浴室も十分に広いから、二人でバスタブにも浸かれる。キスを繰り返し、ジョー自身を弄ばれたりしもしたが、決してエロな雰囲気ではない。風呂場でじゃれている感覚だ。
そうだ、まだ娘が小さかった頃、一緒にお風呂に入って、遊んだ時と同じだ。これで水鉄砲があれば大騒ぎになっただろう。
サクラちゃんはお風呂で色々やることがあるというので、ジョーが先に体と頭を洗い、浴室を出た。
バスローブを着てドライヤーで乾かした後、ベットの上に大の字になった。少しだけ眠ったようだ。
「寝ちゃダメ」
というサクラちゃんの声で我にかえる。気がつくとジョーの上に覆いかぶさっていた。軽くキスをされた後、サクラちゃんは乳液を手に取り、
「美肌効果があるんだよ。ジョーちゃんを若返らせてあげる」
と言いながらジョーの顔に乳液を塗り始めた。やられ放題だが、ジョーはとっくに抵抗するのは諦めていた。顔のマッサージが終わると、サクラちゃんはニヤニヤしながらバスローブをめくってジョー自身に乳液を塗り始めた。
「こっちも若返らせちゃおう!」
と言いながら。トーピング効果でそれなりに反応する。「大きくなった!」とサクラちゃん。でもジョーの心は全く欲情しなかった。
キャーキャー言われながら股間に
親愛なるユニバース倶楽部男性会員の先輩諸氏。諸先輩方はあっちの方はどうされているのでしょう?特に年齢が半分くらいの女子と同衾する場合です。
具体的に申し上げますと、キャーキャー言われながら股間にニュー液を塗られた場合はどのように対処するのが正しいのでしょうか?
結局この日は「あっち」の方はなかった。
ツインでの部屋だったけれどサクラちゃんは「一人で寝るのは寂しい」と言ってジョーの腕の中で寝息を立てている。
そう言えば娘がまだ小学校に上がる前、よくジョーの布団に潜り込んできたものだ。
サクラちゃんの寝顔を見ながら数十年前の娘の寝顔を思い出す。
サクラちゃんにとって自分の存在はどんな位置付けなんだろうとジョーは改めて考えてみた。
どう考えてみても財布のヒモの緩い、文字通りパパであることしか思いつかなかった。
最初からわかり切ったことだけど当たり前のことの方が受け入れ難いこともある。その夜のジョーはイールと同じように
「死ぬほど切な」かった。
それでも睡魔には勝てず、いつの間にかジョーも眠りに落ちた。翌朝目覚めると、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。隣に寝ているはずのサクラちゃんはいなかったけれど、シャワーを浴びる音が聞こえている。
ややあってタオルを巻いたサクラちゃんが登場。「おはよう!」と声をかけられてキスをせがまれる。やっぱり特別な朝だ。朝食はルームサービスをとった。
バスローブ姿でコーヒーを飲みながらサクラちゃんを見つめるジョー。
すっぴんの彼女はとっても幼く見える。ジョーの女性の好みはロリコンと正反対にあると思っていたがもしかしたら違うのかもしれない。
サクラちゃんは今日はお休みだから少しお部屋でゆっくりしていくという。レイトチェックアウトのリクエストも出していたからゆっくり過ごせばいい。ジョーの方はと言えば、この後このホテルのラウンジで打ち合わせがあるから、慌ただしくシャワーを浴び、身支度を整えた。
部屋を出るとき、ゆっくりとしたそして長めのキス。ドアから顔だけ出して見送ってくれるサクラちゃん。やっぱりかわいいな。ジョーも振り返り、手を振って急いでラウンジに向かった。
感情以上に心が揺さぶられること
約束の時間を15 分ほど遅刻。ラウンジに向かうとオサム君はノートパソコンを取り出してメールチェックをしていた。
「おはよう、ごめん、お待たせ」
「あっ、ジョーさんおはようございます。今日はここにお泊まりでしたか?」
「そうだよ。わざわざ呼び立てすまなかった。しかもちょっと遅刻しちゃったし。」
「いえいえ、外に出れるのは僕も嬉しいですよ。それにしてもこのホテルにお泊まりなんて豪勢ですねえ」
「1泊で駅前マンションの家賃くらいだね」
「あらら?・・当然一人じゃないですよね?」
「まあね」
「羨ましいですよ、僕もジョーさんのような身分になりたいです。で、ジョーさんのことだから、年増なんでしょう?」
と下卑た笑いをするオサム君。隠していたわけではないが、ジョーは元来、若い子が苦手だ。
ここ10 年で3人の女性と付き合ってきた。3人ともタイプは異なるが全て30 代。これくらいの年代の女性の方がしっくりくる。オサム君はジョーの好みを知っている。
「24 歳」
「えー、ジョーさん何かあったんですか?」
「改宗したんだよ。これからは20 代を攻めるよ」
「それって犯罪じゃないですか!お嬢さんは25 歳でしょう?どんな気分なんです、娘と同年代の女性とイタスのって」
「オサム君、朝から声がでかいよ。しかもやってないし」
「やってないって、どういうことですか?家賃の部屋とって。ドーピングはしたんでしょう?」
「もちろん。でもしなかった」
「じゃ何したんです?」
「乳液プレイ」
「何ですか、それ?」
適当に説明しておいた。それでもオサム君は怪訝な顔をしている。
「それって楽しいんですか?」
「楽しいっていうより、死ぬほど切ない、だな。」
「ジョーさん、大枚使って『切ない』ってダメじゃないですか!」
オサム君は45 歳、独身。トライアスロンが趣味で、筋肉バカ。引き締まった肉体が自慢だ。
サラリーマンとしては中々の稼ぎだからそれなりにモテる。
オサム君の言葉を受けてジョーは40 代の自分を振り返っていた。あの頃の自分なら大枚叩いて切なくなっていたらそこに何の価値も見出せなかっただろう。
でも今は違う。「切ない」という感情以上に心が揺さぶられることがあるだろうか?
決して人生を達観しているわけではないが、大抵のことには心が反応しにくくなっている。「切ない」、望むところだ。
オサム君はジョーの答えに納得していないようだったが、サクラちゃんにむしり取られためにも商売に励まなければならない。
「さあ、打ち合わせをしようか」
と言ってノートパソコンの電源を入れるジョーであった。