宇宙倶楽部的交際日記「私的心像風景」沖縄編

新規事業のため沖縄に事務所を構えて4年近くが経過した。

毎月のように沖縄入りしているが、正直上手く行っているとは言い難い。

基本ジョーの見通しの甘さが原因だが、沖縄の慣習というか時間の流れに苦労している。

よく指摘されるように「沖縄タイム」というのがあって基本時間にアバウトというか厳しい言い方をすればルーズである。

もちろん沖縄には本土の会社も沢山進出しているし、ナイチャー出身者も沢山働いているが、いつの間にかウチナンチューの「沖縄タイム」に取り込まれる人が多い。


例えば「7時から飲み会」だとして、時間通りに来ているのは幹事のみで(幹事は時間通りにお店に行くという暗黙のルールがある)8時に全員揃えばいい方だ。

またジョーは一度事務所でアルバイトしてもらっている大学生の卒業式に参加したことがある。

「11時開式」と案内を受けていたが「時間通りには始まりませんよ。ゆっくり来てください」と言われていた。

それでもせっかく招待されたし、何せ卒業式だから遅れて行くわけには行かないので、時間通りに行った。

保護者席はほぼ満席だったが、卒業生で着席しているのは数えるばかりだ。

結局式が始まったのは12時を過ぎていた。

飲み会なら多少時間が遅れても(多少じゃないことが多いけど)

「これが沖縄タイムだ」

と無理やり納得できるかもしれない。

しかし仕事となると話は別だ。

特に工期というものが守られることはほぼない。

確かに現在の沖縄は開発ブームで(昨年の那覇市内の地価上昇率は全国1位だった)職人さんが不足している。

でもこの事情は基本全国どこでも変わらないし、そもそも工期に間に合わせようという発想がないような気がする。

ジョーの計画した建物は新年早々に引き渡しを受けるはずだったが2度のリスケの後、9月になることが判明した。

トホホである。

今回はそんなジョーの沖縄におけるエロを含めた奮闘?を綴っていきます。
 

&月!日

夕方の便で今年5度目の沖縄入り。

沖縄滞在中は事務所の入っているビルの1室を借りている。

沖縄滞在中の楽しみの一つが自炊だ。

レパートリーは少ないし、手際が良いとも言い難いし、味はバカ味だから人には食べさせられないけれど、作っているときは何も考えていないので、ジョーにとっては最高の気分転換だ。

この日も自炊をすべく、材料を求めて近所のサン◯イに買い出しに行った。

割と遅い時間だったけれど、沖縄は共働きだけでなく、シングルマザーも多いからなのかそれなりに混んでいる。

軍服をきた基地関係者の外国人もちらほらいる。

買い物を終えてレジに並び、ジョーの番になった。

レジ打ちは目の大きな如何にも沖縄顔の可愛らしい女の子。

歳の頃は20歳前後だろか。

胸に「実習生 宮◯」の名札。

その容姿だけでなく、名前も沖縄あるあるだ。

会計の算段になり、金額ピッタリに出そうとして財布の小銭に探る。

少しまごついたので

「ごめん、ちょうどを出したいんだよ。ちょっと待ってね」

とジョーが言うと、the 沖縄である「実習生宮◯」さんは

「慌てないでください。いくらでも待ちますよ」

と返す。


ああ、これぞ沖縄タイムだ。

前半でその悪口?を書き連ねたけれど、ごめんなさい。

そして「宮◯ちゃん!俺はお前に惚れたぁ!」と心の中で呟くジョーであった。
 

=月〜日

舌の根の乾かぬうちに「沖縄タイム」の洗礼を受ける。

2度リスケした後、「9月引き渡しは間違いありません」と約束していたのに、「10月中旬引き渡し」の連絡が入る。

流石に怒り爆発で責任者を事務所に呼びつける。

声を荒げて何にもいいことはない(というより悪いことが起こる)ことはよく分かっているが、我慢できなかった。

修行が足りんなぁと反省するも時すでに遅し。

未だに拳の降ろし方がよく分からん。


夜は定期的に沖縄入りするオサム君と痛飲。

色々と愚痴を聞いて貰った。

するとオサムからは意外な話題が。

「そうそう、ナナちゃんがジョーさんに会いたがっているらしいですよ!」

「おい、おい、誰から聞いたの?」

「ミカちゃんですよ。付き合いが復活したんですよ」

「それは良かったねぇ。でもナナ姫とは連絡取れないんだよ。ラインはブロックされているし、携帯も着信拒否だよ。」

「じゃあミカちゃんに言ってナナちゃんからジョーさんへ連絡入れるよう伝えてもらいますよ。良いですよね?」

これまでの経緯を考えれば即答で断るべきだろう。

でも出来なかった。

付き合いがあった頃のナナ姫に対する気持ちがありありと蘇ってきたからだ。

急に気持ちよく酔えなくなり、珍しく一次会で解散。
 

Ω月β日

ナナ姫からの着信は翌日の夜にあった。

この日は一日中携帯を手にしていたから本当はワンコールで出れたが、留守電になるギリギリでボタンを押した。

「ハイ」

出来るだけ素っ気なく、声を出したけれど、心臓はバクバクだし、携帯を持つ手は微かに震えていたと思う。

「ジョーちゃん、久しぶり?元気?」

「うん」

「沖縄にいるんだってね。今度はいつ上京するの?」

「明後日」

「じゃあ、明後日会おうよ。たい焼き屋さんに◯時でどう?」

「いいよ」

「楽しみにしてるよ!じゃあねぇ!」

というわけでナナ姫に会うことになった。

折角、無限地獄から生還したと思ったのに。

一方で思いを完全に断ち切りたいという考えもあった。

そのためにはジョーが本当に聞きたいことを聞かねばならない。
 

α月$日

ナナ姫が待ち合わせに指定した、たい焼き屋さんはジョーにとってその甘さ控えめの美味しい餡子以上にセンチメンタルな思い出が詰まっている。

初めて足を踏み入れたのは高校生の時。

当時の彼女に連れられてだ。

それ以来、色々な女子(時には男子とも)とここへ来た。

東京を離れてから足が遠のいた時期もあったけれど、ここ数年上京する機会が増えたので、再び通い始めた。


ナナ姫は洋風な外見に似合わず、たい焼きが大好きだ。

だからナナ姫と交流があった頃はよく一緒に来た。

美味しそうにたい焼きをほお張るナナ姫を見るのがジョーは大好きだった。

待ち合わせの時間より早めに店に向かったが、ナナ姫は既に店の前に立っていた。

ジョーを認めると大きく手を振っている。

封印していたはずの過去の映像が一気に蘇る瞬間である。

例えばバルセロナの市場で美味しそうにフルーツを試食しているナナ姫の横顔。

ベットから出る時の髪をかきあげる仕草。

食事をしているとき、ジョーの口元についているソースをナプキンで拭う悪戯っぽい目。

朝起きる時の気だるそうな姿。

「ああ、俺はナナ姫が大好きだったんだなぁ」

と改めて痛感するのだった。

「ジョーちゃん、久しぶりだね。ちょっと痩せた?」

「姫に振られたのがショックで」

「きゃはは・・。そういうところジョーちゃん全然変わっていない。相変わらず面白いね!」


正直ジョーは全然面白くない。

そもそも「そういうところ」ってどういうところだ?

店の2階に上がってナナ姫はたい焼き、ジョーはみつ豆を注文する。

互いの近況報告をする。

ナナ姫は新規事業についてあれこれと話してくれた。

改善の余地はあるようだけど滑り出しは順調なようだ。


一方でジョーは本当に聞きたいことを聞けず言いたいことも言えずにいた。

再び付き合う?イメージが全く湧かない。

それなのに意に反して来週沖縄で会う約束をしてしまった。

魔法をかけられ「NO」と言えなくなったジョーである。

ナナ姫好物のたい焼きをお土産としていくつか持たせて、店を出て最寄りの地下鉄の駅へと向かう。

改札口で昔のようにハグ。

ナナ姫の髪の毛が頬に当たり、彼女の匂いがジョーの全身に広がる。

心臓の鼓動が激しくなり、立っているのがやっとだったけれど、ハグを解くと姫の目しっかり見て一言。

「姫、もう突然連絡が取れなくなるのは勘弁してよ」

「考えとく」

と姫。

ジョーのささやかな人生経験によれば「考えとく」とは「全く考えてない」ときに使う言葉だ。

もう会わないほうがいいだろうなと思った瞬間、ナナ姫の唇がジョーの唇を塞ぐ。

一瞬何が起きたか分からなかった。

我に返ると姫は手を振って改札口とは反対方向に歩き出していた。

その後ろ姿を見つめながら呆然と立ち尽くすジョー。

と同時に愛唱している谷川俊太郎の四行詩が頭の中で駆け巡る。


みつめていると目が信じられない
触れると指が信じられない
愛していると心が信じられない
と 突然すべてを信じすぎてしまう


ジョー再び、無間地獄へ。

とほほ。
 

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