恋愛ワクチン第二十五話 お手当の前借り

ある日女の子から、まとまったお金がどうしても必要になったので貸して欲しい、とお願いされることがあります。

経験ある方多いのではないでしょうか。

その子との関係を続けたいかどうかに掛かっているので、大して気に入っている相手でもない場合は、ラインに返信もせず切ってしまうこともあるし、手放したくない場合には、お金を渡すこともあるでしょう。

いずれにせよ、男性にとっては興覚めで、出来れば遭遇したくない局面です。

しかし、そんな中にも、ちょっとほんのりするというか、人情の香りが漂うこともあります。

今回はそんなお話です。

掃きだめにもタンポポは可憐な花を咲かせます。手入れされた花壇のパンジーとはまた違った美しさです。
 

ケース1 佳穂

「お願いがあるのですが」

佳穂からのラインだ。

女の子からの、このフレーズから始まるラインの内容は、十中八九がお金の相談である。

湯葉はまたか、と顔をしかめた。

佳穂とはユニバで知り合った。

もう2年以上前になる。

相性が良く、ぽつんぽつんと断続的にだが続いている。

知り合った当時は女子大生だった。

大学を卒業して一年間、正社員の仕事についたのだが、どうも職場になじめない。

退職して別の仕事を探そうと思うと、前回会ったときに話していた。

ラインの続きを読むと、やっぱりお手当の前借りの話だった。

3回分15万円を先に頂けないでしょうか?次の仕事が決まるまでの生活費がちょっと足らないんです、とある。

佳穂には、女子大生の時にも、お金の相談を受けて、その時は6回分、30万円を前渡しした。

念のためにラブホで学生証を持たせた顔写真をスマホで撮りはしたが、返ってくるかどうかは判らないと覚悟した。

その時点までで、佳穂は十分湯葉を満足させてくれていた。

だから、返ってこなくても恨みはしない。

しかし、お金渡して連絡取れなくなったら寂しいだろうな。

その後佳穂は、ちゃんと6回分デートして「返済」した。

だから信用はある。

今回も湯葉は言われた通り3回分15万円を前渡しした。

「ありがとうございます。助かります」

「僕がこうやってお金前渡しするの、佳穂ちゃんくらいだよ。たまに女の子からお金の無心をされるけど、そういう子はみんな切ってる」

「ごめんなさい、湯葉さんしか頼れる人がいないんです」

あながち嘘でもない。

ユニバではゴールドで、見た目が少々冷たい印象を与える感じなので、面接スタッフのコメントも良くはなかった。

オファーは私だけだったらしい。

しかし二人きりになると、とても情が深い。

湯葉の中では一二を争うお気に入りである。

そして3回のデートを終えた。

次からはまた都度払いだ。

「これで借り無くなったね」

「そのことなんですが・・また3回分前借でお願いできないでしょうか?」

「えっ?まだお金足らないの?」


「いいえ、そうではないんですけど、私がお金前借りしていると、湯葉さんは私のことを忘れずに、こうして毎週会ってくださるでしょう?それが嬉しくて」

「ああ、なるほど。都度だと1か月以上空くこともあったからなあ」

「もうじき新しい勤め先決まると思うんですが、それまでの私は、学生でもOLでも無く、心の拠り所が無いんです。3回分、湯葉さんとこうしてお会いできると決まっていると、心が落ち着きます。だから、前借り続けさせていただけると嬉しいです」

そういうことか。

湯葉はもちろん15万円を差し出した。

心情が十分に理解できるからだ。
 

ケース2 絵理

数日後、湯葉は絵理という別の女の子とデートしていた。

絵理もまた、1年くらい前にユニバで会った子だ。

この子も最近お金に困っている。

弟が大学に進むことになって、授業料を一括で納めなければならないのだが、30万円足らない。

佳穂とは違うタイプだが、この1年いろいろな遊びを試させてもらったし、そのお礼で30万くらいあげても良いのだが、そういうことをしていると際限無くなってしまう。

一回のお手当5万、それ以上は前借りの形で用立てる、それが湯葉の中で決めたルールだ。

「良かったら、前借りでもいいよ。6回分」

「いえ、それは悪いです、申し訳ないです」

「他の子にもそうやって用立ててるからいいよ。ただし、僕のお気に入りで、かつ信用できる子に限るけど」

「ありがとうございます。でも、まだ日にちはあるので、頑張ってみます」

次のデート。湯葉は絵理に尋ねた。

「どう?お金出来そう?」

「ちょっと足らないです・・どうしても難しかったら、前借りお願いしてもいいでしょうか?」

「もちろんいいけど、なんで前借りそんなに嫌なの?」

「前借りすると、次に会うときは、前借りしたから会うっていうことになるじゃないですか。私に本当に会いたいって思って連絡してくれたのではなくて。それが悲しいです」

ああそうか。

これまた、佳穂とは異なる視点だが、湯葉には目から鱗だった。

母子家庭で貧しいとはいえ、自分の体を売ってまで、弟の学費を用立てることもないのに、と思っていたのだが、絵理はそうやって尽くすことで、相手に自分を必要としてほしいって気持ちが強いんだろうな。

今はやりの言葉を使えば、「承認欲求」がそういう形を取っているわけだ。

佳穂の場合は、前借りすることで、間違いなく3回分は会える=必要とされる、っていう心理だったが、絵理の気持ちもまたわかる。

女の子たちの心って繊細だ。

以上、お金にまつわる、どちらかというとパパ活おじさんとしては目をそむけたい部分を、目をそらさずにしっかりと見てみると、それなりに人生の機微を感じて良かったです、ってお話でした。

たぶん、私は、心の底から女の子が好きなんだろうな。

だから、こういうややこしいところまで美味しく頂いちゃうんでしょう。
 

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