恋愛ワクチン第九十三話 裸コートで映画館・その1
混浴温泉の常連さんたちと歓談していると、特定の成人映画館の話がよく出てくる。
というか、常連さんたちの多くは、その成人映画館で知り合って誘われてこの混浴温泉に来ているみたいだ。
ただその話の内容が、女装した男性がいたり、ホモがいたりとか、あまり食指をそそられるものではない。
なので行くのに二の足を踏んでいたのだが、最近新しい遊びが無くて煮詰まっていたので、思い切って行ってみることにした。
何が発見があるかもしれない。
ちょうど美也ちゃんという娘から「ごめんなさい、生理になってしまいました。H無しでデートはダメですか?」とラインが来た。
「いっしょに成人映画館行ってみない?」と聞いたら「行きます!」と快諾してくれた。
車で20分ほどの距離である。
土曜日のお昼どき。
皆さんは成人映画館って行ったことありますか?
今の若い人たちはそういう存在自体も知らないんじゃないかな。
昔、ネットどころかVHSのビデオテープも無かった頃に、今でいうAVのような動画を観るには成人映画館に行くしかなかった。
一人Hのオカズが紙媒体しか無かった時代の話だ。
まだ残っていたのか。
20才前後の頃に思い切って行ってみた記憶がある。
古い知人に会いに行くような気分。
入場してみて驚いた。
客席は60くらい。スクリーンも小さい。
20人くらいのおじいさんたちが昔の日活ロマンポルノだろうか、いわゆる成人映画を鑑賞している。
まるでデイサービスだ。
もっとも私だって還暦越えだし、十分におじいさんと呼ばれておかしくはない年齢なのだが、ここにいる客層はちょっと違う。
私はたぶんだけど、この人たちより、もう少し肌の色つやも良いし、皺も少ない。
一言で言うと、成人映画館にいるのは、およそパパ活とは縁が無さそうな貧乏くさいおじいさんたちである。
年齢だけなら、私より若い人もいるのかもしれないが、とにかく第一印象は「おじいさん」。
入場料千円ちょっとだし、定年後で行き場所の無い男性たちが、こういうところに集ってるんだろうな。
とりあえずせっかく入ったことだし、ちょっとだけ観て帰ろう。
美也ちゃんと並んで後ろの壁際で立ち見することにした。
すると、同じように立ち見していた男性の一人が、美也ちゃんの横に寄ってきた。
男性「前、会ったことあるよね?」
美也ちゃん「・・・」
男性「掲示板に書き込んでた子でしょ?」
そう言いながら、男性は美也ちゃんのお尻を触っている。
これには驚いた。
混浴温泉でもハプニングバーでも、カップルさんにはまずは男性に声を掛けてくる。
まして、女性にいきなり触って来るなんて展開はありえない。
無秩序なようで、そこには自治的な暗黙のルールみたいなものがある。
マックさん「いや、この子も僕も初めてだよ。いきなりそんな風に触られると、この子怖がっちゃうから止めてくれる?」
そう言いながら男の手を強く払いのけた。払いのければそれ以上は触ってこないようだ。
美也ちゃんをガードしなければならないから、きつい調子で制止したが、その一方で常連さんとは仲良くしていろいろ聞きたいこともある。
マックさん「こちらにはよく来られるんですか?」
男「月に二、三回かな」
マックさん「僕たち、混浴温泉が好きで、そこの常連さんに勧められて来たんですよ。みなさんどんな感じで遊ぶんですか?」
男「以前は館内でも、二階の休憩スペースでも、ヤリ放題だったんだけど、建て替えて綺麗になってからは、ちょっと人が群がると、映画館の店主がやってきて警告するんで、昔みたいにいろいろ自由には遊べなくなったね。ほら、あそことあそこにも監視カメラがあるでしょ?あれで見られてるんですよ。店主の奥さんの『女性にも安心してきて観に来て欲しい』って意向みたいだね」
なるほど。なんとなく分かってきた。
最初入ったときには、冴えないおじいさんばかりだと思っていたのだが、目を凝らしてよく見ると、それなりに若そうな人がちらほら混ざっている。
美也ちゃんのお尻を触ってきたこの男性は40才くらいだろうか?なんか目がギラギラしている。獲物を狙う狼みたいだ。
マックさん「美也ちゃん、せっかく来たし、ちょっと席に座ってみようか?」
美也ちゃん頷く。マックさんが制止した男の手は、完全に引っ込んではいない。押し戻した位置そのままでスタンバイしている。いつまた触って来るか分からない勢いだ。ちょっと離れよう。
美也ちゃんの手を引いて、真ん中あたりの席に座る。
すると男性、なんと付いてきて、美也ちゃんの横に座った。
手はと見ると、指先がわずかに美也ちゃんの太ももに触るか触らないかの感じで危ない。
マックさん「いや、ほんとにこの子怖がって遊んでくれなくなると困るから、おじさん止めてくださいよ」
そう言って再び男の手を押し戻す。男の手は押し戻された位置で再びスタンバイ。油断がならない。
マックさん「前の方にある、赤いテープで仕切られている席は、あれは何ですか?」
男「あれは、カップルさんやジュンメさんの専用席ですよ。受付で言えば案内して座らせてくれますよ。
マックさん「ジュンメって何ですか?」
男「純粋の純に女と書いて純女です。女装した男もいるからね。区別する意味で純女」
手は油断ならないが、親切な面もある人のようで、ちゃんと教えてくれた。
マックさん「美也ちゃん、じゃああそこに座ってみようか?」
美也ちゃん再び頷く。
再び美也ちゃんの手を握って館外の受付へと移動した。
移動する途中で目に入ってしまったのだが、男性同士でフェラしているカップルもいた。ああこれがホモか。
おじいさんたちに紛れて色んな人種がいるんだな。
というか、おじいさんの顔はしているけど、こいつらきっと全員変態に違いない。
受付で告げると、館主らしきおじさんが出てきて案内してくれた。
なるほど、入る時からこうやってガードが付いていれば、女性でも安心して専用席まで辿り着けるってことか。
専用席は最前列で他に座ってる人はいない。
さすがにさっきの男性もここまでは来られないようで、ちょっと一息つくことが出来た。
ところで美也ちゃんは、混浴温泉に行くのが好きなくらいな子なので、ちょっとだけ露出趣味というか、見られる快感を知っている。
マックさん「美也ちゃん、ここで裸になってちょっと歩いてみようか?めっちゃ注目されるよ。なんかあったら僕が守ってあげるから」
美也ちゃん「えーっ?・・だけど今日私生理だから」
マックさん「ショーツだけでもいいけど・・生理用ショーツだから恥ずかしいのかな?」
美也ちゃん「はい」
マックさん「じゃあ、生理が終わったらまた来て、ここで露出撮影してみようか?」
美也ちゃんはこっくりと頷いた。少しだけいやらしく妖しい笑顔で。
To be continued.