大学に入学したての頃、みんなキラキラしてお洒落で、素敵な家庭で育ってきたように見えた。
わたしが通っていた大学は、そこそこな、よくある私立大学で、ひとりっ子だったからようやく払えた学費。学風はそんなに裕福な学生相手ではなかったけれど、綺麗に光る高そうな時計をつけていたり、人気のブランドのワンピースを身につけていたり。
周りの子達はみんなお金持ちに見えたし、わたしはそんなキャンパスで完全に「芋」だった。今でこそTikTokやインスタグラムをひらけば、「垢抜け方法!」とか、イエベ・ブルベだの骨格診断だの。自分が可愛くなるための情報に溢れているけど、あの頃は一人で何度もトライ&エラーをするしかなかった。
なんとなく入ったグループで、なんとなく学生生活を過ごし、なんとなく彼氏ができるだろう、なんて楽観視していたわたしは突然頭が殴られたようで。「ああ、努力しなければ"美しさ"は手に入らないんだな」と思った。
バイトを始めたけれど、お洒落とは程遠い職場で、わたしはずっと惨めだった。カフェ店員やアパレルなんて、なれる気がしなかったのだ。だってあそこは「可愛い子の戦場」だもん。
戦場で闘う女の子たちの銃と弾丸は、片手にブランドバック、片手にスタバのフラペチーノ。上品ながら最先端のデザインのワンピースが、いつだって戦闘服。
わたしが一生かかってもできない綺麗な巻き髪は、ヘルメット代わりだ。トリートメントがしっかり施されたサラサラの髪の毛は、天使の輪ができるほど。
きっとその裏側には、血を吐くくらいの努力があって。何度も割ろうとした鏡とか、何度も前髪が決まらなくて学校に行きたくないと泣いた朝とか。そんなことなんて一度もなかったみたいな笑顔で、戦場の最前線をヒールで闊歩する姿は、たくましく、それでいて本当に綺麗だった。
最近TikTokで流行っていた、醜形恐怖症の歌みたいな夜が、きっとみんなある。自分なんて醜くて、外なんか出歩けないと泣き叫んで引きこもった夜が、女の子にはあるのだ。「ちゅ、可愛くてごめん〜♪」なんてそんなマインドになれたらどんなにいいだろうと、唇を噛み締めて、また今日もメイクをする。
どんなにファンデを重ねても、つけまつげを何重につけても可愛くならない。インスタの可愛い子たちはみんな二重だし、一重の子は単に"顔の配置が優勝"。どうやっても勝てないって知れば知るほど落ちる気持ち。
誰かの一番になれたらいいじゃん!なんてよく聞くけど、元彼の一番にすらなれないわたしはどうすればいいですか。可愛い子とわたしの間には、超えられない壁がある。いつのまに進撃の巨人の世界に迷い込んだんだ、わたし。
そんな私たちが、明日を生きるために、未来を見るために。手段の一つとしてパパ活が生まれたのだと思う。お父さんくらいの年齢の"擬似パパ"たちが、私たちのことを代わりに愛してくれるから。
私たちだって知っている、愛されてるのは、「若さ」だってことくらい。この世界の戦場で生き抜くためには、どんなものも武器にしなきゃいけないから。そのために若さを武器にしたって、いいじゃん。
なんてそんな簡単には開き直れず、今日もすれ違う人たちが笑った瞬間、自分の容姿を笑ってるんじゃないかって不安になる日々に。
パパ活は悪いことだ、とか、ツイッターでもすぐ論争になる。レディディオールを持った女の子を馬鹿にする人もいる。
でも、私たちは、綺麗になるために。もしくは夢のため、そして生活のため。大層な理由じゃないかもしれないけど、私たちなりにこの世界を生きていくための方法にすがっているだけなのだ。
若さも女であることも、武器だから。今しか使えない魔法は、今のうちに使っておきたい。0時になったら魔法は解けてしまうから、若い20代のうちに。今すぐに。
「ハイブランドのワンピ」が「高校の頃のジャージ」になる前に。
「高級車」が「軽自動車」になる前に。
ガラスの靴を置いていくから、どうかわたしのことを見つけて。
そんな祈るような気持ちで、死にそうになりながら生きているわたしたちは、文字通り"必死"だ。
私はパパ活じみたことしかしたことないけれど、パパ活を本気でやっている女の子たちのことを尊敬している。社会は綺麗じゃないと、チヤホヤしてくれないから。「美人とブスで、生涯年収3000万違う!」なんて定期的にネットニュースになる情報に、耳を塞ぎたいのに塞げない今日も。
綺麗にならなくてもいいよ、お金なんてなくてもいいよ。
そういうセリフはきっと、私たちの地獄を知らないから出てくるセリフだ。だから、私たちは必死に稼ぐしかないし、可愛くなりたくてもがいてるんだ。
わたしはパパ活を否定するつもりはないけれど、正直やっぱり、社会が変わればいいな、とも思う。
セクハラされたり痴漢されたり。しつこいナンパを無視すれば、「ブス!」と平気で吐き捨ててくる自己中心的な最悪な奴らもいる。もちろん女性だけが生きにくいなんて言う訳じゃない。ただ、私たちの苦しみが少しでも伝わればいいし、そんな世の中が変わることを願うしかない。
奨学金も借りれずに、自力で通うしかない大学。ブランド物を持っていないと、仲間に入れてくれないお嬢様たち。綺麗じゃないとサービスも悪い、優しくしてくれない社会。
そんな"今"が変わればいい。
でもきっとすぐには変わらないから、私たちは生き延びるためにパパ活をしてる。早く変えてね、総理大臣。
私たちが、"ありのまま"でいられるように。
そして、顔や見た目、体型で差別されないように。
そんな叶わない願いを、今日も流れ星に唱えています。