お金にとても困っていたわけではない。ただ、金銭的に余裕があるというわけでもなかった。効率的に稼ぐことのできる“副業”として、ある程度の危険は伴うという覚悟を持って始めた。
そして元々このシステムに数年前から興味を持ってはいた。某繁華街でクラブホステスをしており、辞めてお昼の仕事1本でやっていくことを決めた時、数名のお客様から所謂“愛人契約”の話を持ちかけられた。当時はすべてお断りしたが、時々ふと、お店を通してホステスとして時給+口座のバックで間接的にお客様からお金をいただくよりも、自分の好きな方とだけ直接契約して全力でサービスする方が効率的ではないか、と考えが過ぎることがあった。
愛人も職業の一種であると世の中的になんとなく捉えられている感じはある。ただ綺麗な女性が得するという単純な話ではないこともわかっている。
【パパ活】という言葉は私にとって全くしっくりこない。交際倶楽部で出会った男性のことをパパと呼ぶのには違和感がある。この副業は身体の関係を伴うため「パパとセックスする」という表現が、自分の父親と…と想像してしまいそうで、気分が萎えてしまう。
そういうわけで“時間の共有を伴う経済的援助”という副業として、今の自分ならやっていけそう、という根拠のない自信もあり、始めた次第である。
この副業を始めるにあたり、必要なものがある。
それは、男性がお金を遣いたくなるような魅力的な女性であるという条件だ。
日々、肌が荒れないよう食生活に気をつけたり、だらしない体型にならないよう食事の質や量にはものすごく気を遣っている。顔は、元々そんなには悪くないことに加え、たるみを取ったりシミができないようにと加齢に伴う劣化を食い止める努力はしてきた。男性が私に対してどれくらいお金を遣いたくなるかは想像もつかないが、この努力は生かせるという確信はあった。
交際倶楽部への登録を無事経て、後はお誘いを待つだけの態勢となったものの、私は昔から写真写りがとても悪く、すぐにお誘いをいただける自信はなかった。やはりこの業界(?)は若さと見た目が勝負である。この副業をしようとする他の女性がどの年代が多くて顔面レベルがどれくらいかなんて想像もつかず、ただただ待つことしかできないという厳しさに耐える覚悟はしていた。
ところが登録した初日に、倶楽部からお誘いがあったとの連絡を受け、意外にも厳しさに耐える期間は短縮された。驚きと同時に喜びよりも安堵が大きかったことを覚えている。
「ああ、私まだ大丈夫なんだ」という安心感。
写真写りだの年齢だの超絶な美人ではないだの、自信のなさの原因は自覚していたが、やはり子どもの頃からそれなりに見た目は同世代の他の女の子よりも優れていたことも自覚していた。そういった小さなプライドが今でも残っていて、それが守られたような気がした。我ながらなんてつまらない人間なんだろう、と、こういう時に自覚する。
きっと、担当スタッフの方が頑張って私をお勧めしてくれたんだろうと思い、感謝を伝えると、とても謙虚な返事が返ってきた。担当スタッフは私よりも明らかに若い、とても可愛い女性で、彼女こそ、この倶楽部に登録していればたくさんのお誘いがくるだろうと面接の最中も考えていた。
正直、この倶楽部に登録したのは、経済面の援助をしてくださる方との出会いと、長期的に安定したパートナーでいられる相手との出会いを待つことが根本的にはあるが、“交際俱楽部”というシステムそのものに興味を抱いていた。
私は現在の仕事に就く前、数年前に某繁華街のクラブでホステスの仕事をしていた。辞める頃になって、数名のお客様から“愛人契約”の話を持ちかけられた。「月々いくらでどうだ」「いくらなら続けられるか」等割と具体的な条件について会話した記憶がある。その時は、「好きでもなんでもない男の人と、毎月もらうお金のために身体の関係を持ち続ける」なんて苦痛でしかないという側面的な捉え方しかできず、契約を結ぶことは少しも考えなかった。
しかし当時から薄々感じていたことがある。
それは「効率が悪い」ということ。
お客様がクラブに足繁く通い、いつかセックスできるのではという淡い期待を抱き続けながらお気に入りのホステス と同伴したり高い酒をおろしたりすること。ホステスが時給数千円で在籍し、お客様に色恋的な期待を持たせ続けながら(色恋だけではない場合もあるが)時々口座の客のバックや同伴料が加算されたお給料を地道にいただくこと。この手間暇を思うと、交際倶楽部とは実に効率的で手っ取り早い出会いの場であるか、どちらの世界にも足を踏み入れた私としては実感する。
そんなことを考えながら、クラブの世界からは離れ、ある程度の覚悟を持ち倶楽部の世界に移り住んだ私の経験談を書き連ねていくことにする。
ノンフィクションではあるが個人が特定されないために詳細な表現は控える。その代わり、私の微妙な気持ちや感情の移り変わりや身体の変化について記すことでリアルな体験を感じ取っていただけたら有り難いと考える。