はじめまして。
東大卒の夜遊び芸人(YouTubeチャンネル名は「メンタル保健室」)ジェラシーくるみです。
ユニバース倶楽部さんから記事の依頼を受けたとき、どこまで書いていいものか正直ちょっと迷いました。パパ活を全肯定するような話はできないと思ったからです。
でも自分の経験や意見を自由に書いていいとのことだったので、遠慮せずにぶちまけようと思います。
大学二年を境に私の視力が下がったのは、六本木の街にどっぷり浸かり、沢山のきれいなものと汚いものを見てきたからだと思う。
同年代の仲間内でワイワイする楽しい普通の飲み会もあれば、会ったこともないおじさんの誕生日パーティー、中学の頃から憧れていたアーティストに会えるキラキラ宴会、サラリーマンのお兄さんたちにひたすら「飲み歌」を振る舞った謎のカラオケ接待、とか。もう挙げるとキリがない。
そういう会で教えてもらう話は、当時の私には劇薬だった。昔の武勇伝、自虐を込めた富豪ネタ、独自の恋愛論、タレントやYouTuberのひみつのゴシップ……きらきらひかるガラクタがたくさん落ちていた。
今回話すのは、ゲスな魑魅魍魎の中で、私が出会った一人のパパ活女子ミコトちゃんについて。
「ピンキーちょーだい」のノリで飛び交う万札
ミコトちゃんと出会ったのは、今は移転してしまった六本木の某クラブ。
あの日はちょうど、大学の課題を終えた週の金曜だった気がする。
友達とはしゃぎながら踊っていると、30前半のお兄さんが話しかけてきた。
セリフはお決まりの「席とってるから一緒に飲まない?」
VIPの席について脚を休めている私に、鏡を持っていないか聞いてきたのがミコトちゃんだった。
いわゆるドール顔で、でもどこかあどけない雰囲気もあって、真っ白のシャネルのバッグを提げていた。
(真っ白を持っているということは、複数個ブランドバッグを持っているんだろうなあと思ったのを覚えている)
そろそろ帰らなくちゃ、とミコトちゃんが腰を上げた瞬間、「えー帰るのー?」と部屋で一番年長者のおじさん。
「タクシー代いる?」
「ほしいなあ」
「何枚?」
「え〜〜2枚くらいほしいなあ」
首をかしげて微笑むミコトちゃんの手のひらに、ポンと5枚の万札が乗る。
こういう、六本木あるあるの光景に出くわす度に庶民の私は「ピンキーとかポッキーのノリで諭吉を渡すな」と突っ込んでしまう。
個室を出るときに、ミコトちゃんはこっそり耳打ちで「徒歩で帰る。ミッドタウンに住んでるんだ」と教えてくれた。
「いつかパリに住みたいんだよね」
鏡を一瞬貸したことがきっかけで時々会うようになったミコトちゃんは、出会ったあの夜は少し冷たい印象をもったが、改めて話してみると、よく笑いよく怒る、表情豊かな女の子だった。
私が知っていた情報はほんの少しで、社会人二年目で外資系企業に勤めていること、彼氏という名目のパパがいること、おいしいご飯と現代アートが好きなこと、いつかパリで暮らす夢をもっていること。
住んでいるミッドタウン・レジデンシィズは“彼氏”が以前オフィスとして借りていて、今は自分の家として使わせてもらっているとのことだった。
一度だけ行ったミコトちゃんの家は、ホテルみたいで全然生活感がなかった。荷物の大半は都内の実家に置いていたらしいし、仮住まいだったんだろう。
ときどき金曜夜の飲み会に呼び合い、二人で飲み会を抜けて締めのうどんを食べるくらいの曖昧な距離感を保つ中で、なんとなく私は彼女が既に会社を辞めていることを知っていた。ミコトちゃんのSNSには同じような生活をしている女友達との海外旅行の写真ばかり、話すネタは買ってもらった今シーズンのバッグと最近飲んだ有名人の話。過去の話――資料の詰めが異常に細かい職場のハゲ上司や人生で一番刺激的だったパリでの短期留学――をしているときだけは目がキラキラしている気がした。なぜ会社を辞めてしまったのかは聞けなかった。
大学時代に交際クラブで出会ったという“彼氏”から生活費をもらい、たまに他の男性とも食事をしてお小遣いを手に入れる生活は、とても贅沢で、とても退屈に見えた。
そんなミコトちゃんの生活は、ゆるやかに崩れていった。“彼氏”にリンパかどこかの癌が発覚し、以前のようには会えなくなったという。
「家族にはバレないように、僕が死んだらミコトに会社とマンションを渡す手続きを進めているから」という言葉を信じ、ミコトちゃんは会社経営や不動産投資の本を読み漁った。
そしてあのミッドタウンの家も引き払われたため、彼女は自分で六本木一丁目に1Kを借りた。
相手からの振込が途切れ途切れになってからは以前のような余裕もなくなったようで、タクシー代が出る飲み会を探しては毎日のように参加していた。
ミコトちゃんから「○○さんと飲むよ!タク3だよ」と深夜2時にくるLINEが悲しくて、自然と距離を置くようになった。
不自由なウソ
それから大学の行事が忙しくなったのもあり、もうミコトちゃんの名前も忘れかけていた翌年、彼女と思いがけない形で出くわすことになった。スマホの画面を見せてくれたのは、インターンで出会った女の子だった。ラジオとお笑いとひとり旅が好きな子。
二人でスタバで作業をしていると、声をひそめ、先週とある芸人の誕生日パーティーがあり、一緒に写真を撮ったのだと嬉しそうに見せてきた。
そこに写っていたのは、昨年か一昨年のコント大会で優勝した芸人の一人と、シャンパングラスを傾け微笑む彼女、真っ赤なワンピースを着たミコトちゃんだった。
「あれ、この人知り合いかも」
「リナさん?私最近知り合ったんだけど、芸能人とか野球選手の飲み会に呼んでくれるの。でも女の子呼んで仲介料もらってるんだって。やばくない?」
その子が周りの男性から聞いた話によると、現在「リナさん」は女の子の紹介やキャバクラのスカウトの仕事をしているという。私が知っている情報を話すと、「え、あの人30過ぎてるよ?」と怪訝な顔をされた。それと飲み会で出会って親しくなった男性には事あるごとに留学費用の相談をもちかけているようだった。
それから数年経った今、ミコトちゃんの噂は聞かないし街で見かけることもない。
パリに住むという夢を今でももっているだろうか。