恋愛と風俗と愛人と
初対面の相手に対して悪印象を抱いたにもかかわらず、後にその印象が好転し、ついには好意を抱くに至る。
さながら『花より男子』の道明寺とつくしのような関係が現実にそうそうあるわけもなく、いろはさん(仮名)との出会いはまさに交際倶楽部初心者の私にとって洗礼ともいうべき出会いだった。
年齢とクラスで一括りにしてはいけないけれども
いろはさんは入会直後にオファーした4人の内1人で、四捨五入20歳の女性だった。
写真越しの顔が元カノに似ていて女性一覧のページを繰っても心に残っていた。
私がいうのもなんだが、元カノはミスコンに選ばれた美人だった。
それだけにいろはさんがゴールドなのが気になって、スタッフX氏に詳細を訊こうとした……が、つれない感じだったのは前回書いた通りである。
今にして思えば紹介文にもヒントはあったし、動画も観るべきだったのだろうが、当時の自分は深く考えなかった。現在も特に考えているわけではないが。
おしゃれ系の焼肉屋の個室を予約し、店の前で待ち合わせる。
現れたいろはさんは確かに可愛い。可愛いが、ブランドもののストールと値踏みするような彼女の目つきが妙に気になった。
そして、こういう時の第一印象はよく当たる。
席に着くなり、挨拶もそこそこに彼女は電子タバコを取り出す。
「吸ってもいいですか?」
「ここ禁煙席だよ」
「電子タバコなんで大丈夫です(あはっ)」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「これブルーベリーの匂いなんで大丈夫!」
あれ、話が通じないぞ。別の意味で大丈夫か、この人。
その後も、若い女性だから今日はお酒なしだと思い車で来た私に酒を勧める。
というか、ひたすら自分がビールを飲んでいる。ひたすら飲む。そしてゲップする。オヤジか。
出会って5秒、とまではいかないが、5分で帰りたくなっていた私の心中などお構いなしにいろはさんはやけに上機嫌だった。
「なんて呼べばいい? ネナシカコだからカコちゃんね!」
から始まり、
「このストールね、今定期で会ってるパパに買ってもらったの。この財布もだよ」
と間接的なおねだりめいた自慢をされ、
「このパパね、普段は出張でこっち来る時に会うんだ。もう半年ぐらい、その都度買ってくれるんだよ」
とくる。
たまらず言ってしまった。
「そのパパさんもよくいろはちゃんと続いてるね」
「うん! ノリがいいんだよね! カコちゃんとは違うタイプかな」
そりゃそうだろ。というか、引きつった笑顔と嫌味に気づかないあたりが彼女の美点なのかもしれない。
「そうそう、カコちゃんに質問があります!」
「なに?」
「カコちゃんの会社ってなんてとこ? 役職は?」
今更ながらで恐縮だが、私はいわゆるサラリーマンである。登録も会社員にしてある。
「んー、ただのヒラだよ。役職なし」
「えー、そうなの? なんかそう見えないけど」
「そうそう、それに見た目は不動産屋か金融屋に見えるでしょ? よく言われるよ。それよりそのパパは何している人なの?」
と、適当に躱して事なきを得たが、後にも先にも会社名だとか役職を尋ねられたことはない。
もっとも、他の女性から「なんで会社員で登録しているの?」と尋ねられたことは何度かある。
登録当時に意識していたわけでもないが、『会社員』という登録は金銭の色合いが濃い人をあぶり出すのに有効なのかもしれない。
その後もいろはさんは人の懐を探るような質問を続けてきたが、すべて適当に答える。
それでもいろはさんが上機嫌なのはお酒のおかげだったかもしれない。
いっそ私も飲めたら違ったのかな。いや、違わなくて結構。
男だって断ることもある
さて、食事も終わりお開きにしようかと思ったところにいろはさんが
「カコちゃんの車でドライブしたい!」
と言い出した。勘弁してくれよ。いっそヘヴィメタルでも流しながら高速でも飛ばしてやろうか、と思うが「じゃあ家の近くまで送るよ」と答える弱い自分。
「なんだ、カコちゃんお金持ちじゃん!」
と車を見た彼女は喜んでいたが、こんなにもお互いの気持ちが対照的なドライブってあるのだろうか。
上機嫌な彼女はコンビニで車を停めさせ500㎖のビール缶を2缶購入し、助手席で飲み出した。助手席でビール飲まれたのなんか人生で初めてだよ。
後にスタッフX氏,Y女史二人から
「なんで怒らなかったんですか?」
と言われたが、いろはさんはぶっ飛びすぎていて怒る怒らないという次元にいなかったように思う。
それに、下手に刺激したらヤバいような気もしていた。事実、ビール2缶飲み終えたいろはさんは自分語りを始め、詳細は語らないがその内容はやはり病んでいた。
「私8だけどいい?」と酩酊気味に呟くいろはさんをどうにかなだめ、彼女の自宅前で別れた。
この場合、8も0も等しく無価値だ。そしてこの日以降、とりわけ若い人には警戒するようになってしまった。
恋愛と風俗と愛人と
ここで終わってしまうと、「こんな思いしてなんでこの人は続けているんだろう?」と思われかねないので、最初に出会ったあとの2人についても触れておきたいと思う。
うみさん(仮名)も、えりかさん(仮名)もプラチナで、その後のオファー傾向からしても私の場合にはプラチナの女性が中心となるようだ。
ブラックが最多にならない理由は
- 地方都市だとそもそも数が少ない、
- 私が肩書き(芸能人とかCAとか)にこだわりを持っていない、
- 日程調整に難ありの傾向がある、からではないだろうか。
私を知るスタッフさんは「いやいや、お前がブ○専だからだよ」とか言いそうな気もするが、タヌキ顔が好きなだけだから。
それはともかく、うみさんとは4ヶ月、えりかさんとは最近まで続いていた。
えりかさんとの話は少し長くなるのでまた機会があればと思うが、うみさんと終わった理由は極めて単純なものだった。
一言でいえば、他の男の痕跡が残っていたからだ。
女性に彼氏や他の愛人なりパパなりがいても全然問題ない(というと信じてもらえなさそうだ)が、さすがに男性特有の臭いが立ちこめてくると正直げんなりする。
視覚に訴えてくるキスマークなんかとは違い、嗅覚にくるものがどうやら私には耐えられないらしい。
とはいえ、その一件を言い訳に離れる理由を探していただけのような気もするが、うみさんとの出会いは身体的な快楽だけではつながりが保てないことを改めて教えてくれたいい出会いだったように思う。
心も体も満たされる、というと胡散臭いセラピーのようだが、うみさんとの関係においてその両者を満たすものを私は感じられなかった。
もちろん、金銭をフィルターとして介在させる以上、ここで出会う関係は恋愛ではない。
恋愛に発展しそうな、あるいは発展することもあるだろうが、少なくともそれを目的とした出会いは一部例外を除いて倶楽部には存在しないだろう。
では、風俗との違いは? うみさんとの関係を例に挙げれば、彼女の心中はともかく、少なくとも私にとっては風俗に近かったように思う。
食事はあくまで前座で、メインは金銭の対価としてセックスする。
もし、私がそういったお店を利用してうみさんがついてくれたならば、年単位で通ったかもしれない。それぐらいのいわゆる床上手であった。
逆説的な表現になるが、テクニックに長けたうみさんとのセックスは身体的快楽をもたらす一方で心的不快をもたらしていた。
もっといえば「これじゃない感」が半端なかったのだ。
このように書くと「結局お前も恋愛体質なのか」と思われそうだが、それは違う。
確かに体だけではない。心もつながりたい。しかし、それは恋愛とイコールではない。いわば社会契約である。
現在続いている女性、あるいは過去に続いていた女性(特にえりかさん)との関係はいうまでもなく恋愛ではないし、恋愛になりそうなケースを忌避したこともある。
上手に言語化することができないが、少なくとも金銭と自分の時間なり体なりとをトレードオフの関係に捉えている女性は長続きしないのではないだろうか。
そうした考えの女性は自分の時間を切り売りし、減るものではないからとセックスをしているのだろうが、実のところ自らの尊厳を削り取っている。
まことに矛盾する言い方になるが、男性は、都合の良い存在を求めながらも自らを安売りせず尊厳を損なわない女性を本能的に求めているのではないだろうか。
女性の側からも男性に対して同じようなことがいえるのだろうけれども。これ以上書くとややこしくなりそうなのでこのへんで。それにしてもこういう出会いってむずかしい。
ネナシカコ
※記事内にでてくる女性の名前は、私のつけた完全なる「仮名」