拝啓 コラムニストさま その2

【提言は続く】                                                        

 コラム欄が盛況なのは喜ばしいことですが、あまりにも無味乾燥なコラムが多すぎるというのがジョーの正直な印象です。と同時に少しだけ工夫すればグッとよくなるのになとも思います。前回に続き、提言第二弾です。「なにを偉そ うに!」とか「もっと別にやることあるだろうよ」という声も聞こえてきそうですし、特に後者については何の 反論もございません。しかしながらどうかジョーの意あるところを汲んで暖かい目で見守ってくださいませ。

【「ワンパターン」、「マンネリ」、「独白」に注意しましょう】
 上記の三つを排除するともしかしたら全てのコラムが消えてしまう可能性があります。でもそれはあまりにも 惜しいし、一つだけ読むと無味乾燥な当たり障りのないコラムであっても続けても読むと説得力があったり、面白いと思えるコラムも少なくありません。それなのに「最近のコラムは面白くない」と思ってしまうのは表現や語彙が画一的で深みに乏しいからというのがジョーの見立てです。個人的な経験をただ単に羅列したり、心情告白を延々と続けられてもねぇと思います。それを避けるのは淡々と書き連ねるのではなく五感を総動員しながら、表現や語彙にも気を配るしかありません。簡単ではないですが、お互い頑張りましょう。当然ですが書き上がったら是非推敲してください。そのためにも実行してもらいたいのは音読です。自分の書いたコラムを声 に出して読んでみましょう。これは誤字脱字を発見する有効な方法でもあります。誤字脱字が多いと読者の信頼を失いますから、なるべくゼロにするよう努力しましょう。そして音読するとありふれた表現や語彙を使っていると恥ずかしくなって読み進められなくなります。洗練された文章にするためにも音読し、よりふさわしい、表現や語彙を選択する努力を致しましょう。
 【五感を総動員して表現するということ】
 おそらく多くの人にとって視覚の情報は大きな割合を占めます。お相手の女性やデートした場所などは書き手の視覚情報を通した記述になることはある意味当然です。しかし視覚情報だけではありきたりなコラムになってしまいます。記述が立体的になるよう意識してください。そのためにも視覚だけでなく五感を総動員して表現や語彙に気を配ることがコラムに深み与えるコツです。「お手本」というと烏滸がましいですが、五感を意識して書いたコラムを例として挙げてみましょう。舞台は品川のホテル地下にあっ たジョーお気に入りのバー(只今休業中。おそらくこのまま閉店になると思われる)。このバーで展開?された二人の女性(サクラちゃんと華ちゃん)との思い出を物語風に綴ってみます。
 【ああ、サクラちゃん、今でも君のことを考えると胸が一杯になるよ】
 特に品川という街が好きではないけれど、そのホテルをよく利用したのには理由がある。そのホテルと同じ地域にある系列のホテル二つが広大な庭園(2 万m²って、言われてもピンとこないけど)を介して繋がっている系列ホテル地下にあるシガーバーがジョーのお気に入りだったからだ。季節ごとに種々の花が咲き乱れる庭園を二人で横切ってバーにたどり着けば洗練された振る舞いのできないジョーの七癖も隠してくれるからでもある。
 それは四年前の4月だった。まだコロナの「コ」の字も無縁だった頃だ。その庭園の売りの一つが数十種類 200 本を超える桜にある。ただ 1週間前に桜の開花宣言が出されていておそらく見頃は過ぎているだろう。しかもその日は朝からずっと雨だった。眩しいばかりの匂いだつような満開の桜はもう来年までお預けだと思っていた。せっかくのサクラちゃんとのデートなのに。でもサクラちゃんも大好きなあのバーは今日も開いているのがせめてもの救いだ。それならと恵比寿でお寿司を堪能した後、タクシーでホテルに戻り、ロビーを抜けてライトアップされた庭園に出る。雨は小ぶりにはなっていたが、止んでいなかった。ジョーの傘だけをさして、寄り添うように二人並んで歩く。傘を持った左手の甲が時々サクラちゃんの肩にあたり、その度に心臓の鼓動が速くなる。しかもサクラちゃんの官能的な匂いがジョーの鼻腔を刺激せずにはいられない。桜は五分以上散っていたが、バーへと続く石畳は雨に濡れた桜の花びらで敷き詰められていて足元を照らす照明がそれらを切なく映しだし、照明に呼応するかのように花びらの一枚一枚が最後の輝きを映し出すだけでなく、甘く切ない匂いを放っている。満開の時よりもずっとエロチックだ。
「満開の桜も良いけど、散り掛けの桜も切ない美しさがあるね」とサクラちゃん。同感だ。庭を横断するともう 一つのホテル裏手の入り口から中に入る。既にスタッフが片付けをしているメインバーの横を通り過ぎロビー前を右に行くと地下にあるそのバーに通じる階段が見える。階段と天井はガラス張りで上品とは言い難いのだけれど、そもそもバーが官能的な空間だからこれくらいバカ派手な方が今の二人の気分には合っているかもしれない。ガラス張りの階段だから二人の足音はいつもよりずっと大きな音を立てる。その階段を降りきったところに入り口 がある。入り口横には自慢のウォークインヒューミドル。数百本のシガーコレクションを誇る。入り口で出迎えた旧知のマネージャーに挨拶をして、いつものように二人でウォークインヒューミドルへ入った。ジョーもサクラちゃんも紙タバコは吸わないけれど、ここではシガーを燻らすことにしていた。ヒューミドルに足を踏み入れるや否や葉巻の複雑な香りが二人を包み込む。本日のセレクトはジョーがコイーバシグロ II、サクラちゃんがモ ンテクリストIV。どちらもキューバ産のド定番だ。カウンターの席につくと V 字にカットしてもらい火をつける。シガーの甘くそれでいてスパイシーな香りが漂い、紫煙の合間から見えるサクラちゃんの笑顔が一層魅惑的に映る。ジョーは甘めのシェリー酒を、サクラちゃんはカクテル。二人とも葉巻を片手に右手のグラスを上げる。そしてシェリー酒を一口。一瞬辛口の締まった味わいが口の中を襲うが、そのあとに甘く蜜のような芳醇な香りと味わいが口の中を包み込む。ジョーはこのシェリー酒を飲むたびに魯山人の「甘みは旨味」という言葉を思い出す。この点に関して魯山人は全面的に正しい。
 ここは元々バーとして設計されたのではなく、その昔はミュージホールだったようだ。中央にステージがあり、テーブル席も 20 席近くあるから、騒がしい時もある。しかしその日は客もまばらで中央ステージでは青いドレ スを着たピアニストが静かな曲を弾いていた。グラスが半分ほど空いた頃「私、リクエストしてくる」と言って サクラちゃんは席を立ってステージへ近づき、件の女性に何やら話しかけている。ややあって彼女が席に戻ると同時に「As Time Goes By」が流れ始めた。もちろんあの映画のあのシーンが瞼に浮かぶ。思わず「Here's looking at you」と呟きたくなったけど、ジョーにはこういうセリフがびっくりするほど似合わないからやめておいた。するとサクラちゃんが呟くように言う。

「私、来月結婚するんだ」
 その時、ジョーがどういう反応をしたかよく覚えていない。多分「よかったね。おめでとう」とその時の心情 とは最もかけ離れた言葉を絞り出したはずだ。そしてこの日の逢瀬がサクラちゃんと会った最後の日となった。この時以来、ジョーはコイーバシグロ II を吸っていない。バーを出て部屋に戻るため、再び庭園を横切る。すでに雨は止んでいた。途中には奈良から移築したという鐘楼があり、そこに差し掛かった時、サクラちゃんは「ここで写真撮ろうよ」と言って自分の iPhone を取り出す。お互い頬をくっつけてサクラちゃんがシャッターをきる。ジョーは会わなくなった女性の画像をいつまでも保存しておく習慣などないからその時の画像はすでに削除している。しかしジョーの目に焼き付けられた映像が消えることはない。友人のカメラマンによれば「目ほど高性能 のカメラはない」という。「思い出も写せるから」ということらしい。だからサクラちゃんとの思い出は削除する ことができないのだ。

【華ちゃん、君が魔法使いだったとは思いもよらなかった】          

  華ちゃんは掴みどころのない女の子で、いま風に言えば「不思議ちゃん」だ(もしかして死語?)。本来ジョーの得意なタイプではない。それでも逢瀬を重ねているのは、ジョーのさして面白くもない話にも熱心に耳を傾け、 自身も話題が豊富で、硬軟とり混ぜた会話でいつも盛り上がるからだ。基本ノーと言わない子でもあり、ジョーのワガママなリクエストに笑顔で首を縦にふり、美術館 にも歌舞伎にも落語にも付き合ってくれる。それだけでも大満足なのにベットの中ではさらにその能力を発揮する。普段のおっとりさが消え、自ら上になったり下になったりガンガンガンと腰振ったりの大活躍さ。どこまで本気かわからないけれど、「父親より年上のジョーさんにめちゃくちゃにされたい」などと宣い、ジョーをますます喜ばせる。今いちばんお気に入りの子だ。しかしグッと距離が縮まったのは何回目かの逢瀬で華ちゃんがジョーの大学の後輩だと分かったから。ジョーの大学は北の地なので、近いとは言い難い東京で、しかもユ ニバースで出会うとは思わなかった。よく考えてみれば古い学校だし、卒業生も少なくないからそれほど偶然というわけではないけど。
 華ちゃんの話が面白いのは彼女がリケジョだからもしれない。ジョーはリケジョに弱いから。卒業論文のテーマは「メイクイーンの品種改良とその展望」で「私、大学時代はイモ娘でした」と笑う。ユーモアなのかそうでないのかよく分からないところも華ちゃんの魅力だ。その日は華ちゃんと初めてのお泊まりの日だった。翌日は仕事で、品川が便利だからということで久しぶりにあのホテルに泊まる。恵比寿で寿司を堪能し(我ながら成長がないね)部屋に戻ったが「もう少し飲みたい」ということになり、別棟にあるメインバーを目指す。腕を組んで例の庭園を横切れば色々と思い出すこともあるが、今は華ちゃんにしか眼中にない(ちょっとウソ)。かつてのように裏の入り口からホテルに入り、メインバーの前に出るとなんと灯りが消えていた。日曜日は定休日だという。メインバーに定休日は似合わなにどころの話ではなく、世が世なら切腹ものだ。「ああ、おやすみなんですね。残念だな」と華ちゃん。ジョーは怒りを抑えながら 「メインバーに定休日だなんて世も末だ」と絞り出す。「ここの地下には僕のお気に入りの素敵なシガーバーが あったんだけど、そこも長らく休業中なんだよ。このまま閉店するのかも。部屋に帰って飲み直そうか」と言うと華ちゃんは意外なことを言い出す。「どんなバーか見てみたいから、行くだけ行ってみませんか?もしかした らやってるかもしれないし」
 地下に続く入り口の前に来たけれど、やっぱり電気は消えていて、ご丁寧に「休業中」の立て看板もあった。 と突然、灯りが一斉に点灯し、立て看板が消える。すると昔と変わらない品のないガラス張り階段と天井がそこに現れただけでなく、ピアノの音まで聞こえ出した。何が起こったか分からないジョーは横にいる華ちゃんに目をやる。華ちゃんはにっこりと笑い、そして一言。「私、魔法使いなんです。サリーじゃなくて華」
 確かに魔法使いといえば「サリー」だがこの際贅沢は言ってられない。文字通りスキップしながら階段を降りていくジョー。魔法使いの華ちゃんも続く。入り口では件のマネージャーが昔のように二人を出迎える。「ジョー 様、お久しぶりです。ようこそいらっしゃました」「ようやく再開だね。これからは毎月くるよ」「ありがとうご ざいます。まずはヒューミドルをご覧になりますか」「もちろん」
 マネージャーに促されて二人はヒューミドルの中に入る。その中は相変わらず芳醇で複雑なシガーの香りに満ちていた。華ちゃんも「魅力的な香りですねえ」と言って深呼吸している。相変わらずの品揃えで、他では長らく見かけなくなったキューバ産も充実している。これも魔法なのだろうか?そうならば「魔法使い華」の実力に 本家も真っ青だろう。少し躊躇したけど、ジョーはその中からコイーバシグロ II を手に取り後ろを振り返ると、 華ちゃんが葉巻の棚にジョーを「逆壁ドン」だ。当然ながらその振動で葉巻が床に落ちるのはニュートンの時代と変わらない。壁に押し付けられたジョーの口を自分の口で塞ぎ、舌を絡ませてくる「魔法使い華」。するとどうだろう、ドーピング もしていないのにジョー自身が熱くキリツしている。このままやられ放しでは男が廃る。「天野屋利平衛は男でござる」とばかり、攻守交代し、棚に華ちゃんの手をつかせた。ドンという音ともにキューバ産の葉巻が再びシャワ ーのように降ってくる。そしてジョーは華ちゃんのクリーム色のスカートをたくしあげ、顕になったフランス製 の赤いシースルーランジェリーを横にずらすとそのままバックから熱を帯びたジョー自身を挿し込む。葉巻のシャワーを浴びて魔力を失った華ちゃんは「中に、中にちょうだい!」と雄叫びを上げ、ジョーの白い液体を自身の秘部で受け止めるのだっ た(言うまでもなくファンタジーです笑笑)。
【ファンタジーもアリでしょ?】      

   特に後半は好きたい放題書き連ねましたから不快に思われたかもしれません。反論もあるでしょうし、見解の相 違やコラムに対するスタイルの好みもあるでしょう。ただ、マンネリやワンパターン、底の浅い独白に陥らないための工夫をお互いしていきませんか?そしてもう一度提案ですが是非コメント欄をオープンに。やり方が分からなければ編集部にお願いすればやってもらえると思います。是非ご検討ください。

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