私的心ジョー風景〜ついにサクラちゃんと、でもの巻〜後編

彼女との距離がまた縮まった気がする。

北の地は思ったより寒くない。

市内へはタクシーで移動。ホテルにチェックインした後はジョーが世界一美味しいと思っている寿司屋を目指した。

予約した時間より少しだけ早く暖簾をくぐる。

「大将、久しぶりです。今日は綺麗どころを連れて来ました」

「どうも、どうも、遠くからようこそいらっしゃいました」

「大将も相変わらずお元気そうで。何よりです」

「こんな美人に握れるんですから病気なんかになれませんよ」

大将とこうした掛け合い?ができるのも味の内だ。

ジョーがこの店の暖簾を初めてくぐったのは19歳の時。

母に連れられて来た。当時ジョーはこの地の学生だった。

ジョーに会うという口実でこの訪ねて来た時連れて来てもらったのが最初だ。

インターネットがない時代だから母がなぜこの店を知っていたかは今となっては謎である。

でも大将は最初から常連のようにもてなしてくれた。

常連であるなしに関わらず接客の態度が変わらないのは大将の美点の一つだと思う。

学生時代のジョーはお金がなかったから、スポンサーがいなければ来られなかったし、卒業後はこの地を離れたから来るにしても年に1、2度で常連とは言い難い。

それでも初訪問以来、暖簾をくぐらなかった年はないし、妻や娘だけでなく、男女を問わず大切な人は可能な限り案内して来た。

サクラちゃんに初めて会った時からこの店に連れて来ることを約束していた。

そうして今日、それが実現したわけだ。

多くの高級寿司屋がそうであるようにこの店も刺身から提供される。

サクラちゃんのリクエストによりシャンパンで乾杯。

そして次々と素晴らしい料理が提供される。

その一つ一つにサクラちゃんは賛嘆の声を上げる。

しかし提供さる料理の彩りというか付け合わせには変化が見られる。

それはセカンドに立つ息子である若の意見が取り入れているという。ジョーは安心した。

たとえ大将がいなくなってもこの店は大丈夫だ。

「大将、若がこの店を引き継いでくれるから安心ですね」

「何の、何の、心配ばかりですよ」

「若、君も大変だね。この店には口うるさい常連がたくさんいるから。あっ、僕もその一人だけどね」

「ジョー様、お手やらかにお願いしますね。悪口言われたらワサビ多めにしときます」
 

笑い声が広がる。こうした掛け合いをサクラちゃんもニコニコしながら聞いている。

そして大将や若との会話にも自然に入ってくる。

とっても楽しい時間だった。何より嬉しかったのはサクラちゃんが

「ジョーさんが言うように世界一の寿司屋ですね」

と言ってくれたこと。彼女との距離がまた縮まった気がする。本日のベストは鰆の握り。この点でもサクラちゃんと一致したのは嬉しかった。
 

「ほら、大きくなった」

世界一の寿司屋の後は世界一のバーだ。

この店は素晴らしいグラッパが提供される。

サクラちゃんはグラッパを飲んだことがないと言う。

それじゃあとばかりタクシーで店に移動した。

マスターに簡単な挨拶をした後、早速グラッパを注文する。

マスターは僕らの前にボトルを置いた。今は亡き作り手の描いた絵のついたラベルが貼ってある。

単純な線で描かれているが味のある絵だ。

グラスを傾ける前に許可を取って写メに納めるサクラちゃん。

乾杯の後、匂いを楽しみ黄金の液体を口に含む二人。口の中に美しい世界が広がる。

サクラちゃんも寿司屋の時と同じようにいやそれ以上に大きな声で賛嘆の言葉を発する。

もちろん僕も嬉しい。その後はウイスキーやワインを散々頂き、満ち足りた、そしてなぜか誇らしい気持ちで店を後にした。

ホテルに着いてからはいつものように?一緒に入浴、そして乳液プレイをした後は、ベットに入った。

後は部屋の灯りを消して幸せな眠りにつくばかりだ。

その時サクラちゃんが耳元で囁いた。

「ジョー、今日は抱いて」

呼び捨てにされたのはファーストキス以来2度目だ。

びっくりしたし、ドキドキした。サクラちゃんとセックスすることはないと思っていたから。

と同時にこの言葉を言わせたかったんだと気がつくジョー。

でも美味しい食事とお酒を頂いた後ではジョー自身は機能しないのだ。

世界一の寿司屋とバーを共有できたことで十分満足だ。

「サクラ(負けずに呼び捨てにした)、知ってると思うけど、僕はこういう状態では機能しないんだよ」

「私が機能させて上げる」

と言うとサクラちゃんがジョーの上に覆いかぶさる。

ジョーのバスローブを脱がせ、ゆっくりとキスをした。

二人の舌が絡み合う、官能的なキスだ。サクラちゃんの口が下へと下がっていく。

そしてジョー自身に辿り着く。

今まで経験したことのない素晴らしい口技だ。思わず声を漏らすジョー。


ドーピングなしに機能したのは何年ぶりだろう。

「ほら、大きくなった」

と言ってサクラちゃんはジョーの上に乗ろうとする。

ジョーは慌ててそれを制して衛生器具(苦笑)を取り付け、再び仰向けになる。

サクラちゃんはジョー自身に腰を落とす。

その瞬間短い吐息を漏らすサクラちゃん。

最初はゆっくりだったグランディングが徐々速度を増す。それに伴いサクラちゃんの言葉にならない官能的な嬌声も大きくなる。そして今までは決して口にしなかった言葉がサクラちゃんの口から発せられる。


「ジョー、愛してる!」


ジョーは心の中で呟いた。

「うむ?愛してる?それってどういうこと?」
 

「愛してる」は最も理解しがたい言葉

ジョーにとって「愛してる」は最も理解しがたい言葉だ。

サクラちゃんの腰使いに悶絶しながらもジョーは心の中で自問自答する。

「僕は誰かを愛しているだろうか?」と。


例えば娘。娘は大切な存在だ。

でも愛していると言い切れる自信がない。

愛は見返りを求めないものだとジョーは思う。


娘に対してでさえ打算があることをジョーは自覚している。

そして妻。

好きか嫌いかと問われれば「好き」と答えるのに躊躇はない。

しかし今、若い娘のような女性の腰使いを楽しんでいる自分に妻を「愛している」と言える資格があるだろうか?

問題はサクラちゃんだ。


サクラちゃんの発した言葉はあくまでベットの中での淫語の一種であってそれをいい大人が本気にするのはどうかしている。

一方でジョーは彼女の愛を何より望んでいるのだ。

しかしこの腰使いは少なくともジョーにとって愛ではない。


そしてもう一人のジョーが囁く。


「今はゴチャゴチャ言わずにこの素晴らしいセックスを楽しめよ」


確かに。


そこでもう一人の声に従うことにした。というより従わざるを得なかったのだ。何も考えられないほど官能的な腰使いだった。


「サクラ、我慢できないよ」

「あっ、ダメもうちょっとで逝きそう!」



(親愛なるユニーバース倶楽部の女性会員の皆様。ジョーの知る限り、このセリフは逆効果になる場合(つまり果ててしまう)が多いのです。どうかご留意ください。いや、やめてくれと言っているわけではありません。少なくともジョーはこのセリフを聞きながら先に果てて、叱られたいタイプです。よろしくお願いします)

 

今日のジョーはなぜだかわからないが先に果てるわけにはいかないと思った。

そこで頭の中で円周率を唱えた。

100桁まで言えるのがジョーの自慢だ(苦笑、因みにギネス記録は10万桁だそうです)。

円周率のおかげで(苦笑)少なくともジョーが先に果てることはなかった(多分)。

実践においては経験の乏しいジョーにとって生涯最高のセックスだったかもしれない。

と同時に色々と妄想が駆け巡る。例えば硬軟を使い分けた腰使いについて。

隠語を連呼しながら絶頂を迎える時の姿態について。

行為中のそして終わった後の男ゴコロをくすぐる甘い囁きについて。

どう考えてもジョーよりはるかに性経験が質量共に豊富であることは間違いない。

相当なタマですな、この女は。    


サクラちゃんの寝顔を横で見つめ、満足感一杯ながらどこか切なく、複雑な思いにかられながらジョーは眠りについた。


×月×日

翌日は午前中のフライトで羽田へ。

サクラちゃんとはタクシー乗り場でハグをして別れる。

タクシーに乗ったサクラちゃんは窓を開けてジョーに手を振るのもいつも通り。


でもこの日、この光景を見る最後の日になった。


この時点ではそうとも知らず、かよこ姫に会うべく、次の待ち合わせ場所に急ぐジョーであった。



ジョー

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