恋愛ワクチン 第七話「擬似恋愛系の子」

恋愛ワクチン 

恋やセックスの欲求は時として病気のように人生を破壊します。これを予防するのが恋愛ワクチン。
入会費とセッティング料を払えば、誰もが接種でき、安全に疑似恋愛を体験できます。
 

ヨーロッパ某国出身の、そのブロンドの女の子は、ずっとマックさんを見つめている。 

あとで調べて知ったのだが、その国では女の子が自分に好意をもっているかどうかを知るのは簡単なのだそうだ。こちらを見つめてくれるから。 

マックさんは年甲斐もなくどぎまぎしてしまった。キューピッドの矢に射抜かれる気分だ。そんなに見つめたら恋してしまうじゃないか。 

マックさん、ブロンドの子との経験が無いわけじゃない。
ソ連崩壊後のロシアで仕事があって、ちょっと稼がせてもらったことがある。ロシアの女の子たちはお人形のように綺麗だ。 

しかしヨーロッパ某国のこの子は・・この子が特別でないのなら、擬似恋愛の相手としてはロシアを上回るかもしれない。 
 

マックさんの所属する業界は年に一回お祭り騒ぎをする。

セクシーなダンサーたちが踊る店を借り切って、それぞれが同伴者を連れて集まる。マックさん、今年はひとつブロンド美人で目立ってやろうと目論んだ。 

ユニバのインターナショナルでオファーしたブロンドの子と、ホテルのロビーで待ち合わせたのが午後3時。
パーティーの開始は7時。万が一、女の子がパーティーにそぐわない服を着てきたら、全部買い換えてやろう。そのための4時間。 

女の子、マックさんのイメージにぴったりの服を着て現れた。さて、4時間どうしよう? 

「部屋で休もうか?」

「うん、いいよ」

部屋に入ってお茶飲みながら雑談した。

「日本の男性ってどう思う?」

「好き。ナンパしてくれるから(笑)」

「向こうの男の子たちは、口説いてこないの?」

「しない」

「あなたの国ってマリファナ合法だしさ、若い人は皆マリファナ吸ってセックスしてるのかと思った」 

「男の子はマリファナ吸うとナマケモノになってセックスしないよ」

へえ、そうなんだ。

なんで向こうの男の子はナンパしないんだろう?と聞いたら、たぶん、ヨーロッパにはラブホが無いからだと思うとのこと。 
なるほど。

マックさんは、少し前に、

『ヨーロッパの北部では、セックスは半日から時には1日かけて準備をする、日本人が2時間でセックスを済ますと言ったらびっくりされた、日本人ももっと時間をかけてセックスするべきだ。』

という内容のネット記事を読んだ。

どうも腑に落ちなかったのだが、謎が解けた。ヨーロッパにはラブホが無いから、雰囲気作りに時間がかかる、ただそれだけのことなのだろう。

ラブホ万歳。 
 

そんな会話の間ずっと、女の子は、青く大きな吸い込まれるような瞳で、マックさんを見つめる。 

パーティー終わるまで我慢できないよ。

ブロンドの細くて長い髪に手を当てて、小さな顔を引き寄せる。マックさんは口にキスして、抱きかかえ、彼女をベッドへと運んだ。 

擬似恋愛系の女の子っていうのは、セックスが終わったあとの余韻が長い。

パーティー会場に向かう車中でも、彼女は、ずっとマックさんにぴったり寄り添って離れない。 

頭をマックさんの肩に寄せ、マックさんは優しくブロンドの髪を撫で続ける。

思わず自分の年を忘れるマックさん。

パーティー会場でもそれは続いた。

マックさんはソファに座った。女の子は寄り添って離れようとしない。

自分がパーティーに来ていることなんて気にも留めていないようだ。小さなブロンドの頭をマックさんの右肩に乗せたまま、ぴったりとくっついて眼をつむって動かない。 

マックさんだって愛おしい。もともとセックスの後は情が沸く性分なのだ。

もう、パーティーも人の目も、どうでも良くなってきた。この一瞬一瞬を記憶に刻み付けたい。

自分が、これまで頑張って仕事してきた全ては、この時のためのような気がしてきた・・先回書いた女の子2人との3Pのときにもそう思ったが。 

お店のダンサーたちは半裸で舞台で踊っている。参加者の仲間たちも盛り上がって一緒に立ち上がって踊っている。マックさんだけが、ソファに座ったまま、ブロンドの子に寄り添われて動けない。 
 

ああ、なんて気持ちいいんだ・・時が止まってほしい。


パーティーが終わった後は、もちろんまたホテルに帰って二回目のセックスだ。いまこうやって思い返しながら書いていても興奮が蘇る。素晴らしい夜だった。 

擬似恋愛系の女の子は、日本人にもときどきいるが、こんなに濃厚な子にはまだ会ったことがない。

しかし、これほど濃厚ではないが、いるにはいる。
 

そういう擬似恋愛系の子と巡り合うたびに、マックさんは、なんだか時を遡って青春を繰り返したような気持ちになる。 


擬似恋愛系の子は、マックさんにとってまさにタイムマシンなのだ。(続く)



マックさん

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