交際倶楽部の言葉学『死ぬほど切ない』その1

交際倶楽部の言葉学について

亡き父は愛書家だった。語学が堪能だった(英語・フランス語・スペイン語)からなのか世界中の辞書を収集していた。

今でも実家の書斎には辞書が山積して、一体何語の辞書なのかわからないものもある。さらに残念なことに、ジョーは父の語学能力を1 ミリも引き継がなかったので、利用することもなく埃を被った状態だ。

父によれば辞書の良し悪しは用例の質と量で決まるという。ここからも父の受け売りなのだが、「世界一の辞書」とされる「オックスフォード英語辞典」は本巻20巻、補遺3巻からなり、用例は250万近くにのぼる。

父に言わせるとこの辞書の評価が高いのは用例の質と量にあるという。「250万」と言われても全くピンとこないが、用例が豊富なことで、その言葉の意味や歴史的変遷が分かるというのが父の言い分だ。

まあ、一般的には実用性はないでしょうけど。それにしても父の収集目的が何だったのか、今一つわかりにくい。研究者ではなく、普通のサラリーマンで生涯を終えた人だったので。

さて今回の題名は「交際倶楽部の言葉学」。ジョーが交際倶楽部での活動を通じて思い浮かんだ言葉やフレーズを取り上げ、その具体的なシーンを再現したいと思う。

 

サクラちゃんとのデート

ジョーにとってはその言葉の用例のつもりで綴っていきたい。最初に取り上げるフレーズは「死ぬほど切ない」。
ジョーの活動ぶりを暗示させるがさてどうなりますやら。登場人物はもちろん

「サクラちゃん」だ。

一番のお気に入りサクラちゃんとは順調(?)にデートを重ねている。

サクラちゃんの楽チンなところはどんな店でも喜んでくれるので、あれこれ悩まず済むということだ。

食べ物の趣味が合うのも有り難い。いつも食事に合わせながらお酒を選択しているけれど、白ワインが一番好きであることもわかってきた。

酒量の方はハナから勝負にならないので、だいぶセーブして飲むようになった。
サクラちゃんの方もジョーに気を使って

「ジョーさんは、もう飲んじゃダメ」

乾杯

と言ってグラスを奪い取られることもある。50 歳を過ぎたおじさんが小娘にやられ放題だけど、そんな時のサクラちゃんはいつもの2倍可愛くなるので、仕方がない。その辺りで抵抗するのはとっくに諦めているジョーなのであった。

 

ジェネレーションギャップ

一方で最初は感じることのなかったジェネレーションギャップを感じることも会う回数と質に比例して大きくなってきた気がする。話題も豊富だし、頭の回転も早いからジョーが示す話題にも興味を示し、ちゃんと反応もしてくれる。

なにせ24歳にして趣味がお寺巡りだからジョーからの質問にも事欠かない。

こういう点でギャップを感じることはないが、それでもやはりサクラちゃんはイマドキの24 歳なのだ。

ジェネレーションギャップがないはずがない。
最初は敬語混じりだった口調も現在はほぼタメ口だし、言葉の端々に出る趣向は24歳女子だ。ジョーは娘が一人いるがほぼ同年代なので、娘と話している感覚なのだ。

いや娘の方が言葉遣いは少し丁寧かな?それだけ二人の距離が近くなったという言い方もできるかもしれないが、少し違和感を感じるジョーであった。

さて一番肝心なことをまだ書いていない。もちろん「あっち」の話だ。

サクラちゃんと会うときはいつも楽しいからたとえ「あっち」がなくても別に構わないとジョーは思い始めていた。

いけない傾向だ。

 

地獄へと通じる道を歩いている

そもそもジョーはお酒が入ると男性機能が機能しにくくなる。
ドーピングという方法も知っているし、実際に試すこともあるが、体質なのかお酒が入った場合にはほぼ効果を発揮しない。

サクラちゃんとデートする時のパターンとしてはサクラちゃんと

デート→お酒が進む→話が弾む→さらにお酒が進む→機能不全

この悪循環?の繰り返しだ。この負のスパイライルを打破する方法はいくつかあるだろうがジョーが取った方法は「お泊まり」だった。
お泊まりだったら時間はあるから酔いが冷めれば機能回復も期待できる。

いざとなったら「モーニングなんちゃら」という手もあるだろう(ホントか?)。

そこで善は急げとばかりサクラちゃんにラインで「〇〇日お泊まりできる?」と送った。

するとすぐに「ok」のスタンプがきた。

もちろんas soon as possible ホテルを予約。予約したホテルはサクラちゃんと最初に待ち合わせしたホテル。前回よりさらにランクアップ。当然お値段もアップして、ジョーの住む街なら、駅前高層マンションの家賃だ。

普通ならこんなことは絶対しないジョーだが何せサクラちゃんとの初夜だ。何の躊躇もなかった。普段は割と締り屋のジョーがこんな大盤振る舞いするんだから地獄へと通じる道を歩いているんでしょうねえ・・・。

 

ジョー、キスして

その日は人形町の和食屋さんで待ち合わせた。ちょっと前までこの地に出張時に泊まるとためのワンルームを持っていたので、人形町は東京の中では土地勘のある街だ。

その和食屋さんも敷居が高いわけでは決してないが、小さな店だから知らないと入れないだろう。サクラちゃんは人形町へはあまり来る機会がないらしく街の雰囲気も気に入ってくれたようだ。もともとサクラちゃんは隠れ家的なお店が大好きからこの店を確信的に選択した。それでも喜んでくれたらやっぱり嬉しい。

この和食屋さんは魚が売りの店で、素晴らしいお刺身を出してくれる。二人とも美味しい刺身が大好きだからいつも以上にお酒が進む。

スパークリングワインから始まって、白ワインを1 本軽くやっつけ、日本酒に切り替える。一見するといつもと同じ「負のスパイラル」だが今日は何と言ってもお泊まりなのだ。ジョーも構わず杯を重ねた。

ジョーとしては1 軒目で十分出来上がっていたけれど、サクラちゃんが

「バーで飲み直したい」

というのでジョーお気に入りのバーに向かった。ここは1階はカウンターだが2 階には個室もある。
当然2階に席を取る。赤ワインをボトルでとってグラスに注ぎ乾杯。
最初は向かい合って座っていたが、サクラちゃんの方から「そっちに行っていい?」というので横並びに座る。
ジョーの肩にしなだれかかり、いいムードになってきた。するとサクラちゃんが耳元で囁いた。

「ジョー、キスして」

小娘に主導権を握られ、翻弄される

初めて呼び捨てにされた。それだけでドキドキだ。ジョー、お前は中学生か!
と自分で自分にツッコミを入れる。しかし個室とはいえ一応店内だから、ジョーはサクラちゃんのほっぺたに軽くキスをした。

するとサクラちゃんは怒ったように
 

「そんなじゃダメでしょう」


と言いながら彼女の方からジョーの口を塞いだ。二人の舌が絡まる。
久しぶりの官能的なキスだ。しかし50歳を過ぎたおじさんが24歳の小娘に主導権を握られ、翻弄されるという図はどうなんだろう?

少なくとも美しくはないだろう。ジョーは今ひとつキスに集中できないでいた。なぜだろう?その理由を探るべく今の自分の気持ちを表す言葉を探した。

頭を巡らす。そして一つのフレーズがあるシーンと共に脳裏に浮かんできた。

 

「死ぬほど切ない」



昔の映画で恐縮だが1992 年日本公開のフランス映画「仕立て屋の恋」はジョーお気に入りの一つだ。

仕立て屋の恋

あらすじを概略すると、人づきあいが悪くみんなの嫌われ者であった主人公イール(仕事は仕立て屋)の由一の楽しみは向かいの部屋に暮らす、若く美しい女性アリスの姿を覗き見ることだった。

一方彼女の方は彼の気持ちを知りつつ、ある目的のためイールに接近し、彼を翻弄していく。

お決まりの?結末だがイールはアリスが自分には全く関心がなく、ある目的のためだけに接近し、利用されていることに気がつく。落胆するイール。しかし彼は彼女にむかってこう呟くのだ。

「笑うだろうが、僕は君を恨んでいない。死ぬほど切ないだけだ。でも構わない、君は喜びをくれた」

バーを出た後、タクシーで予約したホテルに向かった。車中で二人の指が絡み合う。ジョーの肩に寄りかかるサクラちゃん。甘い匂いがする。彼女髪の毛が頬に触れる。その感触は官能的だ。でもジョーの心はどこか沈んでいた。イールと同じように。
 

「サクラちゃん、君は喜びをくれた。でもその喜びは死ぬど切ないよ」


と心の中で呟くジョーであった。

 

このカテゴリーの関連記事